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IMPACT LAB

インパクトラボ

#09 研修の組み立て方―ファンドレイジング・コンサルタントへの道

ファンドレイジングのコンサルタントとしては、相手先の活動に寄り添い、事業活動の伴走支援を行うが、実際の場面では、必要に応じて、研修やワークショップ等の形で、単なる知識のインプットでなく、効果的な実践へ繋げるためのスキルの伝達やノウハウ養成を図っていく場面がある。

その中で前回にも書いたが、コロナの影響があって、対面の研修からオンラインへの移行が多くなってきている。例え同じ内容について話していても、話の仕方、カメラ目線での語り方、演出の仕方だけでなく、話し合いの持ち方、距離感の保ち方など研修効果を最大化するために様々な工夫を重ねており、もはや対面の研修とオンラインの研修では経験的には別物だととらえている。

困るのはその混成型で、オンラインだが、一部だけ対面が混ざっているとか、対面の研修をインターネット中継して、オンラインでも参加してもらうといった場合で、私たちが進める研修内容は単に「耳だけ動かして」聞いているだけの講義ではないため、どっちかずになってしまう。その場合、望ましいのは「別々に開催」するということだ。

「大人の参加者」という特質について考えてみる

大人の参加者に対して講義するためには、参加者の状態について、まず知らねばならない。

学習に当たる大人の参加者、いわば成人の状態=特質を定義するならば、青年期の終わりから老年期の間、自己の成長を完了した状態といえる。別の観点からみれば、成人とは自分で決断でき、責任をもった独立独歩の人、しかも自己決断がもたらす結果を予想できる能力を有する人である。

ほかに大人を特徴づけるものとして、体験を積んでいること、そしてこの体験を手がかりにして新しい発見と新しい学習の基礎に活かす能力を持っていることである。大人は非常に現実的で、自らの能力を現実に即して適用する能力を備えていて、それまでに得た体験を用いて現実に立ち向かい、そこに立ちはだかる問題の解決に活かす能力を持っている。強い動機付けがあれば、忍耐力も強く、一般的に物事を関連付けたり、分析したりする能力にも勝っている。

しかしそのような優れた側面とともに、劣っている面も持っている。例えば、過去の体験は必ずしも愉快なものばかりとは限らないし、またその全ても、もう一度体験したいと望んでいるばかりではない。(学校教育から数多くのことを受け取っていることは疑いないが、多くの大人たちにとって再び学校の授業を同じように受けたいとは思うかどうかは甚だ疑問で、授業に関連した思い出は苦いものであったり、時には拒絶反応も出てきたりする。)

加えて、大人は自分自身の中に、また自己成長の面でも、子ども時代のような豊かさを失いつつある。例えば、子どもは新しい発見へ繋がる好奇心を強く持っていて、自分を取り巻く世界のなかへ疲れを知らずに飛び込んで走り回るように、好奇心が行動の源泉となって、探し求めて、不思議に思い、観察や質問、実験を重ねていく。

しかし大人になるとその過程を終えて、身についた知識や常識がもたげてきて、探求する前に理屈を並べ立て、赴くままに動き回る必要はもうないと言わんばかりに、自分の境界線をはっきりと決めたりしている。また、青年期のように世界は自分に向かって開いていて、すべてに可能性があり、ありとあらゆることができるはずだ、どんなことでも変えることができるはずだと万能感をもち、恐れを知らず、すべてが成功する気持ちであるというようなことは、もはやなく、信じてもいない。経験によって、大人は現実な考え方を持つことで、同時に消極的、悲観的となっている危険も携えている。

最近の研究では、努力を継続すると大人になっても知的発達は、し続けると言われているが、たいていの大人はまさに成人する20歳前後で発達の頂点へ到達する。社会的に見れば成人としての資格を満たした状態であるので、よく言えば社会における役割を務め責任を果たすようになるが、別の面でいえば社会的適合への圧力が増大し、仕事や人間関係、社会的要請などに拘束されていく。「変化をもたらせること」を目的とした研修を実施するにあたっては、同時に参加者のものの考え方、さらにはその根本的な信念にさえも疑問を抱かせることとなる。これは本人にとっても脅威であるが、その苦痛に負けずに努力しづ付けた結果、素晴らしい進歩ないし効果が達成されることになる。

これらのような内的な変化が引き起こされてくるということについて、大人向けの研修を設定する際には配慮しなければならない。

研修において最も大切なのは「参加者を分析」して備えること

講師がトレーナーとして研修を運営する場面で、様々な研修技法を駆使して行うことは、決して華麗美辞な名演説を求めているのではない。参加者が必要としている研修ニーズを充分に満たし、学習目標を達成して、その後の行動変容を含めた強い余韻を持たせる「研修」となるように組み立てを考えねばならない。

特に、紹介される内容に共感を覚え、最前線を実感する「体験学習」が有効となる。それは、一方通行の講義ではなく、目的を持った「体験」であるが、反面、学習者と視線を同じにして進めることが多いため、見た目には「戯れている」ように映ってしまい、また参加者にも誤解を生じさせる可能性がある。そこで、しっかりとした学習目的と効果をもたらせると確信できるように、事前の準備を進めることが求められる。

学習の参加者

研修を進めていく上で、最も配慮しなければいけないことは、机やテーブルの配置でも、スライドの読みやすい文字サイズでも、講師の先導的な立ち振る舞いでもない。それは、研修ニーズを秘めた参加者をしっかりと分析することだ。相手の求めることに応じて、準備段階においては、できる限り参加者の情報を収集して、それに向けた準備を進めておく。それは、研修中においても同様で、予めの進行にとらわれることなく、研修途中であっても柔軟に内容は変更すべきであるし、さらに良くなるために改善をためらってはならない。ただしそれは、事前準備をしなくても、当日合わせでよいという意味ではない。

参加者ひとりひとりのことが判らない場合には、「平均的な」参加者像を想像してみることも時には役立つ。この想像は研修の前、あるいは研修中に修正しなければならないことがしばしばあるが、研修内容の設定や想定という出発点には役に立つ。

体験学習を計画する

体験学習の基本原理「行うことによって学ぶ」は単純なようで、その効果は奥深く持続するものである。体験学習は自己学習、集合研修、課題研究などいずれの場合でも導入することができるが、この手法の企画には、次のステップを用いる。

ステップ1

参加者を分析して、どのような背景を持ち、何を必要としているのか、学習ニーズがあるかを把握する。また、事業の目的から参加者に対して何を取り上げるべきなのかを把握する。

ステップ2

参加者が研修に参加して修了した際に、できるようになることは何か、この学習を通じて何を目指すか、つまり研修の目標を設定する。その目的は実現的で、有効かつ明白に定義されているかを確認する。

ステップ3

参加者は目標とした知識や技能をすでにどの程度、身に付けているのか、理解しているのか、彼らの心構えはどうかを把握する。また、彼らの理解の程度から、どれぐらい早く学ぶことができるか、考慮すべき学習上の難点はないかを考慮する。場合によっては、研修のためにグループを編成して、各グループは均質か、知識・年齢・性別・経験年数などのバランスはどうか、同程度の経験者群で構成しているので理解がしやすいか、などを検討する。

ステップ4

参加者が体験を通じて、気づいたり、認識を改めたり、できるようになるために練習したり、委縮しないでできるような状況を創り出す。目標を達成するために最適な研修手法、指導方法を選択する。その場合、利用可能時間はどれぐらいか、準備、説明、実技、評価などにどれぐらい時間配分できそうか、このセッションの前後にどのようなセッションが用意されているか、或いは開催場所、資材、人材、など入手できる条件・資源なども考慮する。場合によっては、打ち合わせを進めて、補うこともできる。

ステップ5

参加者が事前学習、練習したり、習熟できるようにする。それによって、研修の心構えを含めて、安全な進行も期待できる。そして、挙げられている目標を達成するために準備が整ってくる。

ステップ6

参加者がうまくできていることが何か、さらにどのような手段でもっと成果を向上することができるか。これらを明確に示すなどした、参加者への有益で建設的なフィードバックを提供する。場合によってはステップ5に戻ってまたステップ6を繰り返す。

ステップ7

一連の流れを振り返り、研修効果を固定化する。目標に応じた学習経験を作り上げることができたかを確認する。その中で適切な手法が選択されていたか、学習環境は最適化されていたかを確認することも含まれる。

講述要項

シラバスともいわれている。教育活動に関する詳細な計画書。教科・科目をはじめとする様々な教育活動について、要旨、目標と内容、使用教材、指導計画、指導方法、評価方法等が記載されている。上記の手順に沿って検討したものをまとめあげる書式と理解するとわかりやすい。上記のステップをへて、入念に練り上げた研修内容をさらに時間配分して、学習目的を達成できるように、研修手法の選択やどのようなアプローチをとるかなど、まさに計画した内容を記載する。
外部に募集をかけて研修を実施する場合には、これに加えて、講演内容の概略、講師プロフィールや写真なども必要となる。

シラバスの例

次回には、具体的な研修手法について紹介したい。


ファンドレイジング・コンサルタントへの道

▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割

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