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#23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認―ファンドレイジング・コンサルタントへの道

ファンドレイジングのコンサルタントのスタンスについては、このシリーズの冒頭数回でご紹介したが、相手の状況に応じて「始動者・促進者・解決策提供者・資源仲介者・代弁者」としての役割を果たすことが求められるとお伝えした。
活用できる資源として理事や事務局など団体の構成員が最大の担い手であるが、それ以外にも組織を支える支援者の発見や、客観的に組織の状態をみつめるための手法について今回は紹介していきたいと思う。

[参考]#01 コンサルタントの役割―ファンドレイジング・コンサルタントへの道

まず、こうした手法で現況を見つめ直すことの意義について紹介したい。

  1. 組織の状況は刻々と変化していくものであり、抽出できた図表についてはその時点での状況として時々、振り返ったり見直したりするとさらにその効果が高まる。
  2. たとえ当事者であっても、図表化することによって、客観的にかつ冷静に現況について見つめ直すことができ、その上で特徴としての良き所をさらに伸ばすことができ、また改善点について改めるきっかけとなる。
  3. 現状として顕在化しているものだけでなく、潜在化にある事象について知覚することで、活用資源の範囲を拡大させていくことが可能となる。

ステークホルダー・ピラミッド分析

周りを巻き込んでいくためには、具体的に団体の周りにはどんなひとがいるのかを冷静に見つめなおしてみることが大切。こうした利害関係者(ステークホルダー)を考えるときにまず団体の中心には理事やスタッフがいる。この同心円を俯瞰していると、その周りをずっと応援していただいている方が取り囲み、その周りを会員やボランティアなど継続して支えている方々が続く。

ステークホルダー図

どんな団体でもそのように具体的に考えることができるかが、この図を横から眺めるとちょうどピラミッドが積みあがっているようにもみえるので、ドナービラミット(ステークホルダー・ピラミッド)とも呼ばれる。これでは上に近いほど、人数は少なくなるが、関与している度合は高くなる。つまり「ファン度」が高まる。そして、図の中で実線で描かれている層は、団体から「見えている」「名前がわかっている」など何らかの形で顕在化している方々だが、点線で表されている層を発見することが大切だ。

ドナーピラミッド図

次に潜在層から支援者層へ成長している流れを把握することも大切で、
例えばメールマガジンを送りますよとメールアドレスを登録してもらった。イベントの案内を送ったら来場して、さらにそこで共感商品を購入した。次にボランティアデーがあると呼びかけたら参加してもらった。実は会員制度があるとパンフレットを渡すと、会員になった。今度、こういうブロジェクトを行うと案内したら、寄付してもらえた。ずっと寄付が何年も続いているので、そろそろと誘ったら理事になっていただけた。こういう成長のストーリーもどの組織でも必ずあるので、それを発見すること。
具体的にはファンドレイジングとはこうしたステップアップさせていくことになり、「ファン度」をライジング(高めていく)こと。従って、潜在的な層に対してと、すでに会員になっている層に対して、一段上がってもらうためのアプローチでは、方法もツールも異なってくる。それらを体系化づけて、会員が成長への道筋を立てられる仕組みを「ステップアップ戦略」と呼んでいる。

支援者としてステップアップはしていくが、実際の情報伝達ではその逆の流れとなる。例えば、新しい寄付プロジェクトを進める際など、事前広報では流れが逆になるので「人は説得でなく、納得で動く」ことを配慮した上で、以下の手順で働きかけていくと良い。

1)支援が集まってない状態では、いきなりに知らない人からの支援を得ることは難しい

2)まずはこれまでの繋がりが身近な方々へお願いして、応援してもらう

3)応援した人から、その周囲の方々へ支援の輪が広がるように情報拡散してもらう

4)支援が集まり始めるとプロジェクトに対する信頼性が増す

5)次第に、いままで見知らぬ人からも支援が集まりだす

6)支援者同志の連帯感、共感の連鎖が始まり、支援の輪が拡大する

SWOT分析

成長戦略を描くためには、内外環境にさらされている現状の団体の状態を冷静に見つめなおすSWOT分析がある。企業においてかってよく用いられた手法だったが、現在では組織が多様化して単一のモデルでは説明づけられなくなっているので、あまり多く使用されていなくなってきたが、ソーシャルセクターでは、まだまだ活用できる手法である。

SWOT分析(第1段階)

第一段階では、事業や組織におけるS(強み)とW(弱み)に、組織の持つ人材、資金、技術、IT環境、情報、拠点などの内部要因を当てはめる。また、組織を取り巻く経済状況、技術革新、規制、顧客や競合他社との関係、予測されるビジネスチャンスなどの外部環境は、O(機会)とT(脅威)に分類する。厳密には仕分けが難しい場合もあるが、原則として内部要因は「その組織内で改善することができるもの」、外部要因は「その企業・組織だけで変えることが不可能なもの」という目安を設けて考えてみる。

SWOT分析(第2段階)

第二段階では、第一段階で抽出した要因を「強み・弱み」「機会・脅威」を掛け合わせた表に当てはめて、それらを活かした戦略を検討する。例えば、外部要因の「機会」と内部要因の「強み」の二つの要因から”強みを活かす戦略”を導き出すというように、事業や組織の戦略策定や目標設定を行っていく。

ポジショニング分析

ポジショニングとは、競合している他団体や組織または提供するサービスや製品との違いを際立たせ、支援者や顧客に対してアピールできるような自団体の提供価値を決めるプロセスのことで、広告マーケティングの世界で大量生産の製品が市場に大量に出回るようになった1960年代頃から使用されるようになって、売り手市場から買い手市場への転換に伴い、消費者をめぐる企業間競争を有利に展開するための重要な手法として他の業界へも普及した。いわば、「フェアトレードチョコレートはAの製品でなければ」「困窮者支援は特徴的な支援を行っているBへの支援と決めている」というように、応援者の心の中に明確なポジションを構築する施策を意味している。

ポジショニング分析

また、ポジショニングとは、マーケティング戦略を策定するうえで用いられる代表的なフレームワーク「STP分析」のなかで最後に実施されるプロセスでもあり、以下の流れで自社製品を販売する対象や方法などを決めていくのが一般的だ。

S:セグメンテーション(英語:Segmentation)

市場の全体像を把握し、細分化する

T:ターゲティング(英語:Targeting)

細分化した市場の中から狙う市場を定める

P:ポジショニング(英語:Positioning)

競合他社との位置関係を決定する

組織としての活動分野や得意技があるとしても、自団体だけではその特徴は他と区別して認識してもらえるかは、わからない。そこで、自団体だけでなく、他の団体の特徴と対比させることによって、自分たちの団体の優位性が際立っているのかを確かめている。自らの姿は自分では知覚できないというのは、例えば自分の顔は正確には自分だけではどんな姿かたちなのかはわからない。鏡を見ないと確かめられない。同様に自分たちの組織の良さは他の組織の良さと比較しないと、同じなのか、違う領域なのかがわからない。

3C分析

3C分析とは、外部環境や競合の状況から事業の KSF(Key Success Factors:成功要因)を導きだして事業を成功に導くために用いられる。この3C コンセプトを考案したのは、経営コンサルタントでビジネスブレイクスルー大学学長でもある大前研一さんで、1982年に「The Mind of the strategist」によって広く知られるようになった。
その著作の中で「戦略的三角関係」として以下の紹介がある。

およそいかなると経営戦略の立案に当たっても、三者の主たるプレイヤーを考慮に入れなければならない。すなわち、当の企業=自社(Corporation)、顧客(Customer)、競合相手(Competitor)の三者である。

他との違いを考慮した上で、自団体が選ばれる理由を検討する。組織の「強み」とは、寄付者から見て「支援したい」と思える要素ともいえる。

3C分析

LAI分析

寄付可能性を判断する際に、よく用いられる手法である。ステークフォルダー分析で発見した支援候補者として可能性の高い法人に対して、『Linkage(つながり)』『Ability(能力)』『Interest(興味)』象限を絡めたLAI分析で、最適なアプローチ先を見つけていく。
また対象に応じて取り組みの方針を検討して、適切な訴求メッセージを考えておくことが重要。

LAI分析

ドナー(ペルソナ)ジャーニー分析

ペルソナとは企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデルのこと。軍事用語から派生した「ターゲット」が抽象的で多数層としてとらえるのに対して「ペルソナ」では「たった一人に向けて作られた商品」が実は「多くの人に支持される商品になる」という考え方(ペルソナ・マーケティング)のもとに「架空の消費者(=ペルソナ)」を設定し、そのペルソナに刺さる商品開発、プロモーション戦略に活かしていく。ペルソナ像は代表的な支援者へのインタビューなどを通じて浮かび上がらせていく。それを基にしたカスタマージャーニーを設計する場合は、製品・サービスの愛好者となる“旅”をする旅行者として検討する。具体的な生活者としての行動パターンと組織との接点面をもとにして、共感→情報収集→信頼→寄付→シェアといった段階的な関係性の構築などを想定していくことから、支援者へ一貫したメッセージや価値を持つ製品・サービスの伝達と提供へつながり、団体そのもの固定ファンの獲得にもつながっていく。

ドナージャーニー分析

ドナーレンジチャート分析

過去の寄付集めの事例から解析してみると、今回のチャレンジに対しての目標額を積み上げるための単価レンジをいくらにするのか、レンジごとにどれぐらいの寄付者が見込めるのかが推量できるようになってくる。具体的には、既存寄付者(ドナー)を分析するところから始め、単価レンジごとに何人が寄付してくれて、その累計額はいくらになるか、全体に対しての構成比はどれぐらいかを見極めていく。このような既存寄付者の分析を行うとさまざまなことが浮かび上がってくる。
不思議なことに多くの団体では、図のような「2割の寄付者が総額の8割の寄付をしている」といった、いわゆる「パレートの法則」のような分布をみせていることが多い。この2割の人たちを発見して、特別のフォローすることが大切。団体における「大規模寄付者」を定義する際にも使える。

※パレートの法則
「全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出している」というパレードの法則は、ソーシャルセクターに対する寄付においても「2割の寄付者が総額の8割の寄付をしている」という経験則にあてはまる。

ドナーレンジチャート

ドナーレンジチャートを基にして、今回のチャレンジについて目標額を積み上げて設定することができる。目標数を達成するためには、その単価レンジに見込み数としてどれぐらいが確保されていて、それ以外の潜在的な候補者がどれぐらいいるかを明らかにしていく。昨年度の大口寄付者としては、30万円の寄付を行った人が5人だったので、今年の目標達成には、30万円の寄付者は8人必要といったこととなる。具体的なアプローチとしてはまず、昨年の5人に継続して寄付してもらえるかを打診すること。その上で残り3名の候補者をリストアップする。実際には候補者は多めにあげておかないと実現性が低くなる。

こうした手法については、まずやってみて、どのような傾向が読み取れるかを何度も検討していくとより深く把握できるようになってくると共に、複数の手法をふわせて検討するとより効果的になる。

次回は、組織のビジョンについての見直しから中期アクションプランづくりについて解説する。


ファンドレイジング・コンサルタントへの道

▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割

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