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IMPACT LAB

インパクトラボ

#05 ヒアリングの技術を磨く―ファンドレイジング・コンサルタントへの道

ファンドレイジングのコンサルタントとして依頼を受けた際に、最も活用する技能のひとつが「ヒアリング」である。前回までの本稿において、話しかけ方(エレベータトーク)が大事なのは、実は相手に必要なことを話してもらえるように話を端的にまとめていると伝えたが、「聴く」「つかみとる」にも技術がある。

ヒアリングの現場から

「業務の進捗が著しく遅い事業所」では、全事業所の平均よりも残業も突出して多くなっていた。改善に着手した経営コンサルタントは「業務の進捗を順調にするにはどうしたらよいか」と直接的な表現でヒアリングは行わないものだ。彼は、事業所を構成しているメンバーに「残業を減らすために仕事の進め方で何か問題があるか」を尋ねた。

ここで大切なことは、各自の価値観のずれを極力排除することだ。「特に問題はない」と回答する方と「多くの仕事を抱えてとても忙しい」と回答する方がいるが、これらは決して事実として取り扱えない。残業が40時間でも「問題はない」と回答する場合があるし、残業が20時間でも「とても忙しい」と回答するからだ。

そこで実際の残業時間も調べて、回答と比較すると残業が突出していても「問題ない」という人がいたり、逆に残業が少ないのに「忙しい」と回答したりしていることがわかる。残業時間だけで業務量を判断することは適切ではなく、往々にして業務の進捗が早い人は、時間の使い方も工夫しているので、残業はさほどではなかったりするし、そもそも残業しないようにキープすることで、進捗のスピードと精度を高めている場合がある。

このように、同じものを見ていても、人によってとらえ方が異なってくる。コンサルタントの着眼点として「事実を彼らはどのようにして解釈しているか」をとらえて、「回答」と「事実」の差を作業内容、評価、生産性、課題の有無、事業所の雰囲気、人数構成などを考慮してヒアリングを通じて確認していく。そうして思い込みの「度合いや方向性」が浮彫りになっていくと解決策も違ったものになってくる。自分のところにばかり仕事が集中していると感じている人が、実は重要でない庶務に手間取っているだけであったり、残業数が少ないにも忙しいと感じている人は思い込みのいわゆる「バイアス」が強いので、実はそれほど仕事の成果が上がっていなかったりする。

いずれも従前にとらわれすぎていて物事を客観視してみる力が弱くなっているからだ。改善案を立てる際にはこの点に着目すること、すなわち事実と思われていることに着目して解決策を立ててしまうと、思い込みによって正しく作用しないため、たいていその解決策は機能しないものになってしまう。ヒアリングとは、その人を見極める技法でもあるのだ。

相手の主張を聴く技術 3What 3W 1Hで問題点を把握する

ヒアリングの実際

ヒアリングを通じて何を目指すのか。

ヒアリングを通じて把握することは、表面的な事象だけでなく、その背景にあるものを探ることだ。氷山をイメージしてほしい。見えているのはいわゆる「氷山の一角」で1割り程度しかなく、水面下では残り9割が存在している。しかし表面的にはそれだけしか見えないのだ。例えば、トライアスロンをやっている人にどんな大会に出てどんな記録を出しているとかではなく、なぜトライアスロンをやり始めたかを尋ねたほうが、相手を理解できる。

質問するにあたってフェイスブックの採用担当者が採用面接で最大限の結果を引き出すための質問が参考になる。

「これまでの仕事のキャリアで最高の一日をあげるとしたら、どんな日でしたか?」

この質問でほとんどの人が自分のキャリアにおけるハイライトを熱く語り出す。話が進むにつれ、フェイスブックが求める人材やポジションに、その人物がいかにフィットするかが見えてくる。話を聞いているうちに適任ではないと分かるケースもある。また、採用した人物が会社に長く貢献してくれるかは非常に気になる点だが、それを知るためには「好きな仕事に自分のどのくらいの時間を注ぐか?」という質問が良いらしい。70%以上という答えが返って来ればいい兆候だが、それ以下の場合は何らかの問題があると言う。

ヒアリングを進める上での4つの留意点

前提1. ユーザーは自分の欲しいものはわかっていない

1900年代前半に自動車の大量生産を可能にしたヘンリー・フォードは「(自動車がない時代で)もし顧客に何を望むのかを聞いたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」と言った。自動車がまだ生まれていない時代の人々にとっては、当然に自動車を想像することはできない。今あるものをもっとよくした程度の想像力に止まってしまう可能性が高い。

ユーザーは自分の欲しいもの、やりたいことを把握しているとは限らない。ユーザーの課題や欲しいもののヒントを引き出すことであり、ユーザーに「答え」を求めてはいけない。

前提2. ユーザーは文化的、時間的、物理的な制約を受けている

私たちは普段気づかないだけで、様々な制約の中で生活をしている。ユーザーは自分の中で答えを制限している場合があるため、ヒアリングを通じてそんなユーザーにかけられたバイアスを外して把握することが求められる。それによって本当にユーザーが望んでいるニーズを把握することができる。

例えば「魔法が使えたらどんなことをしてみたいですか?」という質問では、ユーザーの固定観念を外して、本当に求めている機能のヒントがでてくる場合がある。

前提3. ユーザーは過去に試して失敗したことを話すことを忘れてしまう

人は忘却することで新しい経験を受け取ることができる。人の脳は最近の出来事に注意を向けるため、過去の失敗は覚えていないことが多いからだ。あなたにとっても会話の途中で「例えばそれはどんな時?」と不意に問われると、なかなか思い出せなかった経験があるのでは。

そんな時は、「前回行った行動」について問いかけてあげるのが効果的だ。例えば美容室検索サイトならば「前回美容室選びをしたときはどのように探したか?」と問いかけ、最初のアクションから順々にどのボタンをクリックしてページを探していったか等を話してもらうことで過去を想起しやすくなってくる。これによりヒアリングする側も一緒にユーザーの課題やつまずきを発見していくことができる。

前提.4 ユーザーは使用しているツールやプロセスに詳しいからといって、仕組みを理解しているかはわからない

自分でそのサービスを使っているからといって、詳しい仕組みまで理解してなぜこうした行動をするのか、どういう感情が働いているのかまで自覚しているユーザーはほぼ存在しない。こそのためヒアリングでは表面的な答えに留まらず、それ以上の洞察を得るために、ユーザーを誘導する必要がある。

ユーザーの内面を知るためにはその行動に至った理由を具体的に尋ねるのではなく、その行動をとるまでのプロセスを振り返りながら、内面での心の動きを思い浮かべてもらうようにする。「その直前は何を考えていたか? どうしてこのような行動を起こしたのだと思うか?」答えにしばりつけて誘導するのではなく、行動の要因を正確に誘導して、ユーザーの行動を推察する。

このようにみていくと、ユーザーは自分で何を欲しているのかは語ることができないが、感情の動き、課題、行動パターンを見ていくことで発言の裏を読み取り、それらを手掛かりにすると、ユーザーの欲しているものは浮き上がってくる。

傾聴の技術

うまく聴き取りができなくてもあきらめない。その際に、重要となるのは「傾聴」のスキルだ。

スキルでの両輪は「受容する」×「質問する」

土台となるのは、うかがう姿勢:耳を傾けて聴く姿勢、心構え、目線、表情、足、メモをとる、など。
相手の立場に立って質問し、相手の気持ちや話の内容を受け止め理解したことを自分の言葉にして伝える。また今後も継続して情報提供を受ける希望を告げて、立ち去る。傾聴の態度を忘れずに。継続は力となる。

成功している人の語り方には特徴があって「現在」の成功している状況について語っていってもらうと、どこかの地点で突然に「過去」に遡って語りだすことがある。「今取り組んでいることを始めたきっかけは、学生時代にみたことがヒントとなった」といったことだ。そして現在から過去に遡って、そこから現在にむかっての脈々とした時間の流れが語られることになる。そしてその先にあるもの、これから取り組みしていきたい「未来」の話となる。

いままでの「現在」「過去」を伺っているからこそ「未来」についてもうなづけることになるだろう。傾聴を重ねながら、現在・過去・未来のどこに当たるかを意識するだけでも、相手に対する理解は整理されていく。


ファンドレイジング・コンサルタントへの道

▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割

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