ENGLISH

IMPACT LAB

インパクトラボ

#13 現状確認と課題解決―ファンドレイジング・コンサルタントへの道

本稿シリーズも一年が経過して、いよいよ本題ともいえる「事業計画の進め方」について紹介していくこととなった。現在、株式会社ファンドレックスでは「社会を変える」を実現する、をコーポレートテーマとして掲げ、組織のミッションへ真摯に向き合い、実現をサポートしていくため、数々のソリューションを提供している。

参考:ファンドレックスの提供するソリューション

中でも、顧客の状況やニーズに応じて最適なソリューションを提供するために、現状調査や可能性分析を基にして、事業戦略や事業計画の策定をサポートすることが大変多くなってきている。これは組織を預かる自分たちでも事業計画を立てて進めてきているが、数々のプロジェクトに携わった外部専門家の立場から見て、本来どうあるべきなのかを提案してほしいとご依頼いただくことに他ならない。こうしたご依頼は有難いことであるが、ファンドレイジングのコンサルタントとしては、毎回、成果を出すことにこだわり、実績を積み上げてきていて、その成果がさらに次の仕事を呼び寄せてきていると改めて感謝申し上げたい。

本稿でもそのエッセンスをお伝えしていくことで、ファンドレイジングのコンサルタントを目指す方々へそのポイントをご理解していただくと共に、改めて棚卸を通じて、業務の期待に対しても応えられるようにしていきたい。

今回は「事業計画の進め方」へ入る前に、そもそも「課題を解決する」ということについて共通理解するところから始めていきたい。

課題解決の方法

NPOマネジメントの基本は、本来あるべき姿、ありたい姿をしっかりと描き出し、現状との間にある差(=ギャップ)を埋めるために行っていく試行錯誤の連続だ。ありたい姿(「ミッション」や組織の目的・趣旨)と現状を比較した上で、その違いを埋める「問いかけ」と「努力」を繰り返すこと。極めて言えばこれだけなのだが、上記のギャップを埋めるためには、以下の手順をきちんと踏んでいくことが大切だ。そうしないと本質を見過ごすことでさえも起こってしまう。

課題解決の基本手順

  1. 問題を明確にする(明確化)
  2. 引き起こしている原因の把握(真因)
  3. 解決の優先順位づけ(着手順序)
  4. 原因への対策の実施(施策)
  5. 再発防止の実施(固定化)

書物は最初から最後へと読み進めていくものだが、マネジメントは逆である。
まず最初に最終目標をつかむことが先決で、次に、目標に到達するためにやらなければならないことを実行に移していくことである

『マネジメント展開の秘訣』ハロルド・グリーン

課題解決の方法について

1. 問題を明確にする

何を問題にするかは価値観によって異なる。NPOとして「あるべき姿」を明確に提示して「実際に起きている状態」を「裏付けるデータ」で示して「課題を認識」してもらう必要がある。数字は誰が見ても客観的に判断できるものだが、どのような数字を指標とするかは検討する必要がある。例えば、支援者の退会が多いように感じているとして、感覚的なだけでなく、全体数から見て、それはどれぐらいの割合なのかをまず把握する。退会するということ自体がショックなので、バイアスがかかってついつい大きく受け止めているという場合もあるだろう。一定数がいることが把握できたならば、その原因を探るために、例えば、団体の活動や情報発信と比較して、退会が多い期間には何かあったかとか、退会する方は入ってからどれぐらいの期間で退会されているか、退会の際の理由を聞いているならば、団体のミッションに関することか、個人の状況の変化(経済的なことか)、それはどんな割合なのかといった数字をつかんで、現状把握する必要がある。

2. 引き起こしている原因の把握

問題には必ず原因があり、因果関係でつながっている。原因がよくわからなかったり、原因を見落としていたり、間違ったものを原因としていると、根本的な解決につながらない。

永年の事業ネックになっている課題がある場合などでは、自分たちでも強く課題だと認識しているのにもかかわらず、手つかずのままで放置されている場合があったりする。聞いてみると、これまで何度も何とかしようと取り組んだが上手くいかなくてとか、あまりにも大きな課題すぎるので、とあきらめてしまっていたり、様々な要因が重なって固定化してしまっている場合などがある。こうした場合どうしたらよいか。私たちのようなファンドレイジングのコンサルタントとして他から入ってきて、前例にとらわれず新鮮な目でみるからこそ、改善が進むこともあるのだが、自分たちだけで行うためにはどうしたらよいのか、あきらめるしかないのか?

このような時に、参考となるのはトヨタなど知られる「改善活動」だ。
生産工場などの現場で「KAIZEN」として世界に知れ渡っている改善活動では、真の原因にたどり着くための方法として、「なぜ」を五回繰り返すという方法をとっている。「なぜ」「なぜ」「なぜ」・・・・を五回繰り返して考えていくことで、実は本当の原因は別のところにあったことが浮き彫りになってくる(真因の追求)からだ。なぜそれが起こっているか、真剣に向き合うことが必要であることがお分かりいだたけると思う。

製造工場で「違う種類のネジを組んだ」という不具合が発生した。その原因は?

なぜ⇒1、違う種類のネジを組んだ
なぜ⇒2、取り揃えを間違えた
なぜ⇒3、誤って隣りのネジを取った
なぜ⇒4、取った後の確認をしていない
なぜ⇒5、確認するという作業手順がない
なぜ・・・・・・

表面的には「違う種類のネジを組んだ」ということで、作業員の注意力散漫のようになってしまうが、なぜを5回繰り返していくことで、真因として「工程の中に確認する作業手順がない」ことがわかり、それを実施することで精度が上がり、誰がやっても間違いなく、再発防止にも繋がっていくことになるのだ。現状を確認して、確認して、真の原因はどこにあるかを見極めていくことで、解決が図れるようになるのだということを押さえておきたい。

いい点もちゃんと評価する

改善点を書き出している時に、いつも思い出すのは「人生の先輩」の言葉だ。
彼は、以前、自動車の開発に携わってこられており、事業運営と社会貢献の両立を見事に実践されていた。ある事業が終わって評価反省の機会に伺ったのだが、見直しの際に不具合を探して、それを改善するのだが、その時にちゃんと「いい点」も評価しないといけないと言う。それは「いい点」について同時に共通認識にしてしまわないと、改善の中でその部分も直してしまい、「いい点」が失われてしまうことになるからだ。クルマのような性能や安全性だけで魅力を語れないものは、特にそのようなアプローチが大事だったのだろう。

これらから学んで、現状把握する際には課題となるものをピックアップすると同時に、何がその団体や事業にとって良い点か、共感を集めているか、こだわっているところか等をしっかりと見据えることが大切だと思っている。

参考:特性要因図

課題と解決策の関係性を書き出したものを整理する技法の一つが特性要因図だ。原因→結果と矢印で示すことで関係性を表現するのが魚の骨に似ていることから「フィッシュボーン」と呼ばれたりする。

特性要因図の書き方

カードにかきだした原因と結果を整理して、まずは魚の頭の部分に問題となっている状況や解決したい課題を書き(STEP1)、大きな背骨を1本引く(STEP2)。次に、大きな要因を3~6個考え、それらを「大骨」の先端に書く(STEP3)。さらに大骨の要因を考えて、それを「小骨」に書く(STEP4)。最後にそれぞれの小骨に対して原因⇒結果と位置付けて書き込んでいく(STEP5)。骨の書き方を「原因→結果」とするのが正しいやり方で、決して葉脈のように枝分かれしているのではないことが注意点だ。

解決の優先順位づけ

原因がたくさん出たら、解決策の検討に取り掛かりたい。
取り組みしたいものの一覧を「ウィッシュリスト」と呼ぶが、すべてに取り組みすることはできない。限られた経営資源をどこに投下するか「選択と集中」を考慮する。絞り込みの基準は『ミッション(使命)・ビジョン・目標』であり、その次に重要度・緊急度を考えて、どれを優先するのか仕事を選択(プライオリティ)する。
この際に有効な方法がアメリカの元大統領ドワイト・アイゼンハワーが編み出したプライオリティの決定方法[アイゼンハワーの法則]と呼ばれるものだ。

緊急度と重要度の高低によって仕事の価値と処理方法を次の4つに分ける。

  1. 重要かつ緊急な仕事:自分で取り組み、すぐ処理をする。(Aランクの仕事)
  2. 重要だが緊急ではない仕事:さしあたって急ぐ必要はないが、計画を立てる。期限を決める。または管理しつつ人に任せる。(Bランクの仕事)
  3. 緊急だが、重要でない仕事:人に任せるか、重要度の低い仕事として片付ける。(Cランクの仕事)
  4. 重要でも緊急でもない仕事:とにかく排除する。(ゴミ箱に捨てる)

注意しておきたい、雑事優先の法則

人にはどうしても「急ぐ」という緊急性に引きずられてしまう傾向がある。例えば、大事な話をしていても、突然鳴った電話にあわてて出て(優先してしまう)、そのとき思考や会話が中断されてしまう。やれば即、解決するような簡単な事柄を後回しにすると忘れやすくなり、結果的に後々まで積み残してしまうことにもなってしまう。しかも、忘れるとクレームやトラブルの元になる。しかしながら、本来、NPOが取り組まなければならないことはじっくりとかまえて進めていかなければならないことが多いので、腰を据える気持ちで、原因追求に取り組み、冷静・客観的に掘り下げて、どこに手を打てば効果的であるかをしっかりと見定めていくようにしたい。

4. 原因への対策の実施

原因が特定されても、それをすぐには直接取り除くことが困難な場合もある。そのためには有効な課題(対策)を考え、選択肢を絞り込む。
例えば「会員減に歯止めをかける」というテーマがある際に、メンバーそれぞれに問いかけていくと

  • 新会員獲得増を図る
  • 既存会員への対応で減少を食い止める

といった具合に、実はメンバーがそれぞれ認識が違うことが判明することがある。認識が違うことから発信している情報もばらばらになってしまったりするので、会員拡大のためには、まずは認識合わせというか、情報発信の基盤整備をすることが大切だとわかってくる。するとそのための方策は、

  • 情報共有のための話し合いの場を設ける
  • 利用者の声を聞いて求めている情報は何かを把握する
  • みんなが活用できるパンフレットをつくる

などが挙げられて、効果的な施策が打てるようになってくる。
このように選択肢を絞り込む判断ができるためには、もちろん原因の解決を図れるものでありながら、それぞれのメリット・デメリットをあげて、メリットの多い選択肢を選び出していくとともに、費用・所要時間・設備・サービス・使いやすさなどを考慮することだ。

5. 再発防止の実施

改善策を行ったとしても、そのままでいるとしばらくしてまた元の木阿弥に戻ってしまうことがある。これはダイエットに成功したとしても、安心してまた不摂生が続くとリバウンドしてしまうことに似ている。NPOでは、時間不足、人手不足のなかで、課題解決への取り組みに追い回されているのが日常であり、その中で前向きに仕事へ取り組みすることにも繋がる。最も有効な手段はPDCAサイクルを的確に回していくことで、PDCAサイクル自体が問題の再発防止につながる。

進捗管理のためのPDCAサイクル

計画通りに物事が進んでいるか(進捗管理)を確認していると、もし問題が発生していれば早めに手を打てるようになる(問題発見・解決)。そして目標をひとつずつ達成することは団体として掲げている使命(社会的課題の解決)に近づいていくことになる。こうした変化の結果を継続して社会にアピールすることで「やればできる」自信がスタッフにもみなぎってくる。やり続けていくことによって、数多くの経営的な資源も集まり、自分たちだけではできなかったことがよく確実に、より早く実現していき、接点を持った周囲から認識も変わっていく。そうしてやがて社会は変わっていく。このためには、PDCAサイクルをきちんと回し続けて行くことでスパイラルアップしていく(特にCとAをしっかりと)

いわぱ、進捗管理の意義とは、仕事が決められた通りに行われているかどうかをチェックして、どこの部分が遅れているのかが把握でき、計画(予定)から外れていれば修正処置して、二度と計画から外れないように再発防止を施す効果がある。

そして、進捗管理をすることが当たり前になってくると、問題点に早く気付き、防止策に先手を打て、使命・ビジョンに対してどう達成してきたかの評価も早くできるようになってくる。
「改善の現場」での合言葉は「安・静・創・楽」。もっと安全・安心にできないか、もっと静かにならないか、創造的にできないか、楽にならないか、楽しくできないか、といった観点で改善を進めていく。

問題と課題について

問題とは「解決すべき事柄」である。

C.H.ケプラーとB.B.トレゴーは「問題解決」について「問題とは欲せざる結果であって、是正するか、取り除かねばならない事項である。問題はある特定の出来事、またはいくつかの出来事が組み合わさって発生する。偶然と言われるような因果関係をはっきりとさせる方向に近づけていくことこそ、問題解決者としての能力であると言える」と述べている。また解決すべき主題となるのが「課題」である。

これらを基にして整理していくと

【問題】

1 解答を求める問い。試験などの問い。2 批判・論争・研究などの対象となる事柄。解決すべき事柄。課題。3 困った事柄。厄介な事件。4 世間が関心をよせているもの。話題。

【課題】

1 与える、または、与えられる題目や主題。2 解決しなければならない問題。果たすべき仕事。

ということになるが、マネジメントにおける定義としては以下のようになる。
「問題や原因は多数存在しているが、その中でどれかを解決しようと意思を加えたものを課題という(つまり対策=課題と同義語になる)」

事業計画の立て方

様々な事業計画書の内容があるが、具体的にはこの3つの観点を軸にして考えていく。

  1. 「夢・ミッション・ビジョン」→ビジネスの使命、実現したい姿は何ですか?
  2. 「マーケティング」→事業のテーマ・内容をしっかりと設定しましょう
  3. 「受益者と支援者」→誰を受益者として設定し、誰を協力者にしていくか

次回には、具体的に事業計画を立てていく実務について紹介していきたい。


ファンドレイジング・コンサルタントへの道

▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割

関連記事

もっと見る