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IMPACT LAB

インパクトラボ

#08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用―ファンドレイジング・コンサルタントへの道

今はオンラインのセミナーが多いが、以前は年に数回、ビジネス系の交流会や、商工会などの主催セミナーに講師として呼んでいただくことがあった。いわゆる「商品づくりマーケティング」などのテーマである。日本ではサービスや商品がいきつくところまでいっていて、価格を安くしても売れない、品質を高めても売れないという最も難しいマーケティングになっている。そんな成熟社会の中、購買を後押しするものの一つに「誰かの役に立つ」があることから、地域における課題解決のための取り組みや、企業としての社会貢献に対する姿勢が問われるとお話しした。NPOに共感が大事と言ってきたが、むしろ営利企業の方こそ「共感マーケティング」が大切で、今では「コミュニティ・マーケティング」「ファン・マーケティング」と呼ばれる分野とも共通している。

コーズ・リレーテッド・マーケティング

自社の商品やサービスの提供を通じて、社会的課題の解決のために役立てるしくみを「コーズ・リレーテッド・マーケティング」(CRM)と呼ぶ。簡単に言うと「寄付付き商品」のことで、企業のビジネス手法として近年注目されてきた。収益の一部をNPOなどに寄付するをこと通じて行う社会貢献は、営利法人だからこそできることであり、自社の本業の強みを活かして社会を良くするために寄与することは、実は昔から行われてきた伝統的な方法でもある。

これまで企業の社会貢献と言えば「企業市民」としての「企業の社会的責任」(CSR)、企業も地域社会を構成する一員として果たさなければならない役割があると応分の負担が求められてきたが、コーズ・リレーテッド・マーケティングにおいてはもっと積極的に購買を促進させながら、社会課題の解決にも役割を担っていこうとしている。寄付付き商品は消費を通じて消費者に参加を呼びかけ、応援を見える形に、しかも気軽に個人が参加できる形で「購入」を促す仲立ちをしている。つまり寄付付き商品という具体的なものが媒介することによって、購入者は商品の魅力に加えて、能動的な姿勢を支持する「満足感」を付与される。商品を購入するという気軽な形で社会貢献への参加を促し、商品を手にするたびにその思いが深まっていく。「どうせ同じような商品を選ぶのだったら、どうせなら役に立つ商品を選ぶ方が気持ちいい」と消費者の心理に応えていくことにもつながる。

企業側のメリット

  • 寄付付き商品を通じて企業姿勢として共感を集め、消費者に支持されることができる。
  • 商品やサービスという顧客満足のための接点を強化するだけでは果たすことのできない、企業のイメージアップ、企業そのものへのファンづくりが可能になる。
  • 従って社会の一員として果たさなければいけない「社会的責任」から一歩進んで、むしろ魅力づくりとして活用することができ、しかも世の中のためにも役立つ。

これまでの企業の社会的責任(CSR)との違いは、コーズ・リレーテッド・マーケティングではマーケティング部門や営業部門など、企業の主要な部門が中心となっているところ。企業の中でもCSR室などは予算が限られているが、営業部門は主流で予算をたくさん持っているため、大量の広報などが展開されることが特徴となる。NPOと直接にそうした部門がやりとりすることも多くあり、NPO側にもビジネス的な視点が今まで以上に求められるようになってきている。

コーズ・リレーテッド・マーケティングの始まり

1983年アメリカン・エキスプレス社(アメックス)は、『今、アメックスカードに新規加入すると「自由の女神修復キャンペーン」にアメックスが寄付します』と訴えかけた。アメリカ人は愛国心が強いのでその心に火をつけ、なんと新規加入者は45%もアップ。また『カード利用ごとに1セントを寄付する』としたところ、カードの利用金額も3割近くアップ、当時の寄付総額は3か月間で170万ドル(約4億円)になったという。これ以来、欧米の企業の中で、コーズ・リレーテッド・マーケティングの手法が認知されて様々な展開が始まっていった。

日本にもなかったかというと、自由の女神修復キャンペーンに先立つ1979年から酒造メーカーの大手、宝酒造は新しいタイプの焼酎「純」を販売するにあたり、同社札幌工場が縁になって、北海道・豊平川にサケが遡上する活動を支援する「カムバックサーモン・キャンペーン」として市民活動支援としての継続的寄付を行っている。しかしながら、当時はこれを行っていたから売り上げが伸びたことが明確でなかったため、先駆的な取り組みが拡がらなかった。しかしながら、日米ともに同時期にこうした取り組みが展開され始めたことは特筆される。

日本においてコーズ・リレーテッド・マーケティングが定着するきっかけとなったのは、なんといっても、ミネラルウォーターのボルビックとユニセフが組んで行った「1ℓ for 10ℓ」のキャンペーンである。1リットルのミネラルウォーターを購入すると途上国の10リットルに相当する水供給事業に寄付されるプロジェクトで、売上の一部が寄付になる寄付付き商品が、このモノの売れない時代に売り上げを伸ばすことがわかったため、マーケティング的にも企業は関心を持ち、これ以降様々に進展していった。消費者の側も好きなものを買うという気軽な行為で、どうせ同じような商品を購入するのだったら、ちょっとでも何か社会のためになるものを買った方が「楽しい」「気持ちいい」という感覚が広がっていった。

ボルビックの成功を見て、日本の各社も自社製品でなんとか社会的に意義が取り組みができないかと模索し始めた。当初はユニセフなど著名な団体でないと役員会を通らず、そんな知らない地元の団体なんてと言われたそうだ。そこから進展して今では、連携先は他の企業と同じでは嫌だ。小さい団体であっても、事業との親和性があるならば、それが独自の取り組みになると言われるところまで変化してきている。

コーズ・リレーテッド・マーケティングの伸展

日本においても、コーズ・リレーテッド・マーケティングの様々な事例が展開されていった。例えば、アサヒビールは「うまい!を明日へ!」キャンペーンをたびたび開催していて、これは3か月ほどのキャンペーン期間中に同社のリーディングブランドである「スーパードライ」1本につき1円が環境保全など47都道府県それぞれの団体に寄付されて活用されるというもので、短期間にも関わらず、2-4億円程度が集まっていた。お客様が選んだ1本が自分の地域をよくするという新しい購入動機を提案していて、ビールという嗜好品を愉しむ中で、味わいだけでない満足感、すなわち「愛着ある地域に社会貢献している」ことを実感できるように設定していた。47都道府県それぞれの取り組みが異なるのも非常にユニークで、身近な課題解決は行政やNPOと一緒に取り組みしよう、本業の強みを活かし、自分たち以外と協働して課題解決に取り組もうとしていた。実際に、それぞれの地域の営業部門などが寄付金の贈呈に伺って、またそれを活かした環境保全の取り組みをする際に、同社の社員がボランティアとして参加していたそうだ。

コーズ・リレーテッド・マーケティングは大手ばかりが展開しているわけではなく、少し身近な事例を紹介しよう。トリノ冬季五輪にカーリング女子日本代表として「チーム青森」が出場した。日本の中でこれまであまり知られていなかった「カーリング」という競技が定着するきっかけとなった時だ。何とか彼女たちを支援しようと地元・青森県商工会議所食品部の会長が、青果業を営む自分の会社で応援できないかと考えだしたのが「カーリングバナナ」。自分でシールをつくりバナナに貼って売り出した。青森県と言えば「りんご王国」でしょうというツッコミにもめげずに選手育成のために頑張って販売して、バナナの売り上げの約1%程度が県カーリング協会に寄贈されたが、そこで何が起こったかというと、次の機会には地元商店街がそれぞれの店先にある商品を使って勝手に「カーリング○○」という商品を寄付付き商品として売り始めたのだった。いわば共感が地域に広がったと言える。

また千葉県銚子鉄道のぬれせんべいのエピソードはご存知だろうか。旅客数の減少で、銚子鉄道では、車両検査を受けることができないほど財政がひっ迫していた。それで何とか事業外収益を上げようと地域の名産であった「ぬれせんべい」を資金提供のためにと売り出した。それだけでは広まらないのでだが、この話に「2ちゃんねる」の住人達が飛びついた。いわゆる「電車男」のエピソードが生まれたところでもあり、オタクと鉄ちゃん(鉄道マニア)には共通項が多いこともあって、2ちゃんねるの住人たちが勝手にぬれせんべいを買おうと周りに呼び掛け始めたのだった。その結果、爆発的にぬれせんべいが売れ、ひなびたローカル線の魅力が一緒に語られ、存続へとつながった。今では旅客収入よりもせんべいの売上のほうが多くなって路線を持続している。

このように共感が元になって多くの支援を引き出していくことがある。その中で寄付付き商品は、応援を見える形、支援や支持を最もわかりやすい形、そして日常生活の中で気軽に参加できる形にして、「購入」を促す仲立ちとなる。応援という行為が寄付付き商品という目に見える具体的なものが媒介することによって、より具体的に印象付けられて、満足感を引き出しているのだ。商品が嗜好品だけに留まらず、ライフスタイルというか、生きる上での主張として、能動的な姿勢の表明として位置づけられているともとらえられる。

企業にとっての「寄付付き商品」の意義

まず企業のなかで「寄付付き商品」は商品ごとの差異が少ないコモディティ商品においては他の商品との差別化のために、高級品はさらなるイメージアップのために用いられている。

次にこうした機能を計画的に設計して、消費者と事業の延長線上で一体感を提供し、盛り上がり感を創り出している。まさにコーズ・リレーテッド・マーケティングの狙いでもある。

特に日本ではマーケットが成熟し、価格を下げても売れない、商品の品質を高めても売れないと最も難しい市場になっている中で、商品やサービスといった顧客満足のための接点を強化するだけでは効果的でなくなってしまった。寄付付き商品の設計を通じて、企業にとってはこのようなことに取り組んでいるなど姿勢を示し、企業そのものの強いファンづくりが求められてきている。

CSR=企業の社会的責任も、これまでの企業も企業市民として地域社会の一員としての役割を「果たさねばならない」というところから、むしろ魅力づくりとして積極的な攻めのCSR、そしてSDGsや持続可能な経営、ESG投資などへ移行しつつある。

寄付を受け取る団体にとっての意義

団体にとって最も大きな意味合いは、支援する企業との連携を打ち出すことで、自団体だけでは繋がることのできない全国的な企業の販売網を通じての露出が期待できることだ。ただし、寄付付き商品を通じて、消費者または企業が寄付する目的はあくまで「課題解決」のためであり、団体に対して寄付しているのではないというのがポイント。企業はそうした商品を通じて、企業姿勢として共感を集め、消費者に支持されることを期待している。したがって、課題解決の手段としての団体名であり、必ずしも団体の顔が見える関係ではないということだ。

人々の意識の変化を感じさせるもの

日本は世界的にもスゴイことのひとつに自動販売機の設置台数の多さがよく言われている。日本中では520万台あるそうで、だいたい国民20人に一台ぐらいの割合で存在しているということになる。また、その年間売り上げは5兆4000億円というので、国民一人当たり5万円近くも購入していることになる。販売の拠点として、欠くことができない自販機にも、最近はあちこちで寄付付きの自販機が増えてきた。地域をよくするとか、伝統芸能を育てるとか、中にはJリーグのチームを応援するといったのもある。中には、飲み物は130円とか150円の価格設定になっているのが多いので、おつりがでて、それを寄付できる「寄付ボタン」付きのものまであり、ちょうどコンビニのレジ横に募金箱が置いてある感覚だ。

公益財団法人日本財団は、「夢の貯金箱」の名称で寄付付き自動販売機の設置を行っていて、1本に10円、集められた寄付金は「大切な命」をテーマに社会貢献するNPOに100%支出している。自販機の前面には広告スペースがあるので、それを活かして寄せられた寄付金をこのような形で役立てさせていただいたというような報告にも使っている。またマルチメディア機能があるので、購入のお礼を音声で伝えたり、映像を流したり、テロップを出したりなどいろいろな情報発信の組み合わせもされている。

飲みたいから飲む等、自動販売機を使う理由はいろいろとあるが、それが毎月、毎月支援として具体的に結果が見えてくる。あっこんなことで社会貢献できるんだ、参加できるんだというきっかけや小さな満足感を提供していく。ハードルが低いということは誰でも無理なく参加することができ、だから続けていくことが可能になる。これも広い意味では、機能の寄付付き商品としてコーズ・リレーテッド・マーケティングの一つに位置付けられる。

これからはジュースを飲んだのがきっかけで、そこから興味を持って、活動に参加したという人もきっとあらわれてくる。販売機のご担当者の方に伺うと、寄付金付きの自販機とそうでない自販機が2台並んでいたら、どちらのほうが、売り上げが大きいかというと、やはり寄付金付きのほうが大きいとのこと。ここでも「どうせなら、役に立ったほうが気持ちいい」という心理が働いているように感じる。


ファンドレイジング・コンサルタントへの道

▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割

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