ENGLISH

IMPACT LAB

インパクトラボ

博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-3:ミッションとファンドレイジング

前回はメトロポリタン歌劇場のファンドレイジングの事例をご紹介しましたが、今回は、地域史に特化した独特な歴史博物館である、「シカゴ歴史博物館」のファンドレイジング事例を紹介します。

シカゴという都市の歴史的変遷、文化的成長、そして社会的動きを詳細に記録し展示している少し特異な博物館ですが、教育的取り組みにも力を入れており、地域社会との結びつきを重視し地域に根差した博物館として世界的に認識されています。ファンドレイジングの成功例としても注目され、活動は日本の文化施設でも参考になるものです。

シカゴ歴史博物館の特徴とファンドレイジング

シカゴ歴史博物館は、シカゴとアメリカの歴史に焦点を当てた博物館で、幅広い展示とプログラムを通じて、訪問者に教育的体験を提供しています。この博物館は、シカゴの文化的・社会的遺産を保存し、展示することで、地域社会とその訪問者に対して貴重な学びの場を提供しています。歴史、文化、そして市民権といった様々なテーマを探ることができるものとなっています。サイトでは、寄付制度の説明と共に、博物館の活動への参加を呼び掛けています。(https://www.chicagohistory.org/join-and-give/

表彰制度と寄付と名誉感

シカゴ歴史博物館の特徴的なファンドレイジング策としては、表彰制度が挙げられます。

博物館では、シカゴの文化、市民生活、ビジネス、芸術に対する個人や企業の貢献を称えるために、毎年「Making History Awards」を開催しています。科学、医療、技術の功績である「エンリコ・フェルミ賞」や、市民リーダーシップにおける「バーサ・オノレ・パーマー賞」などカテゴリ別の賞があり、1995年の創設以来、144人以上の個人と13の企業が表彰されています​ ​。

またプランド・ギビング(遺贈・相続)では、エイブラハムリンカーンが遺贈寄付をしたという記録が残っていることから、大統領と同じ行為として讃えられなど、敬意を表す独自の方法を展開しています。

コミュニティ活動と寄付と仲間感

シカゴ歴史博物館の「ギルド」制度は、1948年に設立された組織で、教育、サービス、ファンドレイジングを通じて博物館を支援することを使命としています。ギルドは、多くの主要プロジェクトに対して寄付集めや資金提供を行い、これまでに200万ドル以上を寄付してきました。200人以上のメンバーが所属し、地元の学校や団体と連携した月次プログラム、年次寄付、ファンドレイジングイベントを通じて博物館を支援しています。

コスチューム連盟という組織制度は、歴史的なファッションコレクションの保護、保存、解釈、展示を支援し、衣服を通じて歴史を理解するための活動を促進することを目的としています。連盟は、特別な記念展示会やイベントを通じてファンドレイジングを行い、その資金をコレクションの管理と展示に充てています​。

ミッションと寄付

シカゴ歴史博物館のミッションは、「シカゴの歴史と人を繋ぎ、さらに人同士を繋ぐ。そのために、学び、インスピレーション、市民参加の機会を提供する」となっています。それ故、ギルドやコスチューム連盟のような活動に力を入れ、ファンドレイジングとしての要素も含めつつも、コミュニティ内のつながりを強化し、シカゴの文化風景に活気をもたらすことに注力しています。

地域社会とのつながりを深め、博物館としての価値を活かした独自のニーズに合わせた戦略を展開していますが、その一環としてファンドレイジングがあるのです。

デジタル化

シカゴ歴史博物館でも、メトロポリタン歌劇場のオンライン配信のように、デジタル化にも取り組んでいます。地域だけでなくより幅広い観客にリーチすることで、文化的価値を現代社会に広げようとしています。博物館の豊富なコレクションと展示をデジタルプラットフォームを通じて広く公開し、世界中の人々がオンラインで資料や展示を閲覧できるようになっており、公式ウェブサイトやソーシャルメディアを活用した情報の共有やバーチャルツアーの提供を行っています。

これらの取り組みにより、博物館は物理的な空間の制限を超え、より多くの人々に対して教育的な価値を提供してもいます。

事例からの学び

メトロポリタン歌劇場とシカゴ歴史博物館の成功事例から学べることは、ファンドレイジングの戦略と地域社会との関わりが、文化施設の持続可能性を高める鍵になるということです。日本の博物館も、これらの事例を参考にして、独自のニーズと地域コミュニティの特性に合わせた戦略を展開することができます。地域社会の中で文化的なアイデンティティを高めることで、博物館はただの展示場所以上のもの、コミュニティの絆を強化する「場」となるのではないでしょうか。

固い単語で表現してしまいましたが、実行のスタートは、ただ地域の集まりに参加する、地域の集まりに場を提供する、そんなことでも良いと思います。

文化遺産の保全と普及には、しっかりとした財政基盤を築く必要があります。日々変わる展示物を保全しながら、博物館の成長のための資金調達の取り組みが、日本でも可能であると思います。ご紹介した事例を参考にして、博物館が地域社会にとってかけがえのない存在であり続け、多くの人が通う場となる策につながることを祈っています。

(執筆協力 ファンドレックス 相澤順也)


博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは

#1 博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-1
#2 博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-2
#3 博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-3

関連記事

もっと見る