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インパクトラボ

#22 ソーシャルセクターの組織と役割―ファンドレイジング・コンサルタントへの道

前回、ファンドレイジングの接点面だけを改善しても上手くいかないことがあり、根本的に経営基盤を見直していく必要性について取り上げ、団体に最適となる手法や技法の改善提案だけに留まらず、ファンドレイジングを組織全体で進めていけるように取り組みの視座を拡げていくことが大切であることを紹介した。このことは、伴走支援に当たるコンサルティングの要でもある。

また本稿「コンサルタントへの道」シリーズからお分かりいただきたいことは、どんなに正しいことを言っていても、相手の心を動かすことができなければ、明日を動かすことへは繋がってこないということだ。本当に実現したいことがあるのであれば、自らはどのように思われても、泥にまみれて時には低姿勢で謝ったりお願いしたりしながらも、胸の内にある実現したい姿へ近づけていくために、自らを引いてでも取り組みを前進させていくことが必要となってくる。100の団体には100通りのやり方があるので、教科書的な典型的なパターンや得意技にばかり押し込めずに何が最適で最善かを見極めて、進めていくこととなる。

そうした個に応じた対応をアレンジできるようになるためには、最も基本的な知識としてソーシャルセクターにおける組織のありかたや機能について身に着けておくことが必要となる。

ソーシャルセクターにおける組織の役割と期待

社会的課題に取り組むソーシャルセクターには、法人格で言えば、NPO法人や株式会社、一般社団法人など多様な形態があるが、事業を通じて多彩な資源や支援を集めて社会的課題の解決に寄与することに取り組んでいる。その中で特に非営利組織では、経営と執行を担う機関として理事会や事務局が設置されていて、定款などで役割は決められているが、ここでは「果たすべき役割」と「期待されている機能」についてみていきたい。

理事会の役割

理事会の果たす基本的な役割は3つ。

  1. ビジョンの立案
  2. 資金調達
  3. 事務局長・事務局の業績評価と事務局長の選任

につきるが、詳細にみていくと次の通りとなる。

NPO理事会の基本的役割

  1. 組織のミッションと目的を明確にする
  2. 経営責任者の選任
  3. 経営責任者を支援し、その業績を評価する
  4. 組織の効果的な計画を立案する
  5. 適切な経営資源(人・モノ・金・情報、技術ノウハウ)の確保
  6. 経営資源を効果的に管理、運営する
  7. 組織の活動プログラムとサービスを定義し、見守り、強化する
  8. 組織の社会的地位を強化する
  9. 組織の信頼を高め、維持すると共に理事会の業績を自己評価する
  10. 新しい理事を発掘、育成する

理事会の期待される機能

理事会に期待されることには、1)方向付け、2)組織の成長を促す、3)ガバナンス(統治)の3つがある。

  1. 方向付け
    中長期計画の意思決定(そのために外部理事などバランスのとれた構成が必要)
  2. 組織の成長をサポート
    資金の獲得、人脈を駆使したり、顔役として対外的な役割
  3. ガバナンス(活動と組織の公益性を保護)
    組織・活動の評価、事務局長の選定、事務局の業務監督、意思決定の実施の監視、お金の管理

これらの期待される役割を認識したうえで、機関として果たすべき機能は次のようになる。

理事会が果たすべき機能

  1. 組織の目的と将来像を決める
  2. 事務局長を選定してサポートする
  3. 事務局の活動を評価する
  4. 長期にわたる計画を策定する
  5. 団体の事業とサービスの計画を承認する
  6. 財政と人事を推し進める
  7. 財源をあたる
  8. 団体の社会でのイメージ向上につとめる
  9. 理事会の成果を最大限に引き出せるようにつとめる
  10. 法律の遵守をチェックする

理事会を構成する理事と支える事務局に期待される役割

理事会を構成する理事は理事会の機能と期待される役割について理解した上で、理事個人として期待されることを熟知して、自らの能力を最大限に活用してその履行に取り掛かる必要がある。ここでは一般的な理事への期待について述べるが、これ以外にも組織から特定分野の伸長や改善など業務執行に当たっての期待が加わる。

理事個人に期待されること

  • それぞれが持つ知識や技術、ネットワークを活用して、団体が目的を果たすことができるように最大限の努力をする。
  • 事務局の事業運営が適正に行われているかを監視し、社会に報告する説明責任(アカウンタビリティ)を持つ。
  • お金のために理事になるのでは社会のための意思決定ができなくなるので、個人の利益でなく団体の利益のために働く強い倫理観をもつ

このことは例えば、理事の一人が経営する建設業者に無条件で団体の仕事を発注することは「利益相反」(自分の利益のために組織の利益を顧みない行為)と考えられ、損害が生じた時にはその理事は賠償義務がある。建設は入札で審査し、その一切の意思決定から、その理事は身を引くことが必要。

最も避けておかなければいけないことは、理事個人に期待される能力や資質があるのにも関わらず、不作為によって、果たさなければならない責務を履行しないことだ。いまは少なくなったが、かっては名誉職的に各界を代表する著名な人々の羅列で団体のネームバリューを売り出していたところもあったが、現在の非営利組織では、もはや「お飾りの」理事では到底その役割を果たすことができず、しっかりと実務を実行する「業務執行理事」があつまっていないと前進させていくことはできないと言える。

事務局に期待されること

理事会の意思決定も、実際に執行する事務局に事業を回す能力がなければ、前進しない。期待される役割をよく知り、理事会と一体となって事業を実際に進めていくこととなる。

事務局の役割と期待

1)組織の年間目標を達成する

PDCAサイクルを回す役割で、当初計画したことが社会的環境の変化を受けた場合や成果が出にくい手法を選択した場合などに早期に対処して、改善効果を出していくことで、計画遅れを最小限にとどめ、ダメージを軽減する等、運営をスムーズにすることへ繋がる。

2)組織を推進する事業体制を確立する

組織運営面での目標を達成する業務体制の確立、事業での顧客満足度を高める、会員継続率の維持、人材のスキルアップなど理事会と連携する分担しているが力を合わせることで成果を生み出していく。

3)事業の質的向上と継続維持する

サービス・事業を効果的に運営するニーズを把握して適切な目標を設定し進捗管理する。ボランティアの育成、予算のたたき台をつくる。また業務を管理するスタッフ・ボランティアの配置、それぞれの目標進捗管理、オフィス維持など日々の活動を回していく。

4)持続可能な成長と組織の維持

資金を調達し、資金源を開発する多様でバランスの良い資金源を確保する。

5)財務・会計を管理する

会計基準を満たした決算の取り組み、お金の取り扱いのルール作りなどを進める。

6)パートナーシップの確立

外部と連携し目標を達成する他の団体、企業、行政と連携して効果的に展開するためのパートナーとしてのすべてを担う。

なぜ未来ビジョンが必要となるのか?

理事会の役割の一つとして「中長期計画」の意志決定をあげたが、これにはいくつかの理由がある。

[参考]#14 事業計画をたてる

以前の記事で事業計画を構成する要素について言及したが、当該年度や次年度など現状の延長線上にプランを練ること「フォーキャスティング」を続けていると、組織の成長は現実的、実現可能な範囲での目標設定となってしまい、いわゆる「小さくまとまってしまう」。そこで現状からすこし視点を拡大して、現状の延長線上でなく理想的な姿、本来あるべき像、担うべき使命などを加味して実現したい数年後の未来予想図を描き出すこととなる。またそこから逆算して、だった今は何をすべきかと順序を組み立てていく未来から必要な「バックキャスティング」での発想が求められることが第一に挙げられる。

第二に実現可能な中長期計画には周囲を引き付けて一緒にその未来を実現していこうとする力が働く。ボランティアと寄付は社会貢献(フィランソロピー)の両輪として自らが参加して時間と能力を提供する「ボランティア」と、相手を信じて託する「寄付」はどちらも自ら進んで参加するところに特徴がある。そのなかでも、とりわけ寄付は、緊急支援など、現在に対してのものもあるが、今現在というよりも、少し未来に対して託される。未来に対して寄付するとは「こんなことが実現したらいいよね」といった夢に対して行われ「これを解決するために皆さんの力が必要だ」と訴えかけて、その結果、信じて託されるといった流れになる。

そして第三にビジョンとして描かれている未来の「実現したらいいな」は文字通り「わくわくする」ことに繋がるからだ。これを単に「中長期計画」というと数年後にこんなことが予定されているという、行事予定のような感じになってしまうが、それを見て「わくわく」してくる計画になっているか、そこに向けて団体が成長していくプランを描き出せているかを評価軸にする必要がある。言い換えれば「わくわくする中長期計画」になっているかで見直して、もっと「わくわくする」ものにするにはどうすればよいかを考えていくこととなる。

こうした練られたビジョンは、だからこそ「夢を一緒に実現しよう」と寄付等を託されるようになってくる。寄付は相手に「寄り添って」思いを「付する」もの。逆に言うと、計画を立てたときにわくわくしているかを確認して、組織の中心にいる自分たちがわくわくしないものは、絶対に外へは拡がっていかない。わくわくする中長期計画=成長戦略で「夢の実現」を訴え続けていくと「夢の片棒をかつがせてもらいます」という人が必ず現れてくる。

こうした成長戦略を描く際のコツは、事業の成長/組織の成長/財源の成長を三位一体のものとして、融合させて考えていくこと。成長戦略を描くことによって、3-5年後の到達イメージが明確となって、関係者の意識の統一や動機付けとなるだけでなく、先手を打って、経営資源を有効配分して、効率的なマネジメントを図れるようになる。またその作成する過程においては、計画の策定・評価のプロセスにおいて組織内部は大いに成長していく。また、目指す方向性がはっきりしているので、発信力、メッセージ力にも自信が生まれてくるであろう。

ミッション・ビジョンをもう一度確かめよう

「ミッション」は具体的に何を目指していくのかが理解できる明確な指標で「使命」とも表現され、組織としての基軸、団体のあるべき姿、目的と存在意義を端的に表現している。そして「ビジョン」は近未来に到達したい将来像で、ミッションがやや抽象的であるのに対して、ビジョンは具体的な姿を描きだしている。わかりやすく明確なビジョンは、メンバーを鼓舞し、勇気づける機能を果たす。聞いていてワクワクする心躍る未来構想、数年先に到達するゴールイメージであるからこそ、牽引力を持つ。

そのため、そのビジョンを創り出していくプロセスに中核となるスタッフに大いにかかわってもらうことが大切で、それによって組織の推進力となり、知っているだけでなく、理解し、納得して、そのビジョンに向けて行動していくようになる。組織の強みや現状をふまえた上で、枠を越え、夢やロマンに溢れ、現実的でわかりやすいビジョンを創り出していく真の意味はここにある。

パーパス経営とは

最近では、そこからさらに進んで、自社の存在意義を明確化し、社会に与える価値を示す「パーパス」が企業経営では注目され「パーパス経営」とも言われている。purpose(パーパス)とは「目的・意図・意思」などの意味をもち、そこから「存在意義」や「志」などの考え方に広がった。「ミッション」「ビジョン」が未来に向けて実現すべき姿であるのに対し、「パーパス」は今自分たちが何のために存在しているのか示すものだという点が異なっている。不確実性を帯びた時代背景の中で、社会に対して貢献したいと考える企業や組織が増え、自社の存在意義を明確にする「パーパス」を重視する傾向になってきている。

次回は組織を支える支援者の発見や組織の状態をみつめる手法について解説する。


ファンドレイジング・コンサルタントへの道

▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割

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