コミュニケーション
#20 効果の高い事業紹介のコツ―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
過去2回にわたって、ファンドレイジング・イベントの主催とイベント出展での対応方法などを「コツシリーズ」として紹介してきたが、今回はその3回目として、実際に話しかけて呼びかけする際に、効果の高い事業紹介・団体紹介のコツをお伝えしたい。
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対面紹介手法(コンパクト・ダイアログ)
駅前やショッピングモールなどで、団体の旗やパネルを掲げて、所属を明示するビブスやジャンバーなどをまとって、道行く人に声掛けしている職員の姿をあなたもご欄になったことがあるかもしれない。これらはF2F(Face to face)とか呼ばれているが、私たちは、ファンドレイジングの研修の一環で「コンパクト・ダイアログ」という名称で手法を紹介している。本稿の#03で紹介した「エレベータートーク」の延長線上に位置づけており、1分間での効果的な話法が身に着いたら、それをベースにして、小道具として説明用のファイルを活用しながら、相手の関心に応じて「話し分ける」ことを伝えている。
これは、街ゆく人々、一人ひとりと直接対話で、団体の取り組む課題やその活動を紹介して、財政支援を含めた団体への協力を依頼する資金調達の手法として「ダイレクト・ダイアログ」とも言われている。1995年にオーストラリアでグリーンピースが実施したのが始まりで3年間で10万人以上のサポーターを獲得し、現在では欧米の多くのNGOで採用され、日本でも2005年あたりから広まってきている。
参考:エレベータートーク
ダイレクト・ダイアログの実際では、対話に使う小道具材料として、クリアファイルや紙芝居などを用いて、関係づくり、課題の説明、解決策の提示、支援依頼の各段階を説明できる内容等を写真とメッセージ、イラストなどで視覚的な変化をつけて構成する。対話によって相手に「情報」「やる気」「踏み出す勇気」を提供する。この時に大切なことは「相手に応じて変化される」ことで、クリアファイルを使ってのストーリー展開を相手の興味関心に応じて変化させることである。ついつい、クリアファイルの資料を「すべて紹介」したくなるが、相手が関心分野に応じて必要なポイントだけを紹介するようにすることだ。
特に相手がデータなど論理的思考を好む(左脳型)か、感動的な話に強く反応する(右脳型)に応じて活用できるようにする。これらは出だしの話しかけでキーワードなどを入れ込み、最初の1-2分でのつかむようにするとよい。特にクイズのような問いかけをいれると振り向いていただきやすくなる。また支援依頼(相手に何をお願いするか)から逆算して構成するとよい。
- 右脳型⇒人の話など情緒的な内容
- 左脳型⇒データを根拠に客観的なしくみの話へ
コンパクト・ダイアログをステップアップさせるためのヒント集
クイズと数字の活用
いきなり具体的な本題の前に、気軽に呼び止めることができる。その際に、一人だけに話しかけていても周囲のみんなへ呼びかけてもらったり、あえてどこどこから来た人など、気軽に参加できる話題で手を挙げてもらうなどすると参加しやすくなる。
参加することによって、自分事ではないと傍目で眺めていたのが、主体的にとらえはじめる。また劇的な質問を投げかけると、その答えがわかるまで関心を引き付けて、関心を引っ張ることができる。そして「世界を100人の村に置き換えると」などの具体的な数字、社会課題を表す数字は、それだけで記憶に残る。
印象深くイメージを残す
目の前であたかも拡がっているかのようなエピソード、インパクトあるキーワード、強くイメージが植え付けられたものは思わず人へ伝えたくなってしまう。そうしたことを狙って、イラスト/写真の多様して作成したもので、印象に残っているものは何か?たくさんあればいいというものではなく、シンボリックな、象徴的な印象を与えるものを良く選って選び出し、入れ込んでいるがポイントとなる。
説明は相手に応じて、アレンジできているか
相手に応じて、ファイルノートのページをとばす。相手に応じて、一枚をじっくり話す。このように緩急をつけて小道具をフル活用する。コンパクト・ダイアログの研修をしていて感じるのは、つくったものを最初から最後まで全部、紹介しないと気が済まない人が多いことだ。ファイルは話す原稿をつくるのではない、あくまで説明用の資料として相手の関心に応じて活用できているか。また多様な対応ができるように、パンフレット、申込用紙、振込用紙、マンスリーサポーターの記入用紙を完備して、どんな質問でも対応できるようにしておく。特に最新の内容にアップデートしておくというのも大切だ。
解決策を伝えるために必要な5つのポイント
寄付するための理由を相手へ正しく伝えて、選択するために必要な情報をプレゼントする。いわば、その問題を解決する手段として、自分たちの事業や団体を位置付けて、何を伝えるべきかを逆算して考えて話を構成する。
解決策を伝えるために必要な5つのポイント
1)解決策の評価基準を理解する
- 共感軸(活動領域、ミッションビジョン、団体に関わる人のイメージ)
- 実現軸(過去の成果、現在のリソース投入、今後の計画)
- 信頼軸(受賞歴、認証、第三者評価、記事掲載、ネットワーク)
2) 解決策の有効性を伝える
- 団体の活動はたしかに社会の課題解決へ関連づいていることがわかる
- 特に根本解決へと繋がっているから意義あることである。
3)アピールポイントはどこか
- 事実として、分野や地域などでの(No.1 Only1)をアピールする。
- もしくは受け手側が認知している価値をアピールする。
- 往々にして、自分たちだけでは価値が伝わらないので、他の団体や取り組みとの比較で優位性を見せていく(次項の「ポジショニング」参照)。
4)他との関係性はどうか
- 比較対象とするものとの位置づけ(ポジショニング)
- 大きな流れとの連合や連帯、所属感が安心を生み出す(ネットワーク)
- 連携によって単体では出せない価値を生み出す(コレクティブ・インパクト)
5)記憶に残る「マジックナンバー」を活用する
- なぜか人は、偶数よりも奇数のほうが記憶に残りやすい。5つだと覚えきらないので3つ(マジックナンバースリー)にすると、受け手に覚えて帰ってもらえる。
コンパクト・ダイアログの管理
呼びかけの実際では、声掛けはおろか、そもそも目を合わせてもらえない、呼びかけに反応してもらえないというのがほとんどである。そこでアイコンタクトできたのは何人、声かけられたのは何人とカウントしておき、その上で説明できたのが何人、成約できた(寄付受け入れ)のが何人と段階に応じた、係数をカウントしておくと、それぞれの取り組みでの評価ができるようになってくる。
コンパクト・ダイアログをしていて、知り合いに逢うと気恥ずかしいものだが、意外にも、自分が協力できなくても、一人で頑張っていて大変だなぁと、呼びかけをその場で手伝ってくることもある。熱意が人を動かすと実感するのはそんな機会である。
とにかく足を止めてもらうためのアイデア
クイズなどは気軽に足を止めて、参加しやすくなる。足を止めてもらうために、ティッシュ配りやビラ配りの人びとは、笑顔を絶やさずに繰り返し、呼びかけ、時には「音が鳴るおもちゃ」などで道行く人の関心を集めて振り向かせるということもやっている。身長差や体格差はあっても、同じ目線の高さに合わせるというのが、基本的には効果を持つものだ。真正面から対面すると、対峙的に感じるので、斜めや後ろからの呼びかけも意外かもしれないが有効となる。
否定的な態度をいったん受け入れる話法
中には話を聞いていただけても必ずしも、団体に好意的であるとはいえないことがしばしば訪れる。そうした時に、否定的なものを肯定的に置き換えていくための話法(オブジェクション・ハンドリング)として、必ず相手を受け入れてから対応する。
1)まず受容
- 相手の言葉、態度を理解していることを伝える。
- 相手の気持ちや話の内容を受け止めて理解したことを自分の言葉で伝える(傾聴)
2)受容するためには
- 相手の言葉に反論しない。相手の反応を迷惑がらない。
- 議論は禁物、腹を立てない、相手の意見を汲み取ろうとする気持ちで対応する。
3)否定的なものを肯定的に置き換える
- ネガティブをポジティブに置き換えていくための方法がある。
無関心への対応方法
受容して、相手の示した無関心や態度を尊重しながら、その態度に即した質問をなげかけていく。
会話拒否への対応
受容して、相手に会話の許可をえる。時間を改めたり、違う方にあたったりする。
誤解
相手の情報不足から発生しているとひとまず受容する。相手の言葉を受け取り、客観的な証拠を提示して、納得を確認する。
不満足
相手の言葉を受容して不満足の理由を質問して、確認する。
人を動かすためのプレゼンのコツ
人が心を動かすというのは、けっしてテクニックばかりではない。人は「説得ではなく、納得で動く」。人は納得してお金を出したいと思っているので「これだったら協力してみよう」という気持ちにさせるような、正しい理由付けをすることができるかをもう一度、確認しよう。
そのためには、ストーリーをつくることも大切だ。「その夢に乗っかってみる」という気持ちにさせるからだ。そうした気持ちにさせる構成となっているか、必ず第三者の目で、チェックしておく。
ファンドレイジング・コンサルタントへの道
▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割