経営/マネジメント
#25 個別支援と動機づけ―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
2020年10月から連載を続けてきた本稿も、今回が最終回となった。最後まで継続してお読みいただいた方々に感謝申し上げると共に、本稿に込められた知恵と汗を重ねた幾多の事例ノウハウを基にして、お読みいただいた方々が実践を重ねて「ファンドレイジング・コンサルタント」としてソーシャルセクターの、地域社会の、個別組織の役に立つことを期待していきたい。
理論とノウハウはこれまて数多く紹介してきたが、現実にそれらを組織に持ってきても上手くいかなかったり、馴染まないことが多いと思われる。実際の場面において、もちろん新しい創り出すしくみの精度も大切ながら、現状を抱えている組織の陣容、現状の活用資源、特に不足しているピースを認識したうえで、徐々に切り替えが進むように、或いは遅々としていても間違いなく正しい方向に向いているとか、疑いなくビジョンの実現に向いていると実感させることが必要となる。
それには、一人一人顔が違い、考え方や得意なところが違うので、個々に対しての支援が必要となるのだ。
個別支援の提供方法
- 課題の現況について耳を傾ける
- 担当者のカウンセリングを行う
- 調停/仲裁する
- 意思決定を委任/分担する
- 建設的な批評を行う
- 助言/提案を行う
- 担当者がファンドレイジングの原理と目的に心から傾倒し納得するように動機づけをする
- 担当者を実行に当たって支援する
- 担当しているチームと効果的にコミュニケーションをとる
※これらは実はファンドレイジング・コンサルタントとしての関わり方の実例でもある。
動機づける
「動機づけ」とは、個人に対し、ある特定の時間に、ある特定の行動を起こさせる刺激を与えることで、ある価値観や信念を伝えることによって、共通の目標を達成させていく指導力でもある。例えば、個人で取り組みをしていた時に任務遂行のレベルが能力相応であったのが、出会った人に励ましを受けて、その何倍ものレベルで達成することなどが挙げられる。
- 相手を動機づけるにはどのようにしたらよいか?
- 相手の向上心に影響を及ぼすものは何か?
動機づけを加えることによって、指導するやり方にも影響を及ぼす。研修の場合には、相手も自身の向上のため、進んで学習しようとするように仕向け、困難にも立ち向かう勇気を引き起こしていくこととなる。
また、研修や指導の最中に前向きへ強化していくことも大切である。このような積極的な強化は、相手を望ましい状況に向かって自分たちの行動を変化させ、修正し、持続させていくために効果的な方法である。このテクニックは、行動を良い形にしていくだけでなく、それぞれの人に自己イメージはどのようなものであるかを伝え、さらにそれを高めるために活用できる。
さらに進化するためには「背景」を知る
ニーズは、達成しようとする原動力であり、動機付けの第一のチカラである。中には怒りが行動の原動力となっている場合や人もいるが、実際には怒りの元になったところに不十分や不便などを裏返したニーズがある。
行動はニーズを満たすことを目指して、なされる。またいったん、ニーズが満たされてしまうと、それはもう動機づけのチカラを持たなくなってしまい、行動も立ち止まってしまう。
そのため、また別なニーズを見出して、それを満たすためにどうすればよいかを問いかけていく。具体的には、ニーズが発生してきた過程や場面などの背景を知ることで、さらに深い理解ができ、それらに応じた問いかけができるようになってくる。
このプロセスが持続的に起こっていく限り、成長していく。ただし、個人によって興味関心を抱くものは異なるため、動機づけられる理由は同じ手はなく、ある人にとっては学習が促されたとしても、他の人に効果があるとは限らない。それこそ個別支援が必要な理由でもある。
研修における「動機づけ」
前述した通り、人は全員揃って同じ種類のニーズによって動機づけられるものではない。指導に当たる担当者が適切なニーズのレベルを満たしていかなければ、参加者の興味は衰退し、研修内容の記憶も悪くなってしまう。研修や指導それ自体はワクワクして、楽しいもので、しかしも動機づけされるものである必要がある。そのためには、まず個人および指導する側のニーズを理解しておく。
以前の本稿で、研修の準備においては「参加者分析」が最も大切で、大人としての取扱いをあらゆる場合でしなければならないことを解説したが、集合訓練の限界を見極めながら、個人に対して向き合い、サポートをするのは、こうした個性を伸ばすように心を傾けるよう「動機づける」ために他ならない。
[参考]#09 研修の組み立て方―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
研修参加を動機づけるための例
先輩や上長など権威を感じる方からの「圧の強い」要求によって研修参加した場合には、しばしば強制による学習参加となり、有効な効果へはつながらない。そこで人を動機づける力を活用して、参加を促す必要がある。
利他的な動機
- 自団体の利益を強調する
- より効果的な方法で地域社会と連携できるようになることを強調する
- より容易に達成できるかもしれない、団体の活動目標などを強調する
社会的な動機
- 活動に参加して、新しいネットワークをつくるを得られる楽しさを強調する
- 参加することでほかの人々の学習にも貢献することができ、かつ同様に彼らから学べる機会を強調する
- 同じような仕事をして、課題に取り組んでいる人々と接触する価値を強調する
個人的な動機
- 研修は自己開発のひとつの手段であることを示唆する
- 専門技術・知識・自身の成長は、研修に参加した結果、得られるものであることを示唆する
- 研修内容は、自分の役務だけに有用にとどまらず、もっと広い範囲に適用できる可能性があることと、修得したテクニックや技能は仕事やほかの活動においても強化する可能性があることを示唆する
報奨の動機
- 完修することが仲間から信用を高めることを示唆する
- 名誉以外の実利的な報奨は推奨していない
さらなる動機づけのアイデア
誰でも生まれつき「怠け癖」というものを持っている。また同じことをしていると実感すると気持ちの上でも新鮮さが失われて「立ち向かっていくことが億劫」になってしまうこともある。また期待していたものと余りにも落差があると熱意が下がるなどいわゆる「テンションが下がってしまう」ことも発生する。
これらに直面した場合には、回避を図り、惰性を減らす努力をしなければ個人的な動機づけも効果を発揮することができない。うまく回避するためには次のような方法を試してみる。
- 代わりの研修機会を提供する
- 頻繁に機会を提供する
- いろいろと形を代えて提供する
- 必要に応じて、金銭的な支援を行う
- すでに友人関係にあるものと一緒に参加するように促し、一人で行くことの「恐怖」を取り除く
- 参加する可能性のある者にはメールや手紙だけでなく、直接勧誘する。そのほうが断りにくいからだ
以上をもって本稿を終わるが、むすびに代えて、実践を重ねることをお勧めしておきたい。そして失敗はない。それを次に活かしていくことで経験を与えてくれるからだ。
どんなときにも私たちは成長することができ、ソーシャルセクターに貢献することを通じて、この世界をよりよくしていくことができる。明日を動かす原動力はあなた自身の実践に他ならない。
次回からは、本シリーズの最終回で取り上げた個別支援として、読者からの質問に回答を行っていきたいと思っています。
ぜひ聞きたいこと、尋ねたいこと、疑問に思っていること、困っていることをお寄せいただきたい。
ファンドレイジング・コンサルタントへの道
▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割