経営/マネジメント
#21 ソーシャルセクターの経営と役割―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
本稿の連載も、2年近くになってきたが、2カ月ほど間隔が空いてしまい、申し訳ない。しかしながら、その間においても、毎月の閲覧ランキングを拝見していても一定の方々に過去記事を参照いただき、感謝申し上げます。
いよいよ「コンサルタントへの道」も最終コーナーに差し掛かり、ここまでお付き合いいただきました諸兄に改めて感謝申し上げたい。
コンサルティングの現場に入って様々な改善提案を行うのだが、どうもうまくいかない、効果が出ないときがある。例えば地域おこしの補助として集客のためのイベントを打ったり、改装などして賑わいが生まれるような施策を導入してるのだが、実はオーナーが事業がうまく回転しないと嘆いていた一方で、本業以外からの収入で豊かな暮らしをしていて実はあまり困っていないとか、補助金などを引っ張ってくるならまだしも、どこかしこから援助がやってきていて、送客もしてくれるので、努力しなくても運営できている体質であった場合などがある。
これまでの回で紹介したような様々な手法や技法などを駆使することで確かな変化は生まれるが、表層面だけの変化では、団体としての体質改善を図ることは難しい。
寄付額が向上したり、顧客満足度が上がるだけに留まっていてはいけなくて、団体として持続可能となるように、地域に無くてはならない存在となっているか、組織の診断や真因の追及によって、抜本的な改善を図っていくことになる。ファンドレイジングのコンサルタントとして、組織が資金調達できるだけでなく、未来にわたっても支持されるように、経営の部分にまで踏み込んで改善を図ることが求められている。この場合に評論家・コメンテーターとしてアドバイス提案するだけでは上手く進まない。実際に一緒に汗して、一緒に生み出していくことによって、変化が表れてくる。
繰り返す。団体に最適となる手法や技法の改善提案だけに留まらず、ファンドレイジングを組織全体で進めていけるように取り組みの視座を拡げていくことが大切である。
では、本質に迫る前に、ソーシャルセクターの経営ではどんな特徴があるか、から始めていきたい。
経営とよく言うが
よく「NPOも企業も経営という点においては同じ」と言われる。辞書を紐解けば「経営」とは次のように書かれている。
「経営」~広辞苑~
- 力を尽くしてものごとを営むこと
- あれやこれやと世話や準備をすること。忙しく奔走すること
- 継続的・計画的に事業を遂行すること
「経営」~デジタル大辞泉~
- 事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定を行って実行に移し、事業を管理・遂行すること。また、そのための組織体。「会社を―する」
- 政治や公的な行事などについて、その運営を計画し実行すること。「国家の―」
- 測量して、建物をつくること。
- 物事の準備や人の接待などにつとめはげむこと。けいめい。
- 急ぎあわてること。けいめい。
こうしてみていくと「経営」とは「少しでも上手く運営するためにあらゆることを走らせていくこと」という意味にとれる。ちなみに英語では、manageもあるが単純にrunも使われるので、うまく運営して走らせるというのは、通じるものがあるなと思ったことがあった。
マネジメントの発明者とも言われ、あまりにも名高いドラッガーの言葉には、マネジメントの本質が描かれ「組織をして成果を挙げさせるための道具、機能、機関」と定義されている。ドラッガーは非営利組織のマネジメントに言及して以下のような言葉を残している。
ドラッガーのことば
- マネジメントの理論を最初に適用したのは、企業でなく、政府機関や非営利組織だった
- マネジメントとは企業のマネジメントであるという誤解は、大恐慌下における企業不信と企業人批判に源泉がある。以来、マネジメントといえば、誰もが企業のマネジメントを指すと思うようになった
- マネジメントも、企業のマネジメントだけではないことを明確にしなければならない。企業と非営利組織の(マネジメントの)違いのほとんどは、用語程度のことにすぎない
(P・F・ドラッガー著/上田惇生訳 『明日を支配するモノ』)
ソーシャルセクター経営の特徴
NPOも企業も経営という点では同じであるとして、持続可能な運営を追求しながらも、社会的な課題解決に取り組む「ソーシャルセクター」にはどのような特徴があるだろうか。
1)ミッション(使命)の存在
意思決定/モチベーションの原点はこれまでの企業は市場原理に則り経済的価値を追求するのに対して、NPOや社会的企業はあらかじめ定められた組織の目的・ミッションに基づいている(収益が上がらなくても社会的必要性に基づき、支援者から資金調達してでも実現・実施する)
2)ステークホルダーの多様性
自律的に活動するが、自分たちの経営資源だけで自己完結できず、多くの人々の支援や協力があってこそ、社会的課題を解決することができる。性質的にはむしろ多くの方々を巻き込んで進めていくことのほうが望ましい。それは社会的課題を知る人が増えるだけで認識が変わり、多くの人びとが認めると社会の意識やムードが変わるからだ。ミッションに共感している立場の異なる人々や組織に対して、目的を実現していくためにどのように束ねていくかが経営のカギとなる。言い換えると、お金欲しさではない人々の動機づけが大切となる。
3)外部の善意による活動基盤
個人・企業からの寄付やボランティア等に支えられているといっても、それだけでは活動を継続することはできない。軌道にのれば収入が安定するというビジネスモデルは多く存在しない。地道な資金調達を継続して行い続けなければいけないということも特徴のひとつである。
4)ボランティアの存在
金銭の獲得が目当てで参加してくるのではないボランティアは、何らかの動機づけによって、有難いことに時間と労力を提供してくれる。経営資源が限られている中で、組織の活動に共鳴して、協力してくれるボランティアをいかにして増やし、一緒になって成果を出していく組織になれるかどうかはソーシャルセクター経営の手腕によると言える。労力の提供は、時として金銭的な支援の提供元となることもしばしば発生する。
5)評価や品質管理があいまいになりがち
企業においては提供するサービスの対価として代金を受け取り、商品やサービスに対する評価は売上などで明確に示されるのに対して、ソーシャルセクターでは利用者がサービスの対価を支払うことはあまり多くなかったりする。そのためサービスの評価、品質管理、ひいては組織評価までもがあいまいになる可能性を秘めている。つまり「利用者・受益者」だけでなく、ボランティア・寄付者といった「資源提供者」といった「2つの顧客」が存在しているため、ソーシャルセクターの活動では客観的な評価のしくみを導入しないと、活動している人たちの「自己満足」であったり、「独りよがり」に陥ってしまう可能性がある。
効果的な経営について
「マネジメント」って何かについては、様々な定義がなされてきた。例えば、「KAIZEN」に代表させれるような『QC(品質管理)手法』ではこのような説明がされている。
管理とは何か
仕事が決められた通りに行われているかどうかをチェックして、外れていたら修正処置したり、二度と外れないように再発防止を確実にする
マネジメントとは何か
組織目標を達成するために与えられた人、モノ、カネ、時間、情報、技術といった経営資源をいかに効率的に活用できるのかを考えること
「マネジメント」についての一般的な定義としては「経営資源の有効活用を考えること」と言えるが、もう少し紹介すると次のようにも言える。
マネジメントの定義
組織の使命とそれに基づく目標達成のために経営資源を最大限に活用し、効率的で最大の相乗効果を上げるための考え方、手段、方法
マネジメント機能
あらかじめ定められた戦略に従って、
Q(Quality:品質)、
C(Cost:費用)、
D(Delivery:納期)を守り、
スタッフにやりがいと誇りを実感させ意欲を最大限引き出し、利用者の満足を得て、目標を達成すること
マネジメントの必要性
コストパフォーマンス(費用対効果)だけでは、顧客満足を図ることはできない。しかしどんなによいサービスを提供していても持続できなければ、ミッションは達成できない
マネジメントの方法
PDCAサイクルを的確に循環させることが、マネジメントの基本であり、「的確にマネジメントサイクルを回していくこと」すなわち「計画を立て、実施し、その成果とプロセスを評価して、必要な部分について改善し、また計画をつくり、実施を繰り返す」
リーダーシップについて
こちらのほうも集団の在り方やマネジメント環境の変化でどんどん変わらざるを得なくなってきている。
リーダーシップの定義
ある状況下で行使されるもので、コミュニケーションの手段を通じて発揮される対人間の影響力
「従来」指導力・統率力・率先垂範力
↓
「拡大」人を動かす「影響力」、周囲に影響を与える人
という変化があり、職制や肩書ではない自然発生的なものの中に本当のリーダーシップは存在するようになってきている。「我の後に続け」というものから、その場にいるみんなを如何にして「やる気マックス」にするか。正しいことを言っていてもみんながそっぽ向いているようではリーダーシップは発揮されていない。やらせるのではなく、人々がやりたくなるように仕向けていく力が、今のリーダーシップになっている。
マネジメントとリーダーシップ
マネジメントは「人間を理解して、人の心理を知ること」で発揮されていく。そのために「社会の動き」「人心の変化」等なぜこんなことが起きているのか、今は何が望まれているのかに、アンテナを立てるマーケティングが大切となる。
すなわち、リーダーシップは引っ張り上げる力として、力業で組織を動かすのではなく、多様な情報源を照らし合わせて事態を客観的に見極める「見て、聞いて、判断する」のが資質として必要で、それによって導いていく。
「社会起業家」こそ真のリーダーシップ
経営資源やビジネスの手法を駆使して、事業を通じて、社会的課題の解決を図る担い手を指すが、言い方を変えると「世の中をやむにやまれぬ気持ちで見ていて、走り出してしまった人」であり、社会の課題に取り組み、知らせて、参加させていく姿はリーダーそのもの。そしてそれは次代に引き継がれていく。
リーダーシップを伝える
リーダーシップは先天的に身についているものではなく、後天的に学びとれるもので、状況にあわせて適切に発揮するのが好ましいのでマニュアルは存在しない。ただし「自分たちの存在意義」をスタッフ、メンバーにしっかりと浸透させていくことと、自分たちの「活動によって社会が少しずつ変化しつつある」を体感させていくことで次代へと受け継がれていく。
次回には組織の期待されている役割について紹介したい。
ファンドレイジング・コンサルタントへの道
▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割