コミュニケーション
#16 ファンドレイジング・イベントを企画する―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
ウィズ・コロナの新しいライフスタイルでは、孤独を味わうだけでなく、誰かと繋がっている実感を求めて、オンラインツールなどが進化したり、新たな出会いの場が演出されている。オンラインにはオンラインの利便性があり、いままで逢えないような遠くから容易に参加できたり、デジタルならではの同時性やアーカイブ活用や情報連携が進めやすいなどの利点も数多くあるが「やはりリアルな対面はいいよね」という声も数多く伺う。
こうした時代だからこそ、マスクオフで多数が交流できる時間を思い浮かべて、イベント企画について知ってもらいたい。ファンドレイジングにおいて、イベントは「寄付」と「ボランティア」という社会貢献の両輪が同時に進む好機会だ。シンプルにそのことを踏まえて企画を進めてもらいたい。いままで数多くの現場を一緒に支えてきてくれた仲間たちのことを思い浮かべて、この稿を書き進めたい。
イベントは団体に関心を寄せる人たちと直接に対話交流できる場
NPOにとって実際の事業とともに広報イベントは活動の両輪といっていいほど大変貴重な機会だ。
第一は「同じ目的を目指す仲間感」。
実際に集客するために、支援者と顔を突き合わせてのふれあいが進み、運営に携わる人たちも含めて関係性を深め、会場としての一体感を持ちやすい。
第二に「情報発信の更なる拡大」。
予定が合わず、会場に来ることができなくても、そうした事業・取り組みをしているということを事前や事後に発信するため、支援者を始め、一般の方々にも情報を受け取ってもらい、関心を引き付けることも可能になる。また、最近では情報に目を留めた人がシェアしたり、当日、参加した人が自分の感想を込めて発信したりということが進むので、発信したい内容がより早く、より広く情報が伝わることができる。団体だけでなくイベントに参加した人々と一体となって社会的課題がそこにあることを発信すること、それを知ることで周囲の認識が変わることは、社会が変わることにつながる。
そして、第三に何といっても「寄付とボランティアの両方の進展」だ。
イベントでは団体スタッフだけでは運営できないことが多く、ボランティアや協力者をお願いしていくことがある。これがまた団体運営について主体者意識を持つ人が増えることであり、団体の目指すことを理解して、支える人自体が広がることとなる。またイベントの際に、団体として社会的課題の解決策に対しての寄付をお願いすることで、経済的な支援とともに社会の課題解決に参画してもらう機会を提供することになる。そしてボランティアをしてもらうこと自体、イベントの運営費用も含めて「時間を寄付」してもらうことであり、また何よりも団体のミッションの理解者として意識が高まっているので、周囲へ積極的に社会課題を解決するための寄付を呼び掛けたり、自らが寄付者になったりする。「主役がいっぱい生まれる」と言ってもよく、自分事として考える主人公が団体を支えていく。このようにイベントではボランティアと寄付が一体となって進んでいく。
ある国際協力の団体は、海外での子どもたちへの支援の現場と同じぐらいに国内での広報、とりわけ同じ子どもたちへの情報発信に力を入れているのは、こうした利点を認識しているからこそである。
イベントの持つ意義
- 参加者は会場で受け応えするボランティアやスタッフと一体となって、参加感を深め、大きな充実感を与える。またイベント開催を通じて団体の広報もでき、露出度アップや認知度の向上にも期待できる。
- ボランティアにとっても楽しい場で「応援してよかった、支援してよかった」と思いを深める機会となる。イベントではたくさんの労力や能力が求められるが、サポートする頼もしい存在がボランティアであることを思い起こすことになる。イベントボランティアをきっかけに、団体の日常業務のボランティアになってくれるということも。
- スタッフにとっても、プロジェクト運営やボランティア・マネジメントの経験を積む絶好の機会となる。
留意点
- イベント会場ではボランティアも大事な「団体の顔」となる。ちょっとした言葉遣いや態度が参加者の満足度を下げてしまう場合もありうる。そのためには、ボランティア候補者に対しては事前説明会が必須。事前に顔合わせすることが、当日の円滑なチームプレイにもつながる。回数を重ねると、経験あるボランティアがリーダーシップを発揮して自主的に運営を任せることも可能となる。それ自体がイベントの大きな価値に。
- イベント開催には労力や費用がかかるため、効果はあったが「赤字」に終わってしまう可能性もある。これを回避するために、何を目的として開催しているのか、それはイベント自体からの収益を得ることなのか、イベントを活用して支援者拡大に繋げていくのか、取組む社会課題にスポットを充てて認知度向上を図るのか、などについて明確に想定して、それを達成するための計画をきちんとたてて取り組みする。
イベント運営の基本としておさえておくべき3つのポイント
「この間のイベントは楽しかった」というだけの感想で終わらせないように、イベント運営においておさえていかなければいけないことがいくつかある。多くのイベント運営の達人たちがそのポイントを挙げているが、共通して言えること、とりわけファンドレイジング・イベントにおいて共通していることは、
- イベント開催の目的を明確にする、
- 綿密に計画して、大胆に実行する、
- 実施後のフォローも計画に入れる、の3点だ。
開催目的の明確化
「楽しいイベントだったけれども、何のためだったかわからなかった」
こんな感想になってしまわないように、まずは何のためにイベントを開催するのかを明確にしよう。開催の目的を明確にすれば、適切な開催時期、会場、内容、参加対象、参加者数、広報の方法などが決められ、成果についても具体的な目標が掲げられ、検証もできるようになる。また、資金調達と合わせて、認知度の向上や主催側・支援者が一堂に会することによるモチベーションの向上が図れる。
ファンドレイジング・イベントの一般的な目的としては、以下のようなものが挙げられるので、この3つのタイプをバランスをとって組み合わせるとよい。
- 社会的課題の周知⇒新規支援者開拓(見学会、セミナー)
- 既存の支援者開拓⇒支援者との関係強化(報告会、交流会)
- その場で資金獲得(バザー、ビンゴ、オークション、食事会、演奏会)
イベント内容別の演出アイデア
開催する目的を明確にした上で、そのイベント目的を体感できるような「イベントならではの演出」も考えられる。
チャリティーコンサート
社会的課題の周知を目的に若い人をたくさん集める「チャリティコンサート」を開催するならば、通常より安価な入場料のコンサートを開催して、多くの人々の来場を促し、しっかりと活動について説明する。アーティスト自らも舞台から支援を訴えかけ、会場にいる参加者全員で何かをアピールするボードをもって写真を撮ったり、アクションしたりして社会の課題解決について心を一つにして、会場内のいたるところで寄付を受付することなども可能だ。
感謝の夕べ
これまでの支援者に感謝を伝える「感謝の夕べ」ならば、支援者との関係性の強化するため、これまでの支援度に応じて席次を決め、壇上で紹介したり、当日プログラムにお名前を掲載して、支援者への感謝を表す。また受益者や団体スタッフで支援者を囲んで、直接、支援者の気持ちや考えを聞き、交流する時間帯を設ける。また支援者同士の交流が進むしくみを用意するなどがあげられる。
留意点
ただし、演出も逆効果になることもある。例えば、オークションやパーティなどで資金調達を第一目的にしたイベントでは、ある種の非日常的な雰囲気の中で、参加者が高揚した気分で参加費以上のお金を使うための演出が不可欠だが、こうした会場で「社会的課題への周知」、例えば戦禍の悲惨な状況や被災地の惨状などについての資料の配布や上映は却って逆効果となることもあるので注意が必要だ。
事前には緻密な行動計画を、当日には大胆に実行を
イベントを実施したのはいいけれども、労力や費用をかけた割に効果がそれほどでもなかったということにならないように、事前にはできる限り細やかな計画を立案していくことが大切だ。特にイベントは経験がものをいう事業なので、手慣れてくると大切にするポイントを「当たり前に」感じているので、行動計画の中で詳細を書かない傾向にあるが、「神は細部に宿る」なぜそれを行っているのか、の部分をきちんと伝える努力を行わなければならない。
イベント内容によっても異なるが、事前に計画を立案しなければならないもの、そしてどのようなアクションをとるのかといった行動計画にするためには、次のような項目を検討しておくことが必要だ。
計画を立てる際に大切にすること
- 計画の進捗を具体的な日程に落とし込む
- 団体内で定期的に共有する
- 計画を遅滞なく実行できるように調整する
- 予実管理の責任者をはじめ、各担当を明確にする
イベントにおける検討事項
- 予算:費用は今回、過多になっていても今後につながるためにというのもよい。それでもいくらかけようとしていて、終了後、いくらかかったかということを精査することは大切だ。
- 会場予約:下見は必須。できるだけ、現場で発想して、どのような人の流れになって、どういう展開をするのかを確かめておくこと。
- 広報:プレスリリースを含めて、いつから情報解禁で発信するのか、どのように拡げていくか、当日の告知は直前でしかできないので、いかにしてもっと前にピークポイントをもつかを企てておく。
- 協賛・後援依頼:開催費用の一部を負担してもらったり、協力・支援者を得ることは社会的な信頼や周知を得るために大変有効だ。利害調整はしなければならないが、イベントは後援・協力者がたくさんいることが成功の秘訣でもある。
- 登壇者依頼:開催目的、イベント内容に応じて適切な出演者や司会者などを依頼しておくこと。これはイベントの中心的内容、根幹をなすものであり、実際には登壇できる可能性と開催目的とが関連してイベント企画を立てている。
- 参加申し込み手順:申込無しで当日自由に来場してもらうというのもよいが、開催するまでどれぐらい来てくれるかがわからないと、どれぐらいを準備したらよいかの判断がつかないこともある。また、事前に参加表明したほうが参加者にとっても動議づけになったりする。そこでイベントの参加申し込みや予約をとることもできるが、容易に申し込みができるようにネットでの申込フォームや参加費用の回収方法などをあわせて検討しておく。
- ボランティア募集:団体スタッフだけで運営できればよいが、多くのイベントではそれ以外の協力者を得ることが重要だ。ボランティアも通常から確保しているとよいが、イベント用に新しい協力者として加わってもらうことはすそ野を拡大して、理解者を拡げていくことにもつながり有効だ。
- 終了後の参加者へのフォロー:「事前に計画する」という言い方によって、イベントの実施以前のことを計画するのだと勘違いしてしまいがちだが、実はイベントの後に参加者や支援者、協力者などに対してどのようにフォローするかを「事前に計画する」ことが大切。
イベント開催告知での情報発信のポイント
SNSでの情報コミュニケーションが進んだ現在では、情報が拡散しやすいことを意識して情報発信することが求められている。そのためにはまず第一に写真映えすること、フォトジェニックであることがわかりやすい。同様に背景をストーリーとして伝えられるかがキーポイントとなる。「いいなぁ」と思った瞬間を切り取った写真や、「いいなぁ」と納得したストーリーを知った誰かは、その共感を周囲の人に「いいでしょ、これ」とソーシャルメディアでお勧めする。
個人発信だが、特定の誰か宛でなく、周囲の複数に対して発信するため、気楽にレコメンドしている。受け取った側もたくさんの情報や近況が流れるタイムラインの中でたまたま目に留まった内容として「いいね!」と気軽にボタンをクリックしたり、シェアして自分の周囲に伝えたりする。
メッセージを発信する際には、こうした拡散を意識したり、反応を手掛かりにして、どういう文言が広がりやすいかを検証していくと効果のある発信ができるようになってくる。こうした経験は対人コミュニケーションにおいても有効になってくる。
プレスリリース
組織として公式の情報発信をする場合には、プレスリリース(ニュースリリース)をきることになる。
プレスリリースとは、行政機関や民間企業などから報道機関向けに発表された声明や説明資料のこと。「PRESS」は新聞、新聞社。「Release」は発表、公開を意味している。各報道機関では、それらを元にして取材を行い、記事にしていく。実際には、数多くの団体や企業がプレスリリースを投げ込んでくるので、記事にしたくなるものをポイントとして、文章を配置することが大切だ。いわゆる「ニュースバリュー」があるかを際立たせること。
第一にユニークな企画になっているかだが、全国初とか、地域で初登場などの新奇性があると記事にしやすくなってくる。記事+写真、あるいは動画になるかは他記事との紙面構成やニュース番組の時間の関係で変化することを踏まえておかねばならない。
第二に記者の側でそうした「いい写真や映像」が撮ってこれそうだという直観が働くか。そのための条件や材料が記載されていることが大切だ。
第三には「記事を通じて社会的課題に焦点があてられるか」だ。記者には報道機関としての魂のようなものがあり、単なる行事報告や時事ニュースということよりも、それらを通じて読者に地域の課題などを伝えていきたいと狙っているので、そうした意識が働きそうかを検討してみる。単に行事の紹介だけでなく、イベントを通じて「社会に訴えかけていきたい内容」これらは私たち自身がなぜそのイベントをしなければならないかを見つめなおすことであり、単に昨年もやってきたからとか、今年の事業計画に乗っているからではなく、理念のもとに集まっているNPOだからこそ、大切にしたい点である。
留意点
- わかりやすい要約(サマリー)
- 配布資料は細々と書きすぎない
- 内容は簡潔に
- 新規性の高いタイトル
- 自分たちの団体・事業名などの短い定型解説をつける
読ませるニュースリリースを書く担当者は、経験から1)見出しは件名にして受け取った人が楽しめるようにする、2)ウェブでの情報発信を意識した写真、3)商品の特徴だけでなく「実感した気持ち」を伝えるようにしていると言っている。これは「地方の特産品で売れているもの」にも共通で、どんな商品か一目でわかりやすくて、それでいて意外性があること、フォトジェニックであったり、シェアしたくなるなど情報発信につながり、その際に背景ストーリーなど目指していることが伝わるものであると似通っている。
次回は、イベントを強く後押ししてくれる「協賛依頼」について解説する。
ファンドレイジング・コンサルタントへの道
▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割