コミュニケーション
#17 イベント協賛のアプローチをする―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
ファンドレイジング・イベントは、寄付とボランティアという社会貢献の両輪が進む大切な機会と前回紹介したが、参加費だけでは賄えない開催費用については、地域や関心分野で企業活動を行っている法人に協賛依頼や寄付依頼に出向くことも大切な機会である。
第一に、大きな金額の財源の対価として、参加者に企業の取り組み姿勢や名称の露出機会として、第二に関心分野に取り組むイベントや団体への支援姿勢を明確にするため、第三に地域や関心分野での繋がりを活かして、構成する企業市民としての責任を果たすなど、企業側にとっても「やってよかった」応援機会になるようにしたい。そうした貴重な機会となるようにしていくためには、充分な準備が大切になる。
イベントの協賛・後援依頼を計画→支援依頼の実際
1.事前準備:事前に調べられる限り、調べる・集める
1-1.アプローチリストの作成
- 資金を求める事業と「価値(VALUE)」(例:教育支援であれば「教育」関連事業を行う書店企業や文房具制作企業など)を同じくする企業、過去に寄付や協賛、協力履歴のある企業、また、これまで関係がないが支援いただきたい企業などを一覧化しアプローチリストを作成する(ステークホルダーピラミッドで優先順位を決定)
1-2.企業情報の調査(リサーチ)
- 支援依頼先の企業情報や社会貢献方針などを十分に調査する。相手をどのくらい知っているかは、提案メニュー作成に役立つと共に、先方にとっても自企業にどのくらい興味をもってアプロ―チしているのか、こちらの姿勢や真剣度を知る尺度となる。
- 直接アプローチする前に、社会貢献方針や過去の寄付履歴だけでなく、事業内容・直近の企業業績、事業所の所在地、企業イメージなどを出版されている四季報やウェブサイト、CSRレポートなどから調査をする。
- 支援依頼は「価値(VALUE)」(例:教育支援であれば「教育」関連事業を行う書店企業や文房具制作企業など)を同じくする先を選択しがちだが、新規参入企業も可能性があることから、優先順位を付けたうえでアプローチリストを作成する。
1-3.協賛や寄付等お金以外の支援協力も検討(助成金、社員ボランティア、企業主催イベントへの出展etc)
- 企業の支援方法は金銭による協力だけではない。支援依頼時に資金の提供がハードルが高くとも、関係性を構築することで(もしくは年を経て業績に変化が生まれることで)金銭の支援が可能になることもある。よって、社員ボランティアや企業主催イベントへの出展、また物品寄付や企業財団からの助成金など、企業が参画しやすい協力方法も検討し、提示する。
- 支援の入口として、参画しやすい方法を提示し、将来性を鑑み、関係性を構築・継続することが重要。
2.ファーストコンタクト:初回同行など活用できるものは徹底活用
2-1.余裕をもったアプローチ
- 企業によっては年度の寄付支出や協賛団体を年度予算として事前に計上を行う。支援依頼事業内容の理解、検討、稟議、決裁、関係部門の調整など手続きをふむために必要な時間を逆算し、余裕を持ったアプローチが必要。支援依頼にあたっては、3か月~半年(ないし1年)の余裕があると望ましい。(※コロナ対応や自然災害のような緊急支援の場合には、この通りではない。これまでの繋がりや対外的著名度などで依頼が来る)
- タイミングや支援決定プロセスを知るためにも、支援依頼時だけでなく、日々の関係性構築が必要。
- 時間に余裕のない駆け込み依頼は、計画性がないとみられる危険性がある。
2-2.つながり(ネットワーク)を活かしたコンタクト
- 全く面識がない、完全に初めての企業は、成果率が低くなりがち。アプローチリストにあげた企業のうち、組織内部からの紹介などつながり(ネットワーク:例>懇親会で名刺交換をした、他部署だが取引先部署があるなど)を駆使してコンタクトする。初回訪問に同行してもらうことも。
- 可能な限り多くの部署がアプローチリストを見るような状況を作り、ネットワークや過去のつながりがないか聞き取っていく。
2-3.依頼(コンタクト先)はしかるべき相手に
- 紹介者がいることが、上手く繋がる秘訣であることは言うまでもない。断れない繋がりの方に同行していただくのが理想的。ただしネットワークをたどる場合には、調整に時間がかかり、一度の面談で交渉先とのアポイントに至らないこともあるため、それも見据えたスケジュール調整が必要。
- ファーストコンタクト方法は、メール・電話などで連絡を行う。依頼内容に沿った部署・担当者とコンタクトをとることが理想。面談までに資料を送る場合、宛名が「文化芸術事業担当者」等幅広いカテゴリになると、担当者の手元に届かないことが多いので、事前に部署や氏名が確認するなど、コンタクトはしかるべき相手に届ける。
3.法人営業:資料は読むのではなく、相手に語らせるためのもの
3-1.企画書(資料)は目的と内容を明確に
- 訪問時に持参する企画書(企画概要・予算、事業関連パンフレット)は、事業の目的と内容( 「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」行う事業なのか、また「なぜ」依頼先企業の支援が必要か)、依頼事項(支援メニューの提示)を明確に記す。
- 企画書は、企業の担当者が部署内や上司に説明するための基本資料となるため、独り歩きして担当者が説明しやすい資料を作成する(例:テキストだけでなく、イメージや図、表やグラフなど視覚的に理解しやすい、など)。予算書は、事業の全体像及び寄付がどのように使われるのかを説明する資料となる。支援金の用途を明確に示すと、寄付につながりやすい。
3-2.プレゼンはシンプルに、自分の話だけでなく、相手の話(ニーズ)を聞く
- プレゼンテーションは、平易な言葉遣いで簡潔に説明する。担当分野に秀でているため、専門用語を使う傾向があるが、一般用語にかみ砕いてわかりやすい表現で語るよう注意が必要。
- 事業の説明や資金の必要性を訴えるだけでなく、語り掛けることで、先方のニーズや社会貢献における困りごとなどを聞くなど、相手の話を聞き出すことで、次の具体的な提案につなげる。
3-3.返答いただくまでの、今後の予定の確認
- 初回面談のみで、先方が社内検討に入るケースは稀。初回面談で聞き出した相手のニーズや課題の解決法を再構築、また提案メニューの内部調整等を行う場合は、次回MTGの日程や時期をその場で決める(2週間を目途に再提案します、など)。 初回面談の情報で先方が検討に入る場合は、持参資料以外に必要な情報などを聞き、いつまでに準備できるか具体的に提示する。
4.フォローアップ:次へ繋げるために、調べる、連絡する
4-1.訪問御礼
- 訪問(会議)終了後、メール等にて御礼や意見交換の感想、Todoの確認などを行う。
4-2.訪問時にあがった話題についての情報提供、追加資料提供
- 初回面談で先方が検討に入る場合は、追加資料の提供、また会議中に話題にあがった資料の提供を行う。
- 再度の提案が必要な場合、内部MTGで戦略を練り、期日までに再コンタクトをとる。再提案困難な場合もその旨連絡するなど、初回訪問以後コンタクトしない状態をつくらない。 ※企業側では面談記録をシステムで記録していることがあり、コンタクトないままだったことも記録に残ってしまう場合がある。
4-3.適宜コンタクトをとる
- 先方からの返事待ちの際、目安の時期になってもコンタクトがない場合、先方内に資料不足や課題があがって話が止まっているなどケースが考えられる。時期を見て、ご機嫌伺いのためにコンタクトをとる。
5.支援決定後(またはお断り):敵をつくらず、味方を増やす
5-1.検討いただいたことへの御礼
- メールや訪問等で検討いただいたことに対する御礼をまず連絡する。
5-2.今後の予定の確認
- 支援決定していただいた場合には、訪問(会議)終了後、メール等にて御礼や意見交換の感想、Todoの確認などを行う。
- 今後、ご提供いただくデータや画像、資料などがある場合、事前にそのスケジュールを共有。連絡者が異なる場合は、その旨も事前に連絡するなど丁寧な対応を。
- 提案した計画内容の変更やスケジュールのズレなどがある生じた場合には、事前に連絡を行う。コミュニケーション不足は不信感にもつながるので、丁寧な対応を。
5-3.お断りされても諦めない
- 提案事業に関して支援が不採択になった場合も、ヒアリングで聞き出したニーズや課題などは記録し、その他の提案時に活かす。そのためにも季節の挨拶などでコミュニケーションをとって関係性と継続しておくとよい。
協賛依頼の掲載ポイント
協賛依頼を例にして掲載ポイントは以下の通り。
- 協賛スポンサーには、金銭提供のほかに会場提供や物品提供など、イベントコストの低減やクォリティの向上に大いに貢献が期待できる。
- そのためには、協賛スポンサー制度について、整理して決めておく。
- ドアノッカーと呼ばれる「協賛依頼資料」にまとめる。
- 次回開催が明快な場合、次の協賛依頼の最適なタイミングは開催後1カ月以内の実施報告とともに「協賛ご報告」を持参してお礼を申し上げる際で、その時に次回概要と協賛制度についての説明を行っておく。
協賛依頼の掲載内容
- 団体について
- イベントの概要(目的・日時・会場・参加者数・参加費・プログラムなど)
- 参加者層について(年代、地域、傾向、志向)
- 過去に開催していたら、その実績(参加者数や会場写真、過去の協賛社や後援名義の一覧)
- 協賛することのメリット(金額ごとに異なるベネフィットなど)
- 協賛メニュー(協賛金額に応じてどういう特典があるのかを明記)
- 今後のスケジュール
- 過去の協賛社へ伺うのは「イベントの翌月」が最も効果的。
- 打診・調整を行う相手先、こちら側の担当者、紹介者、依頼金額などをまとめて、アタックリストにする。
ただし、現実には企業活動は、年間計画と予算で運営されているので、そのスケジュールにしっかりと乗ることが大切。タイミングを見計らってアプローチが必要で、そうでなければ、一年先になる場合もあるので注意が必要だ。
実施後のフォローアップを計画する
イベントが終わった。大成功だった部分は何だったか、そしてうまくいかなかったところはどこかをちゃんと評価しよう。それを次に活かしていくことで、さらに良くなっていく。こうすることで、みんなが体験したうまくいったことも、うまくいかなかったことも、全て次へ活かしていくことが可能になる。
フォローアップする対象は運営者・協力者を含めてイベントに参加したすべての参加者だが、できるかぎり意見を聞いたり、声掛けすること自体が「このイベントを本当に一緒にやってよかった」と思ってもらえることにつながっていく。
お礼のメール、レター、訪問時に伝えること
- 単に「参加者数xxx人で無事に終了しました」だけでなく、当日の写真やハイライトといったイベントの雰囲気を伝える
- 参加者の声、アンケートの分析結果などから、生み出した価値を共有する
- 協賛スポンサーからご提供していただいたものが参加者に渡る様子や反応を伝える⇒「参加してよかった、協力してよかった」と実感していただきたい
イベントをきっかけとした次のステップ
SNSでつながる
SNSのねらいめ:通勤時間、空腹時
メルマガ登録してもらう
メルマガ発行:休日はさける、休み明けもさける
参加者や協力者をきちんとデータベースに入力する
継続的な関係のための一歩を用意し、きちんとデータとして残しておく
次回はイベント運営で共感を集める演出について解説する。
ファンドレイジング・コンサルタントへの道
▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割