経営/マネジメント
#24 ビジョンへ向かうアクションプラン―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
記念すべき24回ということで2か年以上にわたって、本稿も連載を続けてきて、多くの皆さんから「読んだよ」と声かけていただくことが多くなってきた。
また実際にファンドレイジング・コンサルタントの養成に際して本稿をテキストとして活用しているが、やはり体系立てて、その上で実践に基づく構成になっていると実感しているので、独り立ちを目指している方にはぜひ何度も読み直して実践を重ねていってもらいたい。
前回は、現状分析を進めていく上で状態を把握して、支援者を発見して、次の視点を見出すための様々な分析手法について紹介したが、今回はそうして浮かび上がった数多くの取り組みすべき課題をどのように整理して、どの順番で取り掛かっていったらよいかについて紹介したい。
[参考]#23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
数多くの課題を分類する
分析手法を駆使して、数多くの課題が抽出されること自体はとてもよいことで、その調査時点での課題として、分類して整理しておくことが大切だ。
最もシンプルで、かつ効果的な手法として「カードミーティング」方式がある。古典的な分類方法のKJ法にも似ているが、メンバーが頭をつきあわせて「密を創り」知恵を重ね合うということと、忙しくて参加できなくてもカードの記入だけはして参画することも可能だ。
ゲーム性を持たせて、自然にアイデアが誘発するように、手順に沿って進めていくのがポイントだ。
カードミーティングの7つのステップ
- 【着想】
画題(テーマ)に関することをまず各自で黙して考える。 - 【カード化】
カード(ポストイット小でも可)をつかって書き出す。できるかぎり数多く書き出す場合やテーマによっては一人3枚と限定して行うこともある。最低でも総計15-20枚位になるように書き出させる。書き出したカードはふせておき、他の方が掻き合わせるのを待つ。 - 【配布】
時間がきたら、グループの中でリーダーがすべてのカードをあつめて、よく繰って(シャッフル)裏向けたままでメンバー全員に配布する。リーダーが配り終わったら、メンバーはカードをみて、もしも自分で書いたカードがまざっていたら、裏向けにふせたままでそっと差し出して他のメンバーとカードを交換してもらう。これらによって手元には自分以外の作成したカードがそろったら、準備完了。 - 【読み上げ】
リーダーは、自分の手元から一枚のカードを取りだして、メンバー全員によく聞こえるように読み上げ、目の前の「場」に出す。これはカードを場に出すのはメンバー全員の承認がいることを象徴している。ここから、右回りなど順番に自分の手元から一枚ずつカードを読み上げていく。 - 【関連付け】
メンバーはリーダーが読み上げたカードと内容が同じや関連しているなぁと思ったカードがあれば、そのカードをメンバー全員に聞こえるように読み上げる。それでメンバー全員がこれは関連があると同意したら、場に出ているカードのそばへ位置するように出せる。こうして、カードを順番に読み上げていく、全員の手元にカードがなくなるまで続けていく。 - 【俯瞰】
全員がすべてのカードを「場」に出し終わったら、全員で全体を俯瞰して、Ⅰ関連付けがおかしいものがないかを確認していく。その際に同様の内容でグループ化できそうなものは統合してしまう。ただし、全てを無理やりどこかにいれてしないで、独立したカードは独立したものとして扱う。 - 【ラベル付け】
グループができたカード群にふさわしい名称をラベルカード(ポストイット大でも可)をつかって名づけていく。いわばカード群にふさわしいタイトルをつける感覚だ。こうしてグループごとにラベル付けをして、位置関係も整理していきます。全体に整理して完成。
まず大抵の課題はこの手法で整理することができる。独りで行う際にも、カードを活用するとより客観視することがてきるので、もう一人の自分と対話するような心持であえて視点や反対意見をもって扱うとよい。
組織の使命となりたい状態(ミッション・ビジョン)
組織としての存在意義、取り組みすべき使命(ミッション)のもと、実現したい近未来の状態(ビジョン)がある。
「ミッション」は具体的に何を目指していくのかが理解できる明確な指標で、使命とも表現され、組織としての基軸、団体のあるべき姿、目的と存在意義を端的に表現している。
そして、「ビジョン」は近未来に到達したい将来像で、ミッションがやや抽象的であるのに対して、ビジョンは具体的な姿を描きだしている。わかりやすく明確なビジョンは、メンバーを鼓舞し、勇気づける機能を果たす。聞いていてワクワクする心躍る未来構想、数年先に到達するゴールであるからこそ、牽引力を持つようになる。ビジョンを創り出していくプロセスには中核となるスタッフに大いにかかわってもらうようにする。
そうすると、知っているだけでなく、理解し、納得して、そのビジョンに向けて行動していくようになる。組織の強みや現状をふまえた上で、枠を越え、夢やロマンに溢れ、現実的でわかりやすいビジョンを創り出していこう。
ビジョンニング
そうした夢を団体の中で顕在化していくためには、団体の中で「5年後、私たちが新聞の第一面を飾っているとしたら、それはどんな記事」とイメージを膨らませてみることも有効。
最初、荒唐無稽と言われるようなものが出てきても、その中にはきっと、みんなの夢が潜んでいる。それらを見つめて、文章化していくと、ビジョンが明確に、しかも共有されていく。
優先的な取組課題を抽出する
ビジョンを描き出すと、現状がそうなっていないからこそ、なりたい状態として際立ってくる。そういう風になれば誰もが納得して「いいね」と思える明日が訪れる。しかしビジョンとして目指す姿と現状との間には「ギャップ」がある。このギャップを解消していくことが、具体的な成長戦略の中身となるが、すべてのことに取り組みするわけにいかないので、優先的な取組課題について絞り込むことが大切だ。
一般的には「重要度」が高くて、「緊急度」が高いものから選び出していくというのがセオリーだが、選択のポイントとしては「ボトルネックの解消」つまり積年の課題がこの機会に終止符が打てるというのが最も効果的だ。ソーシャルセクターにおけるマネジメントとはありたい姿と現状を明確に理解して、その違いを埋める「問いかけ」と「努力」を繰り返すことに尽きる。
課題解決のステップ
優先的取組課題抽出の進め方
「実現したい状態」達成の観点から最重要課題を抽出するための手順は以下のようになる。
- 重要度、緊急度などを考慮して、取り組みしたいことを絞り込んでいく。
- その際には、着手容易性よりも実現可能性を重視する。特に「組織の魂づくり」「得意型つくり」「シナジー効果あり」「採算性高い」「好循環が起こる」「積年課題に終止符が打てる(ボトルネック解消)」の可能性を重視する。
- 取り組みを進めたい事柄に、時間軸を加えて、実際にいつの時期にするのかを検討する。
- もういちど重要度・緊急度などの優先度合いを考慮する。
- 進捗が確認できるように、チェックをどこでするかを明確にしておく。場合によってはチェックする指標についても複数を持つようにする。
手段を目的化する手段をブレークダウンして具体的に考えたものが年間予定となり、それで実際にどう進んでいるかを比較することで進捗管理が行える。
手段の目的化
進捗管理のためのアクションプランづくり
事後のステップアップと予定を意識しながら具体的に取り組みするべき課題解決策を時間軸で整理して網羅して、アクションプランとして計画していく。管理の仕方には様々な技法があるが、年度目標を月別の目標に細分化し、さらにそのための手段を書きくわえていくと年間計画表(ガントチャート)が出来上がる。
それによって今、なすべきことが何かが時系列で明記された予定表があることで、どの部分が遅れているかがわかる(進捗管理)。
ガントチャート
アクションプランの作成
優先順位と誰がどこまでやるか、いつやるかをまとめたものをガントチャートにまとめると、振り返ったときに、どこが進捗できていないかが、よくわかるようになる。うまくいっている団体というのは、何らかの形で計画通りに行っているか、計画通り行っていない場合には高速でPDCAを回して改善する等、何らかの進捗を確認するしくみがあるものだ。
こうした成長戦略を描く際のコツは、事業の成長/組織の成長/財源の成長を三位一体のものとして、融合させて考えていくことだ。成長戦略を描くことによって、3-5年後の到達イメージが明確となって、関係者の意識の統一や動機付けとなるだけでなく、先手を打って、経営資源を有効配分して、効率的なマネジメントを図れる。またその作成する過程においては、計画の策定・評価のプロセスにおいて組織内部は大いに成長していく。また、目指す方向性がはっきりしているとそこに至るまではすべて道程にすぎないということになるので、発信力、メッセージ力にも自信が生まれてくる。
失敗する成長戦略
- Wishリスト(願望リスト)になっている。
- 計画は細かく記述しているが、メリハリ、ピーク、ホップステップ感などのリズム感がない。
- 細部にこだわりすぎ、何十時間も議論して、それで疲れて終わってしまっている。
成功する成長戦略
- 最優先課題がボトルネック解消に絞り込まれている。
- 外部に説明しやすいシンプルさがある。
- 最初の半年や1年の内に「石にかじりついてでもやること」が明らかになっている。
- 理事会などで定期的に進捗管理をする仕組みがある。
アクションプラン
成長戦略を描くことで得られるメリット
- 3年後なりの到達イメージが明確となり、関係者の動機付けとなる
- 先手・先手に経営資源を有効配分して効率的にマネジメントできる
- 関係者の意識の統一が図れる
- 中期計画の策定、評価のプロセスを通じて組織が成長する
- 世の中に対して、メッセージ力が高まる
ワクワクする成長戦略
次回は、本シリーズの最終回として個別支援について紹介していく。
ファンドレイジング・コンサルタントへの道
▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割