経営/マネジメント
#14 事業計画をたてる―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
コロナ禍によって当社の業務面においては、対面での面談や研修などが仕事として延期や中止になったが、反面、お客様のほうでこうした機会にじっくりと構えて、次の一手を考えたいとご相談いただくことが昨年あたりから本当に多くなった。まさに「ピンチをチャンスに変える」取り組みだと言えるが、その中で多いのは、プロの目から当団体の取り組みを診断して、体質改善に繋げていきたいというものだ。こうした依頼があった場合の進め方としては、まず支援者や関係者へのヒアリング、支援者の現況と過去の推移、事業収入、寄付収入、助成金や借入等の至るまでのデータ提供を基にした調査分析、過去の取組事例や参考例などの事例調査などを組み合わせて、現況分析を行い、組織が抱える「運営上の課題」について浮き彫りにしていく。
次に、課題の優先順位を検討しながら「解決の方向性」について導き出していく。この段階で、解決の方向性を土台にした改善計画の大きな柱「戦略骨子」について、団体側と中間レビューとして提案・議論して、方向性についての合意を得ていく。あとは、その骨子を最大化するための詳細設計に落とし込んでいく。
当社の事業分析に基づく戦略提案コンサルティングは、手順として書き出してしまうとこれがすべてであるが、加えて以下のような特徴があると言える。
1.豊富な実例に基づき、実践的であること
これまでの数多くの実例実践に基づき、優先順位を考慮した具体策を提案し、一緒に実行していくことが可能な提案になっている。また、次代を見据えて未来にあるべき状態から逆算してあり方を検討するなど、大きな視座での発想に基づいている。
2.前向きな機運の醸成を図ること
未知の分野へ困難な船出を行っていく中で、関係者に前向きなイノベーションを生み出していこうとする機運を高めていく。直接の関係者だけでは実現できないことも、関わる担い手を増やすことで、実行段階においても効果的となる。
3.孤立しがちなファンドレイザーを支えること
知恵で勇気を与え、伴走が有難いとその存在感が、信頼と安心感を与えていく。
のっけから当社の特色のような話で恐縮ながら、実際、事業計画の説明となるとどうしても手順的なものになるが、そこに「魂を込める」ことこそが、本当の秘訣であることを伝えておきたい。
事業計画とは何か?
団体を立てる前に必ず作る「目論見書」とも言える。新しい事業を進めていくためには多くの協力を必要とする。会社ならば株主、社員、銀行、取引先など様々な人が関わるように、ソーシャルな事業では支援者や助成先などに対して具体的な計画はどのようにしているのかを示して、協力を取り付ける必要がある。こうした人達に「自分はこういうことをやりたい。その為に必要なことはきちんと考える」を伝える資料となる。伝えていく際のプレゼンテーションでは、実現したい夢について、あたかもそれが実現できた時の光景が目の前に広がっているがごとく、語りかけていくが、その一方で事業計画書ではそれらをいかにして実現していくかについて綿密に、詳細に、網羅的に記述していくことが肝要である。
その構成は、決まってる訳ではないが、概ね以下の項目となる。
- 事業の目的
- 事業の内容
- 市場環境
- 経営計画
- 資金調達
- 損益収支計画
事業計画書を作成する上での留意点としては、次のようなものが挙げられる。
- 注目する名前やキャッチフレーズなどを事業につける
- 事業計画書が厚くなったら要約を作る
- とにかく分かり易く、第三者の目で評価
- 事業計画書は変化する
- 人は説得でなく、納得して動く
事業計画の立て方
様々な事業計画書の内容があるが、具体的にはこの3つの観点を軸にして考えていく
- 「夢・ミッション」→ビジネスの使命は何ですか?
- 「マーケティング」→事業のテーマ・内容をしっかりと設定しましょう
- 「顧客と支援者」→誰を顧客として設定し、誰を協力者にしていくか
企画の3要素
- 効果と期待
- 技能と実績
- 意欲と将来性
事業計画の構成
1.事業の目的
自分がこの事業に対する思いをぶつける項目となる。社会にとって、この事業が必要なんだ!という思いを誰でもわかるとおり、納得性のある文書で書く。人の心を動かすようなメッセージが書ければなおよい。
2.事業の内容
具体的にどんなサービス提供・商材販売を行うかという項目。必要な体制の準備もどのようにやるかについてもイメージできるようにする。
3.市場環境
事業を進めていく上で一番大事な要素である世の中のニーズや必要性、支援者や要支援者の状況を分析した項目となる。必要としている可能性のある方はどのくらい存在していて、そのうち、どのくらいがターゲットと見込まれ、現在どれだけのニーズがあるのか等を示す。事業の必要性とともに、支援者がどれぐらい見込まれるかなども訴えかけていく。事業を行うのに可能性の高い、魅力的な市場であることをアピールする。
4.経営計画
実際にスケジュールを決め、どんなアクションをしていくのかを示す。項目的には受入準備、ツール開発、仕入・設備調達、人材調達、販売、営業開拓、経営者紹介などに関するアクション計画となる。実際にはこの部分が第三者が具体的に判断する箇所。すでにどれぐらい支援者がいる、見込みがこれぐらいあることなども有効。
5.資金調達
経営計画がしっかりかければ、必要資金が見えてくる。どのタイミングでどのように資金を調達するのかを計画していく。余裕を持つ資金計画が重要。特に支援者からの寄付がどのように見込めるか、借入金の返済は具体的に償還原資がどのように生み出せるかなど、資金調達のシミュレーションも検討しておく。
6.損益・収支計画(損益計算書)
決算資料のひとつである損益計算書を見込みで構成する。月単位でまずは作り、売上や仕入、コスト、利益の推移を見れるようにするして、3年~5年分の損益計算書が作ることができれば、これから取り組む事業の行く方向が見えてくる。
事業計画書に盛り込みたい具体的な項目
顔と顔を突き合わせてのプレゼンテーションでは、大いに実現したい夢・ビジョンについて時間の限り、語り掛けていくが、手元でしっかりとつくる事業計画書は緻密で実際的でなければ実行力をもつことができない。
①ビジョン(夢)とポリシー(行動基準)
利益よりも夢、利益で人を集めない、可能性よりも決意
・出会った人に夢を語る
・目の前の人に完璧なまでに感動させる
・常にお客様の想像を越えた結果をだす
[チェックリスト]
- ビジョンとポリシーは明確か?
- 自分がやりたいことになっているか?
- 事業の発展が社会や人々を幸せに結びついているか?
- これからの社会で必要とされるべき事業であるか?
②独自の事業価値
この事業は「未来の方向性」「現在のポジション」「実際の経営資源」「外部環境・内部環境の現状分析」「課題点の整理」はどうなっているかを紐解いていく。
[構成内容]
- 事業の背景(社会環境・マーケット)
- 事業のコンセプト(どのような考え方で何を目指しているのか)(何のための事業か)
- 事業のポジショニング(どのような新しい方向性を持っているか)
- 事業の根拠がわかるように
- 事業のポイント(他にはできない、ならではの技術やノウハウ)
- 事業の全体図
・主観よりも客観・・事実で示す
・イメージよりも真実・・・事実は崩れない
・説明よりも体験・・・五感で示す
・ニーズのリサーチ
・事業の成功を意味づける客観的なデータ/資料
・相手に対する要求が明確になってくる・・・解決すべき課題が明記
・本物としてのノウハウをつくる
・遠いところでも行ってみたい
・何度でも行ってみたい
・仲間へ伝えたい
[チェックリスト]
- 独自性について(こだわりは何か)?
- 顧客ニーズはあるか?
- 完成度の高さは?
- ほかには独自性はどこか?
③具体的な商品・サービス
読ませるよりも、見せる・・・関心を持たせる
[構成内容]
- 商品・サービスのイメージ、具体的な内容
- 対象顧客
- 今後の技術展開、商品展開
- 他社に負けないノウハウ
[チェックリスト]
- 技術ノウハウはあるか?
- 商品の特徴は明確か?
④戦略構想とアクションプラン
未定よりも予定・・・すべて決める
理屈よりも実績・・・準備を整える
- 成功のための最重要課題の抽出と最優先の戦略の整理(解決の方向付け)
- 効果的かつ実現可能性の高い資金調達の戦略の全体構成
- 中長期視点に基づく継続的な支援関係構築までのストーリー設計
- ガントチャート化した取り組み事項の時系列的フロー図(年次計画)
[構成内容]
- 広告・宣伝
- 販促・営業
- 運営・管理
- 生産・管理
- 人材募集
- 事業展開スケジュール(発展性)
展開ステップにおける具体的実行レベルの内容が明記されている
- いつでも多くの問題点を見つけ出す
- 毎日考え、毎日改善する
- 自宅ではじめる
- 失敗してもすべてノウハウになる
はじめは知恵と労力でノウハウを確立し、実績をつけてから最後に投資する
[チェックリスト]
- 宣伝・告知は検討されているか?
- 販売の手段は適切に選択されているか?
- 人材はどこから要請して、事業の進展と共にどのように養成していくか?
⑤経営効率
すべての数字に明確な根拠がある
投資は常に最小限
(実現性)どこまで準備できているか と(収益性)売上根拠
[構成内容]
- 組織図
- 既存事業、他社との比較
- スタートアップ期、短・中・長の目標
- CIデザイン
- 事業の課題と対処法 不測時プラン
- 収支計画
- 事業開始時、開始後の必要資金の計算
- 事業収支計画がち密で現実性があること
- 資金獲得シミュレーション
- PDCAサイクルを進捗管理の方法と体制
- KPI(key performance indicator)重要業績評価指標の設定
- 進捗状況に応じた、コンティンジェンシープラン
[チェックリスト]
- サービスについて具体的か?
- 資金について実現可能か?
- スタートできるか?
⑥支援メニュー
- 魅力的な支援メニュー(構想・支援のメニュー化・物語)
- 広報発信の方針
- 既存メニューの取り組み評価と改善提案
- 支援メニューの多様化と優先順位付け
- 提案シナリオ作成のポイントの整理
- クラウドファンディングとSNS活用を含むウェブの戦略的活用
- メディア露出・PR戦略と募集案内の構成ポイント
- キャンペーン企画とイベント設計(ピークイベント等)
⑦人財体制と情報基盤
- 働きかけ人財の体制とサポートチーム
- 人財養成計画
- 支援者との関係性を深めるための情報基盤
⑧添付資料
自分自身のプロフィール
協力者名簿
関係会社名簿(仕入れルート、製造ルート、流通販売ルート)・・・書籍、累計販売数
使用ツール
・・・パンフレット、ホームページ
・・・モデル、構想図、パース、設計図
[ビジョンから年度目標へ]
ビジョン(近未来のありたい具体的な姿)を一年ごとに分割すれば年度目標になる
未来から発想して、逆算して現在からの道程を描き出す。
目標:何を、いつまでに、どこまでやるか
ビジョン(3-5年先の中期計画)
↓
年度目標(1年後までに達成する計画)
↓
月度目標(目標の再分化/ブレークダウン)
目標があるからできたか、できなかったが具体的にわかり、明確な評価改善ができるようになる
[年度目標を設定するための3つのPDCA]
第1のPDCAサイクル(日々の自己評価)
第2のPDCAサイクル(定次的な内部監査・マネジメント・レビュー)
第3のPDCAサイクル(受益者や支援者からみた評価)
繰り返すこと(継続性)が不可欠。
課題や目標を明確にし、総括され次年度の「年度目標」につながる。
「年度目標」を立てるには、目標に沿って運営した結果、その目標がどこまで達成されたか、その目標を掲げることによってどう改善したのか、ということを「評価し、実感できること」が重要。そのように評価し、実感できれば、次に取り組むべき課題を検証し、見直すことにより合理的に次の「目標」を導くことができ、その過程は、自然に表面へと表れていくもの。
ファンドレイジング・コンサルタントへの道
▷ #25 個別支援と動機づけ
▷ #24 ビジョンへ向かうアクションプラン
▷ #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認
▷ #22 ソーシャルセクターの組織と役割
▷ #21 ソーシャルセクターの経営と役割
▷ #20 効果の高い事業紹介のコツ
▷ #19 効果的なイベント出展のコツ
▷ #18 共感性の高い主催イベントのコツ
▷ #17 イベント協賛のアプローチをする
▷ #16 ファンドレイジング・イベントを企画する
▷ #15 計画の進捗を管理する
▷ #14 事業計画をたてる
▷ #13 現状確認と課題解決
▷ #12 ゲームの活用
▷ #11 効果的な研修手法について2
▷ #10 効果的な研修手法について
▷ #09 研修の組み立て方
▷ #08 寄付のハードルを下げる「寄付付き商品」の活用
▷ #07 ベストプラクティクスを研究して、提案の引き出しを増やす
▷ #06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣
▷ #05 ヒアリングの技術を磨く
▷ #04 話す前に~120%の準備で70%のチカラを発揮する
▷ #03 周囲を引き寄せていくための話し方
▷ #02 コンサルタントに必要な技能
▷ #01 コンサルタントの役割