経営/マネジメント
週末に活動する財団をつくりたいのですがどうすれば良いでしょうか?:ソーシャルセクターのお悩み相談BOX 第3話
Q3・前回の記事を拝読していて、その上でお伺いします。仕事仲間と週末にできる財団をつくり、貧困問題等に取り組むところへ寄付したいと思っていますが、どうすればよいでしょうか?
A3・営利を追求する事業活動で社会から得た利益を、社会へ還元するだけでなく、さらに自分たちで関わって非営利で活動する社会貢献団体をつくり、自分たちで完結する社会貢献、社会還元をやり遂げたいというニーズは強く、著名人の方々も自らの名前を冠する財団をつくるなど数多くチャレンジされています。
財団法人には利益追求を許された「一般財団法人」と、公益性を求められる代わりに税制優遇などが受けられる「公益財団法人」の2種類があります。登記手続きのみで設立可能な一般財団法人は、利益追求のための活動がメインでもよいのですが、寄付金に対して税の制優遇が与えられている公益財団法人は「公益認定基準」を満たし、かつ欠格事由に該当していない場合にのみ、「公益認定」を受けて設立が可能で、団体の本質が「公益目的」である必要があるといった違いがあります。
財団をつくり、助成金を送るなどの活動し、助成した先がどうなっているかなどステージに応じて検討できるように解説していきます。
ステップ1:財団をつくる
ステップ2:助成先を検討する
ステップ3:生み出した成果を確認する
ステップ1:財団をつくる
前回にも解説しましたが、財団とは、その名が示す通り「財団が集まった組織」であり、具体的には「寄付によって集められたお金(=財)」をもとにして組織を整備して、それに法人格を与えています。人の集まり=社団法人やNPO法人とは異なり、まず「主体が財にある」のが特徴で、財団法人のスタッフというのはまさに「お金に仕(つか)えています」。
言い方を変えると「集められたお金(=寄付金)をどのように社会の為に役立てていくか」が財団スタッフの仕事ということになります。
財団スタッフにはもうひとつ重要な役割があって、集めたお金(=寄付金)を使って、公益目的(「学術、科学技術の振興」「文化、芸術の振興」「障害者、生活困窮者、事故・災害・犯罪の被害者の支援」「高齢者福祉の増進」など)に助成して、どんな成果が得られたかを集めて、それを寄付者へ伝える役割です。こちらのほうは後半で詳しく解説します。
財団をつくるには300万円以上の基本財産が必要
一般財団法人は、登記するだけで設立できる法人格ではありますが、手続きとして設立時に300万円の基本財産が必要になります。これは設立者1名が拠出しても大丈夫です。
そして、設立時メンバーですが、一般社団法人であれば2名いれば設立できますが、一般財団法人は7名以上の設立メンバー(最低、理事3名、評議員3名、監事1名)が必要となります。設立者を除き、各役職(理事、評議員、監事)は兼任できませんので、ご注意ください。
財団設立の手順
一般財団法人は登記のみで設立が認められます。法人の設立は、次の手順で行う必要があります。
ステップ1 定款を作成する
ステップ2 公証人の認証を得る
ステップ3 設立者が300万円以上の財産の拠出を行う
ステップ4 設立時の評議員・設立時の理事、監事を選任する
ステップ5 設立手続きの調査を行う
ステップ6 法務局へ設立の登記申請を行う
ステップ7 登記完了後、登記事項証明書や印鑑証明書を取得する
ステップ8 各行政機関へ法定の届け出を行う
ステップ1 定款を作成する
まず設立者を決定します。1人でも2人でも問題ありませんが、財産を拠出しない方は設立者にはなれません。法人も設立者となれますが、理事などの役職へ就任することはできません。
設立者は、法人の名称、所在地、事業目的、設立時理事、評議員、監事などの一般財団法人の基本事項を定款へ反映させて、定款原案を作成します。
ステップ2 公証人の認証を得る
次に公証役場へ行って、公証人から定款の認証を受けます。事前に専門家の協力を得ていない場合には、定款原案を公証役場へ持参し、チェックを受けましょう。公証人とは、たったひとり独立して成立している役場(行政機関)で国民の生活や企業の活動を維持するための不可欠な公的サービスとして、ある事実の存在、もしくは契約等の法律行為の適法性等について、公権力を根拠に証明・認証(公証)する者とされ、他にも公正証書遺言や公正証書の作成などを行っています。
公証人からの修正の指示があればそれに従って修正し、最終的に問題のない定款ができたら、設立者全員が実印で押印します。認証日には、定款・設立者の印鑑証明書及び実印を持参します。
ステップ3 設立者が300万円以上の財産の拠出を行う
定款が認証されたら、設立者は定款に記載した財産を直ちに指定の銀行等に納めます。まだ法人設立前ですので法人名義の銀行口座がありませんから、設立者の個人口座へ振り込みます(複数名要る場合には代表者を一人決めてその方の口座へ)。拠出金額通りとなるように、振込手数料などを引かないようにしてください。
もちろんネット銀行でもOKです。全ての振り込みが済めば通帳のコピーなどをとっておきます。
ステップ4 設立時の評議員・設立時の理事、監事を選任する
定款で定めた、それぞれ3人以上の設立時評議員及び理事、1人以上の監事を選任し、評議員会・理事会を設置します。通常、設立時役員である評議員、理事(代表理事)、監事は定款で定めることができますので、定款附則に直接氏名を記載して選任します。各役員からは就任承諾書に署名しておいてもらいます。
登記申請の際には、定款または設立時役員を選定した書面と就任承諾書が必要になります。
ステップ5 設立手続きの調査を行う
選任された設立時理事、設立時監事は、選任後遅滞なく、設立手続きが法令または定款に違反していないかの調査をします。
具体的には、設立者からの財産拠出の履行が完了していること、一般財団法人の設立の手続きが法令または定款に違反していないことを調査し、違反があったり不当な事項があった場合には、設立者にその旨を通知しなければなりません。
ステップ6 法務局へ設立の登記申請を行う
設立時の代表理事が一般財団法人の主たる事務所を管轄する法務局へ設立登記を行って、設立が完了します。設立時理事の調査が終わった日または設立者が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内に登記申請を行います。法務局へ登記申請した日が法人の設立日となります。
設立日を希望する日にしたい場合は前もって法務局へ書類一式を持参して事前にチェックをしてもらったほうが確実です。書類が足りない等、不備がないように余裕をもって準備しておきましょう。この段階で、法人実印や銀行印などを作っておくとよいでしょう。
ステップ7 登記完了後、登記事項証明書や印鑑証明書を取得する
法務局への登記申請から登記完了までは通常1週間程度かかりますが、法務局から「何も連絡がなければ」無事に登記完了です。
登記完了後、法人の印鑑カード、登記事項証明書、印鑑証明書が取得できます。個人の場合であれば、マイナンバーカードを使って、こうした書類が全国のコンビニ等で容易に取得できるようになりましたが、現在のところ、法人にはその利便性は与えられていません。そこで法人印鑑カードを取得されるのをおすすめします。法人印鑑カードは代表理事が申請した法務局の窓口に法人実印と身分証明書を持参すれば、即日発行されます。
法務局によっては、この法人印鑑カードがあれば、手続きの一部を省略して、比較的に早く、印鑑証明書、登記事項証明書も取得することができます。またオンライン申請もできますが、交付方法が登記された住所への郵送されるため、かえって日数を要することになるので、窓口へ並ぶほうが、結果的には確実に早く入手できます。
個人の場合であれば、同じくマイナポータルから「引っ越しサービスのワンストップ化」等が図られていますが、法人の場合には、次の各行政機関へ設立届等を提出する際には、それぞれに登記事項証明書、印鑑証明書が必要になりますので、複数枚、取得しておくのがよいと思われます。
ステップ8 各行政機関へ法定の届け出を行う
登記完了後、税務署、都道府県税事務所、市役所へそれぞれ設立届/開業届を提出します。必要に応じて、年金事務所、ハローワーク、労働基準監督署へも届出を行います。
法人としての登記事項証明書や印鑑証明書があがるようになっているので、金融機関に法人口座を持つことも可能となります。多くは定款や団体としての実際活動資料(HPのコピーや事業計画)の提出が求められます。最近は、大変審査が厳しくなっていますので時間的なゆとりをもって対応いたしましょう。無事に口座開設ができれば、設立時に拠出した基本財産を移しましょう。
ものすごく簡単に書いたつもりですが、かなりの尺をとってしまいました。これらの手順は、前回に紹介した通り「準則主義」なので、定款ひな型に沿って進めれば問題なく進められるのですが、実際にはそれらを専門にやっているわけではないので、手間がかかることを覚悟しておく必要があります。
もうひとつの方法は「行政書士などに委託する」ことです。手続きに精通していて、つくりたい法人の内容に応じて定款案も作成してもらえるので、公証役場からの手直しも少なくなります。
ただしその場合においても、各種届出や法人口座の開設などは自分たちでやらなければならないので、その余裕を見ておきましょう。
マイナンバーカードで営利法人設立が簡単になりました。
これまではいろいろな書類を用意して手続きをする必要がありましたが、マイナポータルでワンストップ法人設立関連手続きがスタートしています。ただし現在は、会社などの営利法人のみですが、今後、運用が拡がることを期待しています。
マイナカードによる法人設立(https://app.e-oss.myna.go.jp/Application/ecOssTop/)
「かんたん問診」で質問に答えることで必要な手続きをリストアップ、申請手続きも選択できる。法人設立後の設立届/開業届も含まれ、その進捗も確認できる。
つくるのも大変だが、解散するのも大変だ。
これまでみてきた通り、財団法人を設立するのも大変ですが、解散する際にも会社法人と同じく手続きがあり、特に財務財産の帰属、清算手続き、清算年度の確定申告と税金納付、法人口座の閉鎖などしっかりとする必要がありますので、解散も多大な労力がかかることを予め知っておいたほうが良いかと思います。
一般財団法人は一般社団法人と同様、「営利を目的としない」ことが特徴として挙げられ、あくまで「収益を出してもいいが、その余剰利益を分配できない」という意味になっています。つまり、株式会社(営利法人)のように、儲けを株主や構成員に分配するできないので、残余財産については、定款に定めた通り、趣旨を同じくする団体または国、地方公共団体などへ帰属させることとなります。
ステップ2:助成先を検討する
さて、実際に寄付金を送る先を検討して、送付するにもいくつかの方法があります。
ひとつは、自分たちで情報を集めて、よいと思った団体へ自分たちの責任で寄付することです。今回のご相談の主旨はここにあると思いますが、自分たちだけでお金を出して、自分たちだけで候補をリストアップして、評価して、寄付するというのは、自己完結型でとても良い取り組みだと思っています。これ自体は、法人格を取得する(財団をつくる)ことをしなくてもできることであるので、前回に書いた通り、任意団体でやっていくことについてはご検討いただいても良い点です。
しかしながら「財団をつくる」もうひとつの意義でもありますが、多くの人びとや資源の受け皿となって、資金(寄付)を集めて、その参画する人々を増やすというやり方もあります。その場合には、集まったお金をどのように社会に役立てていくかを伝えるのが財団の仕事に加わります。つまり財団が設立趣旨(ミッション)を掲げ、賛同していただいた方から寄付をお預かりして、それを助成して支援していき、その成果についてまとめ、また寄付してくださったみなさんにご報告することが財団の役割となるのです。
この点は、仲間内で資金を提供して、仲間内だけで運営していったとしても、寄付先(助成先)に対しての成果をまとめて、仲間内で確認するというのは同じです。
また助成や寄付もどこまでやるかもあります。社会貢献するため選定した団体へ寄付するだけでも大事な取り組みになりますが、助成金募集要項の設定、募集(公募)、支援現場との連携といった支援者と支援先を結び付けていく取り組み、これがまた面白く、財団運営の醍醐味にもなります。
いずれにしても大変な業務になるので、財団の運営そのものを外部へ委託することもできます。その極めつけは「マンション型財団」として、そうした寄付者(基金設立者)の意向を汲んで、すでにある公益財団法人の中などに、「○○基金」といった名称で、収支明細が分かるようにして、財団法人を設立しなくても実質、自分たちで寄付した資金をプールして、助成先を選定して、送ることができます。ただし、その場合においても、なぜそれに取り組みしたいと思ったのか、どのように生かしていきたいかは、大切になります。
ステップ3:生み出した成果を確認する
助成した(寄付した)団体から成果を集めて良い影響が出ているか(インパクトを計測する)も大事な指標です。「インパクト」とは世の中や人々に良い影響が出ている状態を指します。しかしながら、企業などの事業活動とは異なり「社会を変えていく」ことは、小さな仕組みや蓄積を重ね、人々の認識を変えていくということもありますので、長い目で見て、土壌を育てていく心構えも大切です。大半はすぐにそんなに大きな成果は出ないものですし、また一過性のものにしないためにも継続の姿勢は重要です。
俯瞰的に眺めて「自分が受け継いだ世界よりも少しでも良くして、次の世代へと引き継いでいく」いわば100年単位での視座で見守るぐらいの気構えと忍耐も必要といえるでしょう。
最後に、財団の基金の持ち方については2通りあります。
- a)元本取崩し型
- b)資産運用型
a)元本取崩し型は、一般的で集まったお金(基金)を毎回助成する(寄付する)たびに、少しずつ取り崩していくやり方で「一定の期間で集中して効果あるところへ」助成していき、数年のうちに基金を使い切ります。
b)資産運用型は、もともとの財団のありかた、考え方でしたが、昨今のような低金利の時代では単純に金融機関へ預入していても、そこから得られる果実(利息)はわずかであるため、もっと利回りの良いもので運用するようになってきました。
a)のように、使い切るのではなく、元本を残して、その運用益で助成(寄付)していくため、継続的な支援を行うことができますが、元本としてある程度、大きな資金(寄付)が必要となります。
ちなみに、現実の財団法人では、このふたつを組み合わせているところもありますので、うまく進められるようになれば、これが実態に即している形なのかと思います。
本稿で取り上げたい「ご質問」「ご相談」がございましたら、ぜひお聞かせください。
ソーシャルセクターのお悩み相談BOX
▷ 第17話:「不確実性の時代」にわたしたちはどう備えるか
▷ 第16話:デジタルツールの導入で備えること
▷ 第15話:ソーシャルセクターはいつまでも清く貧しく?
▷ 第14話:20周年でできること
▷ 第13話:寄付目標額を立てるには?
▷ 第12話:寄付依頼の手紙のポイントは?
▷ 第11話:私にもできるファンドレイジング
▷ 第10話:クラファンで成功するためには
▷ 第9話:寄付先選びのポイント
▷ 第8話:ファンドレックスのお仕事カタログ
▷ 第7話:中間支援組織に必要な機能は?
▷ 第6話:人が続かない、どうすればよいか
▷ 第5話:ファンドレイジングって、結局、何?
▷ 第4話:寄付額が減っている。どうしたらよいか?
▷ 第3話:週末に活動する財団をつくりたいのですがどうすれば良いでしょうか?
▷ 第2話:どのような法人格が良いでしょうか?
▷ 第1話:団体の世代交代を進めるうえで何が必要でしょうか?