経営/マネジメント
どのような法人格が良いでしょうか?:ソーシャルセクターのお悩み相談BOX 第2話
Q2・いつも楽しく拝見しております。ふだん、営利組織で働いておりますが、何か世の中の役に立ちたいと思い、新しく団体を設立したいのですが、どのような法人格がよいのでしょうか??
A2・日夜、事業の隆盛を図り、経済を動かす原動力となって精励されていることに深謝申し上げます。その中で「ソーシャルセクターへ新しく船出をしたい」という、大変尊い想いに感服いたします。
どのように考えを整理していけばよいかについてお伝えしていきたいと思います。
1.任意団体でできないか
法人格を取る意義、法人格を取得するとは「事業継続と情報公開」によって「社会的な信用を獲得するための手段」と言え、一言で言えば「永続性」と「覚悟」を示すことにあると言えます。
メリットとしては、
- 法人を契約主体にできる、契約できる。銀行口座が持てる。
- 所有できる。不動産の登記や自家用車・備品。代替わりしたときの相続問題の解決となる。
- 社会的信用が増しやすい。社会的事業の担い手をアピールできる。
- 補助金・助成金を受けやすくなる。
- 寄付金が集めやすくなる。
- 幅広く市民に参加を呼び掛けやすくなる。
反面、デメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 申請提出書類が多くて、煩雑。
- 法にのっとった法人運営を行う必要がある。総会の運営、変更の届け出、会計の原則 等
- 活動内容が、定款や総会の決定に拘束される。
- 活動しなくても法人税等、毎年最低7万円の税金が課税される。
事業所得には法人税と同じルールで課税。消費税にも課税。 - 職員には最低賃金の保障、労働保険(労災・雇用保険)社会保険の加入等、労働環境の整備が必須となる。
こうした「オトナチックな手続きは煩雑で嫌だ」「そこまでの覚悟がない」という場合には、あえて法人格を取得せずに任意団体として活動されることをお勧めいたします。
2.団体の銀行口座は新規で持ちにくい
任意団体にしても、法人格を取得したとしても、お金のことは、小口現金を手元に持っているとトラブルのもとになるので、金融機関に口座を開いて管理しておくのが、透明性も維持できてよいと思います。しかしながら、実際問題として、現在、新規口座は大変持ちにくくなっています。
任意団体の場合でも、何のための組織か、どのような運営をしているか、などが審査の対象になるので、定款をつくり、設立の議事録などを整備しておくことが大切です。
金融機関においては、反社などの資金洗浄(マネーロンダリング)ではないかとの審査が厳しいので、法人代表者個人の信用が重要となります。
3.どのような法人格がよいかは、何をどこまで目指すかによる
任意団体ではなく、法人格を取るということは、社会的に団体の存在をきちんと報告して、活動を進めていくということは、「よりガバナンスをきかせてコンプライアンスに取り組む」ということになります。
ソーシャルスタートアップとして、ぜひ新しい組織を組成していき、多くの人が参画できる元を生み出していってください。
様々な社会貢献団体
非営利とは、株式会社のように株主に利益の配当をしないという意味で、一般社団法人でも「非営利型」や「共益的活動を目的とする」法人で「要件を満たす」ことで選択できます。
「社団」とは人のあまりのことで仲間が集まって活動を始める法人、「財団」は基本財産を軸にそれを取り扱う法人、「NPO法人」は社団と似ていますが、仲間が集まって、よりしっかりとした活動を進める法人ということができます。
NPO法人と社団法人
4.設立の手続きは、プロの手を借りることもできる
私は、ここに記載してある、株式会社、一般社団法人、一般財団法人、NPO法人、記載にはありませんが有限責任事業組合(LLC)などを実際に設立して、運営してきた経験を有しています。その見地からも含めて、様々な法人格の特徴については、一覧にしてみましたので、参考にしてみてください。
様々な法人格の比較
実際の法人の設立(登記)においては、準則主義といって「定款」などのひな型がいくつも公開されているので、それに則って、自らの団体の定款をつくり申請すると、法律に準拠する場合には、その成立を認可するというものなので自分たちでもできますが、行政書士などの力を借りると時間とノウハウを節約することができます。
私自身は、こうしてお伝えはしていますが、実務としてはそうしたプロに頼んで、さらにいろんなチェックもしてもらっているので、大変有難いと思っています。プロの手を借りることはおすすめです。
一般社団法人設立の手順
一般社団法人設立の手順
NPO法人設立の手順
株式会社設立の手順
定款にはひな型があるので、その通り進めていくことで、最低限のガバナンスが効くようになります。
しかしながら、くれぐれも「法人をつくることが目的化しないように」、作ることが最大の目的ではなく、社会の一翼を担い、作ってからがいよいよスタートとなります。そのため、法人格よりも、そのあとの運営方針、どのような資金で運営するのか、何のために、誰の為に、どのようにして運営していくのかといった「事業計画」が最も大切になります。
みんなで決めて何を目的にしていくかをはっきりと定款に定めることが必要です。
5.成功と失敗の境界線はここだ。
ひとりでやれることはたかがしれているので、多数でやるほうが現実的で持続可能となります。そして、やがては代替わりしていくことも考慮しておかねばなりません。反面、参加するメンバーの役割分担など調和が大切となってきます。
「仲間は募らない、ひとりでやる」というならば、なぜ法人化するのかをよく考えておきます。
法人化するということの意味は、前述の通り、永続性、信用創造、ガバナンスとコンプライアンスをより高い段階にするということに尽きます。そのため、つくるのも大変だし、解散するのもとても大変です。
特に休眠団体はいま、マネーロンダリングの温床など課題となっているので、注視されています。登記した後、休眠状態にならないように毎年きちんと報告したり、数年に一度、役員名などをきちんと登記する必要があります。
なぜ、その団体をつくるか、についてはその団体・組織の設立意義、いわば「魂」ともいうべきものなので、何のためにその組織が存在しているか、「存在意義=ミッション=使命」を繰り返して、考えぬいていきます。まさに「脳に汗をかく」ぐらいに、何度も何度も踏み込んで考え抜いていきます。
これは、法人格をいずれを選択するにしても、大切ですので、考え方を整理するためのワークシートを用意してみましたので、活用ください。
ミッション
次の発起人会の進め方は手順を記したものととらえずに、どんなことを決めておかなければならないかをよく吟味するために活用してみてください。たとえ、ひとりで団体をつくる場合にも有効となります。
要するに、法人格の選択の前に、何を為すべきなのか、どのような社会的課題に対してどんな課題解決策を事業として進めていこうと思っているのか、実現したい状態(ビジョン)は何か、何のためにやっていくのか(使命ミッション)を整理してみてください。
発起人会のポイント
最後に、実際、団体をつくって船出をしようとしたときに、組織が上手く社会的課題に取り組み、その解決に導けるかについては、以下の2点のどちらかを選択されたらと思います。
A.人がやらないニッチなビジネスを地道に進める
B.大勢が参入するビジネスでは自分が絶対的な優位性を保つことができる方法を考える
本稿で取り上げたい「ご質問」「ご相談」がございましたら、ぜひお聞かせください。
ソーシャルセクターのお悩み相談BOX
▷ 第17話:「不確実性の時代」にわたしたちはどう備えるか
▷ 第16話:デジタルツールの導入で備えること
▷ 第15話:ソーシャルセクターはいつまでも清く貧しく?
▷ 第14話:20周年でできること
▷ 第13話:寄付目標額を立てるには?
▷ 第12話:寄付依頼の手紙のポイントは?
▷ 第11話:私にもできるファンドレイジング
▷ 第10話:クラファンで成功するためには
▷ 第9話:寄付先選びのポイント
▷ 第8話:ファンドレックスのお仕事カタログ
▷ 第7話:中間支援組織に必要な機能は?
▷ 第6話:人が続かない、どうすればよいか
▷ 第5話:ファンドレイジングって、結局、何?
▷ 第4話:寄付額が減っている。どうしたらよいか?
▷ 第3話:週末に活動する財団をつくりたいのですがどうすれば良いでしょうか?
▷ 第2話:どのような法人格が良いでしょうか?
▷ 第1話:団体の世代交代を進めるうえで何が必要でしょうか?