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「不確実性の時代」にわたしたちはどう備えるか:ソーシャルセクターのお悩み相談BOX 第17話

Q17・いまは予測しづらい時代です。助成金を申請するにしても数年後のなりたい姿やインパクトについての記入を求められますが、予測不能な社会的な環境変化もあり、どのように対応していけばよいか、いつも悩んでいます。

A17・先日も台風10号が日本列島を迷走して、当初は日本を横断する予報だったのが、左に大きく廻り、結局、ゆっくりした速度で九州から四国へ横断して東海沖に抜け、のちに北上して近畿東海へいき熱帯低気圧になりました。災害被害に備え、予報を基にして新幹線などが計画運休を発表していましたが、刻々とした予報の変化に併せて運行計画も変化をせざるを得ない状況で、加えて台風本体よりも遠く離れた地域で線状降水帯が発生して豪雨被害が出て、新幹線も運転停止になるなど大きく影響を与えました。

温暖化によって日本近海の水温・海流が変わり生物などへの影響も懸念されます。こうした気候変動や災害多発といったる要因ばかりでなく、感染症やAIの急激な発達など経済的・社会的な変化が目まぐるしく、世の中の変化を予測しにくい今を「VUCAの時代」と称することがあります。

予想しづらい「不確実性の時代」

VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって未来の予測が難しくなる時代の特性を表しています。元々はアメリカで使われていた軍事用語で、1990年代に米露の冷戦が終結し、核兵器ありきだった戦略が不透明な戦略への変化を表現する言葉でした。その後、2010年頃から変化の激しい世界情勢を表す言葉としてビジネスを中心に利用されるようになってきたのです。

筆者はもともと情報セキュリティ(ISO27001シリーズのような組織が保有する情報に関わるリスクを適切に管理する)に取り組んできた一環として、不用意な状況によって事業が停止することがないように予めリスクを点検して事業の継続を計画する「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」を作成してリスクマネジメントしていく取り組みに関わってきており、地域の団体へ研修を通じて啓蒙や計画づくりを指導したことがありました。

こうした場合においても、前提となる予報が時間に合わせてめまぐるしく変化するといったように、条件や環境変化が引き起こす対応不能な事態ということは往々に出てきます。

そうした場合の対処の仕方としてのヒントは、次の3つでした。

  1. 備えよ常に
  2. 臨機応変
  3. 前向きにとらえる

備えよ常に

東日本大震災という日本の災害史上例を見ない、複合災害(大地震・津波被害・原発被災)が起こった際に、よく聞いた言葉のひとつに「想定外の事態だった」というのがありました。

実は日本の街づくりや建築法規などは災害の歴史によって被災経験を受け、さらに進化してさらなる被害を押さえてきています。

いまから100年ほど前の大正12年(1923)に起こった関東大震災での被災者は若年者ほど人数が多くそのほとんどは地震の被害というよりはそのあとに発生した火災による焼死でした。その結果、耐火性の高い建材を使用され、消防車が通行できる街づくりなどが実現していきました。平成の阪神大震災(1995年・平7)では耐震基準、特に木造の耐震が強化され、東日本大震災(2011年・平23)では、原発をいったんすべて停止して、立地や運用基準を新しくして厳格に進め、自然エネルギー発電が増え、沿岸地の防潮堤や高台移転なども進み、災害関連死を防ぐための見守りなどは孤独孤立対策として全国へ広がりました。

これらの例が示すことは、それまでの想定していた範囲を越えて発生する事態に対しては、「想定の範囲を拡げて」対応策をとっていくということです。

「そなえよつねに」はBe Preparedというボーイスカウトのモットー(創始者ベーデン-パウエルの頭文字(B-P)でもある)で、人の役に立つという「心の準備」と「必要な技能」が備わっておれば、とっさの時にも対応できるというものですが、「つねに」には現状に満足せずに不断の努力を続けていくという意味合いも込めてあるので、想定の範囲を拡張して準備を進めていくことがまず大切だと思っています。

臨機応変

それでも想定していたこと以外の変化は突然にやってきます。そうした時の対処としては、現場を全面的に信頼して「臨機応変」に対処することです。それに際しては「前例にとらわれない」大胆で自由な発想が大切になってきます。というのは、人にはよく言われる「正常時バイアス」がかかってしまい、最悪なことは起こらないという期待的な思い込みが往々に発生するからです。「備えよ常に」のところで紹介したように、状況が変化する事前準備と異なるため大変ではありますが、変化を受けて新しい常識が発生していくプロセスとみることもできるので、現状を見極めて最善策を選択できるようにしていったらと思います。

事業の進捗においても想定通りにいかない場合には「PDCA」を回して改善するように、現場で事前の策や前例からだけでない選択をできるようにしておきます。

前向きにとらえる

予定した通りにならないだけでもイライラが増してくる状況で冷静さを保つことは難しいのかもしれません。しかしながら、もうひとりの俯瞰してみている自分から「せっかく○○なんだから・・・」と言われると、逆にその条件変更を逆手にとってできる範囲を拡大してチャレンジしてみることができるのではないでしょうか。

助成金申請で一年後の姿はともかく、数年後の姿について自分たちが普通に活動していたらその通りになっているだろうなぁというところから「脱却して」あえてチャレンジングな目標を掲げていくことも選択の一つです。それを口酸っぱくいっているうちに本当に実現してしまったというのはよくあることです。

変化によっていままでできなかったことができるようになる「ピンチはチャンス」というのも、こうした開き直りの心持ちで機会を活かしていこうという姿勢ではないでしょうか。

本稿で取り上げたい「ご質問」「ご相談」がございましたら、ぜひお聞かせください。


ソーシャルセクターのお悩み相談BOX

▷ 第17話:「不確実性の時代」にわたしたちはどう備えるか
▷ 第16話:デジタルツールの導入で備えること
▷ 第15話:ソーシャルセクターはいつまでも清く貧しく?
▷ 第14話:20周年でできること
▷ 第13話:寄付目標額を立てるには?
▷ 第12話:寄付依頼の手紙のポイントは?
▷ 第11話:私にもできるファンドレイジング
▷ 第10話:クラファンで成功するためには
▷ 第9話:寄付先選びのポイント
▷ 第8話:ファンドレックスのお仕事カタログ
▷ 第7話:中間支援組織に必要な機能は?
▷ 第6話:人が続かない、どうすればよいか
▷ 第5話:ファンドレイジングって、結局、何?
▷ 第4話:寄付額が減っている。どうしたらよいか?
▷ 第3話:週末に活動する財団をつくりたいのですがどうすれば良いでしょうか?
▷ 第2話:どのような法人格が良いでしょうか?
▷ 第1話:団体の世代交代を進めるうえで何が必要でしょうか?

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