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デジタルツールの導入で備えること:ソーシャルセクターのお悩み相談BOX 第16話

Q16・いつも拝見しています。世の中に新しいガジェット、デバイスやウェブサービス、生成型AIなどのデジタルツールもたくさんでてきました。デジタル化の進展の中で、私たちはどう付き合えばよいのでしょうか

A16・数年前まで無かったことが、今はもうすでに当たり前になっているということが実はたくさんありますね。便利さを享受していると、それがなかった時にはどうだったか、もうすっかり忘れてしまっています。これは街角の工事中から新しい施設がオープンした時に、前にどんな建物が立っていたかなぁと思い出せないのに似ていると感じています。

技術は加速度的に進展していき、それは留まらない

振り返ってみると、パソコンが台頭してきた頃、テキストだけでなく画像や簡単な動画と組み合わせて視聴できる素材を「マルチメディア」と呼んでいましたし、その後、インターネットが拡がってビジネスの現場でも取り入れていくことを「IT」と呼び、やはりコミュニケーションの領域にも広げていく必要があったことから「ICT」となって、今では単なるデジタル化ではなく業務革新がなければと「DX」になってきたなど、簡単に振り返るだけでもいろいろあったなぁと思います。

またコミュニケーションだけでなく、住所録的なデータから、どうしたやりとりや履歴を生み出してきたのかを「データベース」をつかって分析しながら関係性を深めるなどもかなり導入が進んできましたし、「マーケティングオートメーション」「生成型AI」などの新しい技術とどう付き合えばよいかを今は検討している段階なのではないか思います。

今後もこうした新たな技術の進展は留まらないと思いますし、進化と呼ばれる変化から、イノベーションと呼ばれる変革は、これまでの常識をあっさりと捨て去る場合もあるので、心残りも起こってくるかと思います。しかしながら長い距離感で見た時には新しい取り組みというものは、世の流れとして受け止めていくことかなと思います。

人は去っても、ノウハウはシステム側に残していく

例えば「データベース」は言葉としては馴染みがないかもしれませんが、実は生活の中では商売をされている方などは、自然とそうしたノウハウをため込んでいました。私の母が商店を営んでいた時、少ないけれども店を訪れてくれるお客さんが次にどんなことを欲してくるかを把握していて、小さな店だったけれど繁盛していて、来たお客さんが欲しいものがある「高齢者のコンビニ」になっていました。

美容院はお店というより人にお客さんがつくので、修業して独立するとお客さんが移ると言われますが、彼らは月1回から数カ月に1回、頭を当たってもらう時に前回の話の続きから入って、好みやし好にあわせたスタイルを提供していきます。データベースを使っているというよりは、前回の話や聞き出したことを大学ノートに書き出しておいて、次に予約が入った時にその前回の記述を見直すということでしっかりと対応しているのです。これは飲食のフロントレディにも共通する手法かと思います。

ホテルでも馴染みになるとスタッフから名前で呼びかけられるようになるといいますが、実際に顔と名前を数千人覚えているドアマンばかりではなく、予約が入っていつぐらいにお見えになるというのが分かっているので、だいたいこのお客様だろうと見当を立てて対応する等も進めています。

またある団体では電話の発信番号通知とデータベースが連動しているので、誰からの電話というのがすぐにわかり、過去の寄付履歴などもわかるので、誰が電話に出ても「〇〇さまご連絡ありがとうございます。この間の○○に際してはご寄付も頂戴してありがとうございました」と回答することができます。お客様にとっては大切なお客様としてちゃんと取り扱われたと実感する瞬間です。

肝心なことはノートに書き出してもよいので、ノウハウをシステム(この場合にはノート)に持たせておいて、それを見ることで個人の資質を補っていることです。いわばこの場合にはノートが(データベースというシステムが)記憶の外付けハードディスクのように記憶容量を数段階、拡張させて対応することによって、これまでにない満足感を与えていると言えるのです。進展や異動、退職などの事由からずっと同じ人が担当していくということはできないので、人が去ってもシステムの側にノウハウが残るようにしていく。これが基本的な考え方です。

生成型AIでもあなたのノウハウや思考方法を学習させておいて、好みやよく使うフレーズなども学ばせておくと、コンピューターの中にあなたの分身が生成されて対応できるようなってきます。一部の団体で相談業務をAIを使っているというのはまさにこの取り組みです。

デジタルの傾向を知った上で寛容になる

デジタル化の進展で、当たり前なのですが正確無比に再現できるようになってきます。ここでは間違っていたり揺らぎあるインプットがあると、アウトプットも不正確で、迷いが生じることから、良くも悪くも無感情なロボットのように入力も出力も狂いがないこと、誰が出力しても寸分の狂いなく同じ答えが得られることも目指してしまいます。

しかしながら、頭の中では人の営みでは必ず手作業による誤差が生じています。以前にアニメ「ルパン三世」の中の話で、AIでルパンの行動傾向を分析して先回りできていたが、それを打ち破ったのはルパンの「気まぐれ」だったというのがありました。

同様に、ツールとしてデジタルを活用することはこれからも数多くあると思われますが、芸術などでは正確無比ではなく、どれが心地よいかを選んだ時に、誤差を誤差として認識しないぐらい揺らぎがあることが実に「いいさじ加減・良い塩梅」となって、個性と呼ばれるものになると言えます。技というものを極め、日々の精進によって、おそらく誰も真似できない境地へ達したとしてもさらに遊びというか、ゆとりを保ち、味わい深さをかもしだす。おそらく芸術の秘訣はこのあたりに隠されているのではないかと思っています。

インド最貧州にはカーストの最下層の人が多く住んでいました。ここではいろんなことを「できない」と選択肢の中に入れない、「あきらめる」ことが当たり前でしたが、そこで日本人がサッカーチームを設立しました。この地域では女の子というだけで学校に通えない教育格差がまだまだ根強く残っていましたが、そのチームでは半数以上が女子でした。そしてサッカーチームは、彼女たちに可能性を示しました。これは経済的な支援だけが彼女たちを助けたのではありませんでした。チームでは小さい子にサッカーを教える「キッズリーダー」という役割が彼女たちが本来持っている力を開花させたのです。「自分たちもやっていいんだと言うことが分かった瞬間に、女の子たちがすごく輝いたのです」。

チャットGPTでは、瞬時に集まるインターネット情報の正確性が疑問にされますが、実は人が話しているときにも曖昧さはついて回っているのに、そこが問題にはされにくいものです。

支援する場合にも、支援者の意思を正確無比に実行しようと条件指定にこだわりすぎると上手くいかなくなる。施しを受けながら支援する側に回ると生きている実感があることも意識しなければなりません。例えばそうした機会を加点できるようにするなどで補完することも考えておかねばいけないところではないかと思っています。

本稿で取り上げたい「ご質問」「ご相談」がございましたら、ぜひお聞かせください。


ソーシャルセクターのお悩み相談BOX

▷ 第16話:デジタルツールの導入で備えること
▷ 第15話:ソーシャルセクターはいつまでも清く貧しく?
▷ 第14話:20周年でできること
▷ 第13話:寄付目標額を立てるには?
▷ 第12話:寄付依頼の手紙のポイントは?
▷ 第11話:私にもできるファンドレイジング
▷ 第10話:クラファンで成功するためには
▷ 第9話:寄付先選びのポイント
▷ 第8話:ファンドレックスのお仕事カタログ
▷ 第7話:中間支援組織に必要な機能は?
▷ 第6話:人が続かない、どうすればよいか
▷ 第5話:ファンドレイジングって、結局、何?
▷ 第4話:寄付額が減っている。どうしたらよいか?
▷ 第3話:週末に活動する財団をつくりたいのですがどうすれば良いでしょうか?
▷ 第2話:どのような法人格が良いでしょうか?
▷ 第1話:団体の世代交代を進めるうえで何が必要でしょうか?

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