経営/マネジメント
ソーシャルセクターはいつまでも清く貧しく?:ソーシャルセクターのお悩み相談BOX 第15話
Q15・いつもメールマガジンで紹介された記事を拝見しています。私は、NPO業界で働いていて、ご縁頂いている方だけでなく、スタッフの側からも「清貧」を求められる風潮があり、寄付からの人件費などにも厳しいご意見をいただくことがあります。どのように考えていけばよいでしょうか?
A15・社会の中では現実に「社会的に良いことをしている人は清く貧しくあって欲しい」という清貧を求める思想があります。また、実際にソーシャルセクター側の平均給与も民間企業などと比較しても、いまだ低い現状もあることも事実です。
一方でソーシャルセクター側もそうした現状を打破して、先行しているNPOなどから経営ノウハウを学び、続いて成長させていく発展途上にあります。そうしないと「良い人財」が集まらないし、「良いアイデア」を実行に移して継続していけないからです。
ではなぜ清貧を求める風潮があるのでしょうか?それは社会的に必要な良いことをしていることに対してのクリーンなイメージから、多くの期待が表れているからだと思っています。
寄付を届けるのは透明人間?
実際には善意のモノでサービスで支援先へ届けていくということも、実際には経済的な負担が発生します。自動的にモノやサービスが支援先へ一人で歩いていくということはまだ実現されていないので、スタッフや誰か、人のチカラを介して届けられていく。その仲介がなければ善意も相手へ届かないのです。
この部分もボラティアなど善意で支えていただける場合もありますが、ずっと続けていくためには、やはり最低限の費用が必要ですと説明しておられるかと思います。一般の方々からも「それはそうだな」と理解を重ねてきてもらっていて、今では寄付のうち広報ファンドレイジングの費用も含めて一般経費としてある程度の割合が認められるようになってきました。
しかしながら、あくまで「最低限の費用」なので、過度な間接経費を取ることは、馴染みにくいですね。しかしながら、今あることだけでなく未来に向けて取り組むためには、直接の行為を進めるための間接経費だけでなく、未来への投資も拡げるために必要であると思っています。
脱清貧と僧侶の肉食
この「脱清貧」を考える時に、日本では僧職の方々の肉食が奇異な目でみる傾向が残っていることが、思い起こされます。
日本では仏教という宗教が伝来する以前から、神羅万象自然の中に神々が宿っている信仰に基づく考え方があり、例えば災害、飢饉などの災厄は神の怒りと受け止め、肉食や飲酒を避ける習慣があったと考えられています。その後、仏教の不殺生戒(あらゆる生き物に対しての「殺生」を禁じている)と穢れ(けがれ)の概念(神聖な状態を汚した行為で禊(みそぎ)や祓い(はらい)などの儀式で取り除きます)が混ざり合い、肉食忌避の下地が形成されていきました。
江戸時代までは浄土真宗を除いて動物や魚の肉(なまぐさ)を口にすることは禁じられていましたが、明治維新の際に新政府から「今後、僧侶は肉を食べても結婚しても髪の毛を伸ばしても構わない」という太政官布告(法令)が出され規制緩和が公式になされました。
現在の僧侶においては剃髪は続けておられても、菜食・独身主義を貫き通している方はほとんどいないと伺います。
脱清貧は茨(いばら)の道だが変化の兆し
ではなぜ「僧侶が寺でバーべキュー」などが炎上してしまうのでしょうか?
それは世間ではお寺や僧侶に対するイメージがあって「清貧であるべき」「社会からはどのようにみられているか」に沿っていないことについては風当たりが強ります。しかし逆に言えば、議論や批判があるということは社会からの期待の表れがあるからともいえます。同調圧力はおろか、そもそも話題にもならないとしたら、それは社会的に関わりを持てなくなってしまったと見なせるかもしれません。
ソーシャルセクターにおいても同様に、元々、社会に善いことをしているというクリーンなイメージがあり、それに対する期待から、清貧イメージとは外れた行為や姿勢が発生した際に強く反応が出てくると理解しておいたほうが良いかと思います。
ソーシャルセクターも努力して待遇は改善していきましょう、しかしいまは途上であることも認識しておきましょう、そしてその上で多くの期待があるということも認識しておきましょう。
本稿で取り上げたい「ご質問」「ご相談」がございましたら、ぜひお聞かせください。
ソーシャルセクターのお悩み相談BOX
▷ 第17話:「不確実性の時代」にわたしたちはどう備えるか
▷ 第16話:デジタルツールの導入で備えること
▷ 第15話:ソーシャルセクターはいつまでも清く貧しく?
▷ 第14話:20周年でできること
▷ 第13話:寄付目標額を立てるには?
▷ 第12話:寄付依頼の手紙のポイントは?
▷ 第11話:私にもできるファンドレイジング
▷ 第10話:クラファンで成功するためには
▷ 第9話:寄付先選びのポイント
▷ 第8話:ファンドレックスのお仕事カタログ
▷ 第7話:中間支援組織に必要な機能は?
▷ 第6話:人が続かない、どうすればよいか
▷ 第5話:ファンドレイジングって、結局、何?
▷ 第4話:寄付額が減っている。どうしたらよいか?
▷ 第3話:週末に活動する財団をつくりたいのですがどうすれば良いでしょうか?
▷ 第2話:どのような法人格が良いでしょうか?
▷ 第1話:団体の世代交代を進めるうえで何が必要でしょうか?