コミュニケーション
P-05 キーメッセージを考える:広報的ファンドレイジングを強くする12のポイント
「何をしている団体ですか?」と聞かれた時、自分の団体や活動のことを、わかりやすく簡潔に説明できますか。
キーメッセージは、あなたの団体やキャンペーンについて、簡潔に表す言葉です。タグラインとして考える場合、組織や寄付キャンペーンのキャッチコピーとして考える場合など、その種類は団体や状況によって様々ですが、キーメッセージがあると、
- 関係者みんなが同じ説明をすることができる
- 初めての人でも、どういう活動をしているのかざっくり理解できる
- 団体名とセットで覚えてもらいやすい
などのメリットがあります。
前回、コミュニケーションをする時は、相手が誰なのかを意識するといいですよという記事を書きました。今回の内容は、「誰に向けて情報を発しているのか」がとても重要になります。まだペルソナを設定していない方は、この記事の前に、ぜひペルソナを考えてみてください。
キーメッセージとミッション・ビジョン
特にソーシャルセクターでは、キーメッセージを考える時、ミッション・ビジョンとの区別に迷われるケースが多いようです。ミッション・ビジョンもキーメッセージも、組織の方向性や価値観を示す、組織内外にとって意味のあるものです。しかしあえて言えば、ミッション・ビジョンは経営やマネジメントなど組織内に向けて使われることが多く、キーメッセージは広報やブランディングなど組織外に向けて使われることが多いと整理できます。
キーメッセージは、ミッション・ビジョンと全く整合性のないものになるということはないでしょうが、コミュニケーションの相手や内容によって使い分けたり、ミッション・ビジョンより頻繁に変更することが多くあります。
事例
良い事例を知ると感覚的に理解できるものですよね。ここでいくつか、事例をご紹介します。
PLAS( https://www.plas-aids.org/)
キーメッセージ:みんなとつくる、アフリカの子どもの未来
ミッション:アフリカで取り残される孤児や貧困家庭の子どもたちが前向きに生きられるよう、地域社会と共に課題解決に取り組みます。
ビジョン:わたしたちは、取り残された子どもたちが前向きに生きられる社会を目指します。
カタリバ( https://www.katariba.or.jp/)
キーメッセージ:未来は、つくれる
ミッション:意欲と創造性をすべての10代へ
ビジョン:どんな環境に生まれ育っても、未来をつくりだす力を育める社会
クロスフィールズ( https://crossfields.jp/)
キーメッセージ:枠を超える、未来を創る
ミッション:枠を超えて橋をかけ 挑戦に伴走し 社会の未来を切り拓く
ビジョン:すべてのひとが「働くこと」を通じて、想い・情熱を実現することのできる世界 企業・行政・NPOがパートナーとなり、次々と社会の課題を解決している世界
CIVIC FORCE( https://www.civic-force.org/)
キーメッセージ:災害支援のプロフェッショナル
ミッション:発災直後から復興まで、被災者一人ひとりのニーズと向き合い、被災地の人々が再び立ち上がるために必要な支援をいち早く届けます。
ビジョン:誰もが相互に協力し合い、市民(Civic)の力(Force)で災害に強い社会をつくる
World Vision( https://www.worldvision.jp/)
キーメッセージ:この子を救う。未来を救う。
ミッション:ワールド・ビジョンはキリスト教精神に基づく国際的なパートナーであり、イエス・キリストにならい、貧しく抑圧された人々とともに働き、人々の変革と、正義を追求し、平和な社会の実現を目指します。
ビジョン:私たちのビジョンは、すべての子どもに豊かないのちを 私たちの祈りは、すべての人の心にこのビジョンを実現する意志を
キーメッセージの考え方
キーメッセージは「伝える」ためのものであることをご理解いただけたかと思いますが、何もないところから、きれいにまとまった、かつ訴求力のある文節をひねり出すのは大変なことです。そこで最後に、私がいつもやっている、キーメッセージを考える時のステップをご紹介します。
Step1:目的を明確にする
団体のタグラインやキャッチコピーと、寄付キャンペーンのキャッチコピーでは、目的が異なります。そのメッセージは、寄付のお願いをするのか、活動の説明をするのか、大切にしている価値を訴求するのか。「相手に何をしてもらう」ためのメッセージか、具体的な言葉を考える前に決めておきます。
Step2:キーワードを書き出す
次に、関連するキーワードを書き出します。後で絞り込むので、この時点ではできるだけ多く、思いつく限り書き出します。
思いつかない時は、
- 書き出したキーワードをGoogleで検索してみる(検索結果画面を見ながら考える)
- 書き出したキーワードの類語を調べる
- 色んな辞書をパラパラめくる
こんなことをしながら、キーワードを拾っていきます。目についた言葉をそのまま使うというより、気になる言葉を見つけて、そこから更に幅を広げていくイメージです。
ちなみに辞書は、学研が出している「言葉選びシリーズ」を愛用しています。
Step3:キーワードを絞り込む
キーメッセージが「伝える」ための言葉であるということは、「相手は誰か」がとても重要です。ペルソナをイメージしながら、書き出したキーワードから「違うかな」というものを消していきます。
私はこの作業を紙で行う事が多いので、取り消し線を引いています。紙ではなく、デジタルなメモ帳などを使う場合でも、「消す」時に「削除」しないように、並び順を入れ替えたり、別のページに移したりという形にしていただきたいと思います。
キーメッセージを考えるプロセスは一直線ではなく、何度も戻ったり迷ったりすることになります。一度「消した」キーワードが、やっぱり「あり」だったということも良くあるので、消したキーワードも見えるようにしておかれると良いと思います。
Step4:メインのキーワードを選ぶ
絞り込んだキーワードの中から、キーメッセージの中心となるものを選びます。ピタっとくるキーワードをひとつ選べるならそれでも良いですが、まだ幅があっても良い段階なので、私はだいたい3~5個程度を選んでいます。
Step5:メッセージをつくる
いよいよ、絞り込んだキーワードを見ながら、目的、ペルソナを考慮してメッセージを組み立てていきます。この時も、まずはとにかく書き出して、推敲を重ねていきます。
その時、次のような点に注意しています。
- 長さは適切か(長すぎたり、短すぎたりしないか)
- 目的にあっているか(行動を促すことが目的の場合は特に)
- 相手にとってわかりやすい単語を選んでいるか(専門的すぎたり、簡単すぎたりしないか)
- 表現は適切か(不快感を与える恐れのある表現や、誤解を生む表現になっていないか)
- 言葉の温度感は適切か(切迫感や悲壮感などがありすぎたり・なさすぎたりしないか)
- 掲載イメージとあっているか(掲載場所、画像素材、フォントなどが決まっている場合は特に)
最後2~3案まで練り上げたら、チームに共有します。1回では決められないことが多いので、チームの声を反映しつつこのプロセスを何度か繰り返して、最終的にひとつに絞り込みます。
Point-05のまとめ
キーメッセージは、目的と相手を明確にしてから考える。
想いが強く出すぎると、過剰に切迫感などを与えるメッセージになってしまうので注意。チームの意見も取り入れながら何度も行ったり来たりして、より良いメッセージに練り上げていく。
広報的ファンドレイジングを強くする12のポイント
P- 00 ひとつずつ始める
P- 01 自団体の強みと課題を知る
P- 02 ファンドレイジングの注力点を決める
P- 03 他団体の事例を知る
P- 04 コミュニケーションの相手を知る
P- 05 キーメッセージを考える
P- 06 ドナージャーニーマップを考える①
P- 07 ドナージャーニーマップを考える②
P- 08 ツールのゴールと導線を整理する
P- 09 ツールの改善作業と継続的な見直しの計画をたてる
P- 10 社会的インパクト評価の視点を取り入れる
P- 11 プロセスの可視化と広報
P- 12 モニタリング結果の可視化と広報