インタビュー
これからの寄付について考える-6.堀江良彰さんに聞くNGOの寄付
新型コロナの感染拡大は、寄付者やソーシャルセクターにも様々な形で影響を及ぼしています。寄付者とのコミュニケーションの最前線にいる人たちは、今どんなことを考えているのか。ゲストをお迎えしてインタビューさせていただく、「これからの寄付について考える」シリーズ。
第6回目は、認定NPO法人難民を助ける会( https://www.aarjapan.gr.jp/)専務理事・事務局長の堀江良彰さんに、これからのNGOの寄付についてお話を伺いました。
堀江良彰(ほりえよしてる)さんのご紹介
認定NPO法人難民を助ける会 AAR Japan 専務理事・事務局長
1968年東京都生まれ。大学院(国際法専攻)修了後、1993年に民間の物流企業に就職、主に国際輸送・輸出入通関業務を担当。6年間勤務した後、国際協力に携わりたいと考え、2000年1月よりAAR Japan[難民を助ける会]へ。チェチェン難民支援、カンボジア、ミャンマー、アフガニスタン支援事業等に従事する。2003年11月より事務局長代行、2005年4月より常任理事・事務局長、2013年6月より現職。
コロナ以降の仕事の状況について
海外駐在のスタッフもおられる難民を助ける会(以下、AAR)さんですが、コロナの影響による働き方の変化はありましたか。
国内のスタッフについては、非常事態宣言以降、在宅勤務ができるようにしました。現在は状況を見ながらですが、月に8回は出勤、あとは在宅での勤務を基本にしています。
海外に駐在するスタッフをどうしようかというのは、とても悩みました。1月の後半頃頃は、中国での乗り継ぎができるかどうかという話をしていたのですが、その後すぐ2月には引き上げるかどうかの検討をはじめました。現地の状況とスタッフ本人の意向を確認しながら、30人中20人程度は日本に戻ってきました。
10月頃から現地に戻ったスタッフもおり、現在は帰国組と在留組は半々くらいになっています。現地に戻すかどうかも難しい判断ですが、最終的には国ごとに検討して決めています。
日本人スタッフが一時帰国した地域の事業は、どうなっていたのでしょうか。
どの事業地にも現地スタッフがいるので、日本人スタッフが帰国したから事業が止まってしまうということはありませんでした。ただ、例えばミャンマーでの職業訓練事業のような人が集まるものは、現地政府からの指示もあり、中断したり延期したりせざるを得ませんでした。
その結果、事業の内容や期間、費目などが計画時点と変わってしまった事業もあります。助成金事業の場合は色々と変更の手続きが必要になりましたが、どこも柔軟に対応いただいて助かりました。
これからのNGOの寄付について
新型コロナウイルスの影響は日本国内でも大きく、また長期化しています。NGOへの助成金や寄付にはどのように影響しているのでしょうか。
そうですね。特に政府系の補助金、助成金については追加の予算は出にくくなっていますね。国内が大変な状況というのはわかりますが、国外で支援を必要としている人たちも、コロナの影響でこれまで以上に苦しい状況に置かれています。求められる支援が拡大する中で、補助金、助成金が増えないのは厳しいと感じています。
寄付については、年の前半はコロナ対策緊急支援募金を呼びかけたこともあり、昨年より多くのご支援をいただきました。毎年、夏と冬に募金キャンペーンをしていますが、今年の夏は昨年に比べて約1.5倍のご寄付になりました。本当にありがたいと思っています。
一方で、毎年行っているチャリティ・コンサートは、今年は3月と9月に開催予定でしたがいずれも延期となりました。AARのためにチャリティ・パーティーを開いてくださっている方からもキャンセルのご連絡がありましたし、恒例のチャリティチョコレート販売会も中止になりました。
AARさんが大切にされてきた、リアルな接点でのファンドレイジングが止まってしまったんですね。
はい、これはとても残念です。これまでにご支援いただいている企業や個人の方々に対しては、お手紙やDM等でコミュニケーションをとっていますが、やはりリアルな接点がないのは寂しいです。また、セミナーや懇親会等、AARの活動に関心を持ってくださる方と出会う機会も減りました。企業訪問もしにくくなりましたし、新しい寄付者に出会うのは、今本当に難しくなっています。
接点が減ったことや、国内でのコロナの影響が長期化していることも原因になっているのか、冬の募金キャンペーンは苦しい状況です。人と会うこと、活動を伝えることが、NGOにとってとても大事なことだったんだと改めて感じています。
人と人が会うことが制限される中で、今までのやり方だけでは難しくなってきているんですね。これから新たに取り組もうと考えておられるコミュニケーションやファンドレイジングのアイデアはありますか。
そうですね。現場の情報を持っているというのは、NGOの強みのひとつだと思っています。オンラインでのコミュニケーションが広がったことによって、現地とつないでの報告会もしやすくなりました。支援者のみなさんに直接お会いして報告やお礼を伝えられない代わりに、オンライン報告会で現場を見てもらう、現地の声を聞いてもらうことはできるかなと思っています。
語学が堪能なスタッフや、NGOならではの経験を持っているスタッフも多いので、例えば英語で情報発信をしたり、国際協力について理解を深めてもらうための講座を開いたり。オンラインでどう人と繋がっていくか、スタッフからも色々とアイデアを出してもらって、何から始めていこうか考えています。
これまで団体の外からは見えなかったスタッフのみなさんの能力や魅力を知る機会にもなりそうですね。楽しみです。
これからのソーシャルセクターについて
オンライン化が進む中でも、堀江さんは「直接会う」ということを特に大事にされているように思います。コロナ禍の終わりが見えない中で、これからのソーシャルセクターについて堀江さんが考えておられることがあれば、お伺いしたいです。
オンライン化に対応するというのは、今の状況から考えると必要なことだとは思います。でも、オンラインでは見えないことがたくさんあるというのも、事実です。足を運んで、人と人が交流すること。匂いや、音や、感覚を知らないとわからないこと。そういうものを、大切にしないといけないと思っています。
「顔の見える援助」は、日本の国際協力の原点なんですよね。その地域に行って、現地の人と交流して、顔を見ながら最適な支援の形を考えてきました。現地で活動している日本人の写真を使うことで、日本の人たちにその地域を身近に感じてもらえたし、写真に写っている「この人」のためにと寄付をいただくこともありました。顔が見えることが、信頼や共感につながっていました。
また、例えば過去にカンボジアで起きた大虐殺のようなことは、周りの目が入らないところで起きます。外部から人が入らないと、危険な状況をさらに悪化させてしまうことがある。そこに「いるだけ」の意味は、すごく大きいと思うんですよ。支援を必要としている地域と断絶してはいけなくて、感染症対策をしっかりしたうえで、ですが、NGOは現地に入るべきだし「顔の見える関係」をなくしてはいけないと思っています。
ありがとうございます。関係が絶たれると危険な状況が悪化するというのは、個人や家庭に置き換えて考えてもそうですよね。
はい。つながりをつくるというのも、ソーシャルセクターの大切な役割なので。ソーシャルディスタンスとのバランスをとりながら、被災地や国外の活動地域とのつながり、支援者のみなさんとのつながりをどう作っていくか、どう守っていくか、しっかり考えていきたいと思います。
今、力を入れていることについて
最後に、今堀江さんが特に伝えたいこと、力を入れていることを伺いたいと思います。
そうですね。今特に伝えたいことは、さっきお話したことともつながりますが、自国中心主義では、コロナ禍は絶対に乗り越えられないということです。日本だけで封じ込めても、これからずっと閉じこもるわけにはいかない。やっぱり国際的に協調して、グローバルにつながっていくことが大事になってきます。
国内も大変な時だから、なかなか遠くの地域のことを思いやるのは難しいということもあるかもしれませんが、苦しい状況にいる人たちに、見捨てられていないよと伝えたいし、誰も見捨てないと伝え続けたいと思っています。
私も最近自分の周りのことばかり気になっていましたが、今日堀江さんにお話を伺って目線が上がったような気がします。とても楽しかったです。お忙しい中、ありがとうございました!
AAR Japan難民を助ける会から寄付のご案内
年末募金キャンペーン
「コロナ禍でも、障がい児が安心して学校に通える環境を」-年末募金のお願い
ふるさと納税
AAR Japanが事務所を開設した佐賀県には、ふるさと納税を通じてNPOに寄付できる仕組みがあります。
チャリティチョコレート
北海道の銘菓店、六花亭製菓株式会社のご協力により誕生したチャリティチョコレート。
これからの寄付について考えるインタビュー企画(全6回)
▷ 第1回:宮本聡さんに聞くクラウドファンディング
▷ 第2回:下垣圭介さんに聞くオンライン寄付
▷ 第3回:宮下真美さんに聞くオンラインイベント
▷ 第4回:金山卓晴さんに聞くNPOと法律
▷ 第5回:吉田富士江さんに聞く大学の寄付
▷ 第6回:堀江良彰さんに聞くNGOの寄付