コミュニケーション
P-06 ドナージャーニーマップを考える①:広報的ファンドレイジングを強くする12のポイント
「ドナージャーニーマップ」をご存知でしょうか。
企業で使われる「カスタマージャーニーマップ」の方が、認知度は高いかもしれませんね。カスタマージャーニーマップは、顧客が消費やサービスと出会ってから購入するまでの体験を視覚化するフレームワークで、ドナージャーニーマップはその寄付バージョンです。
ファンドレイジングの戦略や施策を考える時、「どの階層から入って、どの階層に上がってもらうか」を意識すると良いですよというのは、このシリーズのポイント2でご紹介しました。ドナージャーニーマップも同じで、初めて寄付をしてもらうフェーズと、寄付してくれた人にファンになってもらうフェーズを分けて考えると使いやすいです。
今回は、ドナージャーニーマップの基本と、初めて寄付してもらうためのドナージャーニーマップについてご紹介していきます。
ドナージャーニーマップの基本
一般的にドナージャーニーマップとは、潜在寄付者が団体や寄付キャンペーン等を知るところから、関心や共感をもって寄付行動を起こすまでのプロセスを「旅」に見立てて可視化したもののことを言います。
この「寄付者の旅」の主役になるのが、ポイント4で作成いただいたペルソナです。ドナージャーニーマップを作ることは、ペルソナの体験や行動を深堀りすることになり、団体視点ではなく(潜在寄付者を含む)寄付者の視点で、広報やコミュニケーションを考えることに繋がります。
ドナージャーニーマップは、下図のように、横軸に潜在寄付者が寄付するまでに辿るステップを、縦軸に潜在寄付者の行動や気持ちなどステップごとに変化する事項を設定して作成します。
横軸(プロセス)
どのようなプロセスにするかについて、特に決まっているわけではありません。自由に設定して良いところですが、自由にと言われても困るという場合には「消費者行動モデル」の採用をお勧めします。
消費者行動モデルとは、消費者が購入に至るまでに過程を一般化したもので、時代に応じて様々なモデルが提唱されてきました(下図参照)。プロセスの設定に迷ったら、まずは「AISAS」を使って作ってみてください。
縦軸(潜在寄付者の行動と気持ち)
縦軸もどの団体にも当てはまる正解というものはないのですが、まずは次の3項目があれば十分かと思います。もう少し情報を入れたい場合は、独自に項目を追加してみてください。
- 行動:どんな理由でどんな行動をとるか
- 接点:その時どのツールや媒体を使うか
- 気持ち:その時どんな気持ちになるか
初めて寄付してもらうためのドナージャーニーマップ
ドナージャーニーマップを作成する時、最初に行うのが「目的とゴールの設定」と「主役(ペルソナ)の設定」です。このシリーズを読んで実践されている方は、P-02 ファンドレイジングの注力点を決めるで目的を、P-04 コミュニケーションの相手を知るでペルソナを、すでに設定されていることと思います。が、まだ設定できていない場合は、まずそちらから始めるようにしてください。
今回は、下記の設定でドナージャーニーマップを考えてみます。
- 目的:クラウドファンディングで1回目の寄付をしてもらう
- ゴール:クラウドファンディングでの寄付完了
- ペルソナ:梨沙さん ー新卒で都内のIT系企業に就職後、営業部に配属されて5年目。大きな会社ではないが仕事は楽しい。昨年から週に2日は在宅ワーク。外出が減ったのでNETFLIXで映画をよく観るようになった。友人とは、LINEでのやり取りは増えたが直接会う機会は減って少し寂しい。何かひとりでもできる新しいことを始めたい。
目的とゴールは決まっているので、まずは「A:寄付する」の行動と接点を埋めましょう。
次に、梨沙さんが団体を認知するとしたら、どんな接点があるかを考えます。今回は、最近映画をよく観るようになった梨沙さんが、子ども貧困をテーマにした映画を観るところを接点にしてみました。ここは、ペルソナがどんな生活をしているか、何に関心があるのかをよく掘り下げて考えていきます。
さて、ここまで埋めてきましたが、まだ梨沙さんは「活動している人がいるんだ、すごいな」とちょっと離れたところから見ていて、クラウドファンディングで寄付する予感がしませんね。もう少し、「興味を持つ」と「調べる」の間を行ったり来たりする時間が必要なのかもしれません。
SNSとホームページで情報提供を続けることで、梨沙さんの気持ちが「応援したい」に変わり、クラウドファンディングの寄付のお願いを「参加の機会」として受け取ってもらえるようになりました。
接点を見直す
ドナージャーニーマップができたら、接点の行の中から、自団体でコントロールできることを確認します。
上図ではTwitter、Google(検索)、クラウドファンディングサイトの3つです。それぞれについて、次の2つの視点から改善点を洗い出します。
- ペルソナの生活の中に接点を作れているか
- 接点と接点の間につながりがあるか
例のドナージャーニーで考えると、下記のような点が改善点として考えられます。
- Twitter
- 自団体の最新情報だけでなく関連する映画やメディアの情報も投稿する
- クラウドファンディングへの寄付のお願いを投稿する
- 寄付を「活動への参加」として表現を統一する
- Google(検索)
- 団体名だけでなく、取り組んでいる課題やテーマに関連するキーワードでもヒットするようにホームページ内の原稿を改善する
- 検索連動型広告を出す
- 幅広い関連キーワードから誘導できるように、公式ブログを書く
- クラウドファンディングサイト
- SNSやホームページとキーワードや表現を統一する
- クラウドファンディングへ誘導するためのページをホームページ内に作る
- 検索連動型広告を出す
- 寄付完了後、簡単にSNSにシェアできるようにする
前半で、ドナージャーニーマップを作ると寄付者の視点で広報やコミュニケーションを考えられるようになると書きました。ドナージャーニーマップがなくてもコミュニケーションの全体像は作れますが、例えば、理沙さんが検索するキーワードで表示されなければホームページには辿り着けないのに、ホームページがあるから良いだろうと思ってしまう、まだ子どもの貧困について関心を持ち始めたばかりの梨沙さんには、団体の活動情報だけでなく社会課題そのものについての情報提供が必要なのに、そのことに気がつけない、といった具合にどうしてもこちら(団体)都合になりがちです。
どのツールが身近にあるか、どこに情報があれば目に入るか、検索するならどんなキーワードを使うか、どの情報源を信用するかなど、ペルソナの目線になって考えみてください。
Point-06のまとめ
ドナージャーニーマップがあると、ペルソナの視点からコミュニケーションを見ることができる。
ドナージャーニーマップは、まずはゴールを埋めて、認知・興味・検索との間で行動や気持ちに無理がないか確認する。無理がある場合は、ペルソナの気持ちが変わるまで、興味と検索を繰り返す。
広報的ファンドレイジングを強くする12のポイント
P- 00 ひとつずつ始める
P- 01 自団体の強みと課題を知る
P- 02 ファンドレイジングの注力点を決める
P- 03 他団体の事例を知る
P- 04 コミュニケーションの相手を知る
P- 05 キーメッセージを考える
P- 06 ドナージャーニーマップを考える①
P- 07 ドナージャーニーマップを考える②
P- 08 ツールのゴールと導線を整理する
P- 09 ツールの改善作業と継続的な見直しの計画をたてる
P- 10 社会的インパクト評価の視点を取り入れる
P- 11 プロセスの可視化と広報
P- 12 モニタリング結果の可視化と広報