インタビュー
これからの寄付について考えるー4. 金山卓晴さんに聞くNPOと法律
新型コロナの感染拡大は、寄付者やソーシャルセクターにも様々な形で影響を及ぼしています。寄付者とのコミュニケーションの最前線にいる人たちは、今どんなことを考えているのか。ゲストをお迎えしてインタビューさせていただく、「これからの寄付について考える」シリーズ。
第4回目は、NPOのための弁護士ネットワーク( https://npolawnet.com/)理事長の金山卓晴さんに、これからのNPOと法律についてお話を伺いました。
金山卓晴(かなやま たかはる)さんのご紹介
あさひ法律事務所パートナー。
2020年3月よりNPOのための弁護士ネットワーク理事長に就任し、同ネットワークにおいて、NPO・社団法人・財団法人等の非営利団体を対象にした無料法律相談会を定期的に開催するなど、ソーシャルセクターがその組織運営や事業活動において、法令や契約を遵守することで、社会から尊敬される存在としてより一層活躍できる社会の実現を目指す活動を行っている。
コロナ以降の仕事の状況について
金山さんは、本業で弁護士として活躍される一方、NPOのための弁護士ネットワーク(通称、N弁)や、世田谷コミュニティ財団、ちばのWA地域づくり基金等、ソーシャルセクターにも深く関わっておられます。緊急事態宣言以降、仕事量や相談内容など、感じておられる変化はありますか。
そうですね。まず仕事の割合についてお話すると、時期によって変動はありますが、概ね企業法務が60%、個人のお客様が20%、ソーシャル関連やプロボノ業務が20%くらいでご相談をお受けしている感じです。
緊急事態宣言以降3ヶ月くらいの間は、裁判所が業務を縮小していて、訴訟を多く担当される弁護士の方は、裁判が止まってしまうなど影響が大きかったようです。私も訴訟案件を担当していますが、それ以外の企業法務のご相談の割合が大きいので、出張がなくなるなどの変化はあったものの、仕事量に大きな変化はありませんでした。
ソーシャル関連でも、N弁はこれまで通り定期的に勉強会や内部の会議を開催したり、お問い合わせの対応をしたりしていますし、法律相談の件数も大きく変わったという印象はないですね。
これからの寄付と法律について
N弁のホームページで公開されている、コロナ関連のQ&A( https://npolawnet.com/covid-19qa/)、拝見しました。とても幅広く、具体的な質問が並んでいて、すごいなと思ったのですが、専門的な内容を、あのように文章でわかりやすく公開するのは大変なご準備があったと想像します。そもそも、どうしてあのページを作成しようと思われたのでしょうか。また、質問項目はどのように選ばれたのでしょうか。
N弁では、それぞれの弁護士が関与している団体の近況報告や勉強会を行う定例会議を行っており、コロナの問題が起きた後も2ヶ月に1回のペースで続けています。その会議で、コロナ渦において自分たちに何ができるかを話し合い、みなさんの参考になる情報をお伝えできればという思いで、あのページを作ることを決めました。
質問項目は、ソーシャルセクターに限らず、企業等からの質問も含めて、各弁護士が実際に受けた質問をベースに、主要なものを挙げて行きました。その中には、解散についての項目も入っています。NPOの解散については、「NPO法人の終活」というテーマで昨年勉強会も行っていますが、今回は、活動が制限されるなどして、急速に財務状況悪化する団体が出てくることも考えられたので。適切に迅速に対応しないと、嫌な終わり方と言うか、そういうことにもなってしまうので、手続の流れが分かるように入れることにしました。
解散とまでいかなくても、ページを見に来られる方の状況によっては、書いてある情報だけで判断せず、専門家に相談した方が良い場合もあると思います。専門家に相談するタイミングは、どう考えれば良いでしょうか。
そうですね。Q&Aページでは基本的なことに絞って書いていますので、個別のお悩みについては、是非専門家に相談していただきたいです。NPOに限った話ではないですが、弁護士との距離が遠いというか、弁護士に相談するのは最終手段のように思われていて、「まだ相談する段階じゃない」と判断されてしまう方が多いのかなと感じています。
実際には、問題が深刻になる前に相談していただいた方が、とれる選択肢が多いんです。早めに相談してもらえれば、心配しなくて大丈夫とか、今すぐ対応を考えた方が良いですねとか、法的には問題ないけど会計士にも相談してもらった方がいいですとか、法的な対応だけでなく、色々なアドバイスもできる。だから、気になったタイミングで専門家に相談してもらうのが良い、というのが私の考えです。
どこの専門家も、ちょっと聞いて、すぐに答えられるような相談なら、人間関係で解決するじゃないですか。それで心配を潰せる。すぐに答えられない相談、費用を払わないと解決しない相談だったとしても、これは深刻ですよと判断してもらうのは、早い方がいいです。
「人間関係で解決する」って、いいですね。専門家との関わり方も、確かに、ちょっと体調悪いなっていう時に、大したことないとか、深刻な病気に違いないとか、自分で判断したり悩んだりするより、早くお医者さんに診断してもらった方が正しく対応できますよね。
ただ、やっぱり弁護士さんに相談するのは、病院に行くよりハードルが高いように感じてしまいますが。
わかります。特に、知らない弁護士に気軽に相談するというのは、なかなか難しい。でも、「ちょっと聞いてみよう」と思える関係が先に築けていれば、少しはハードルが下がりますよね。N弁では、そういうゆるやかな信頼関係のきっかけにもなれば良いなと思って、NPOの方々を対象にした勉強会を続けてきました。ソーシャルで活躍されている団体が、法的支援を受けられないために問題を抱えるようなことをなくしたい、という思いでやっていることですが、勉強会やその後の懇親会は、様々な方々と出会い、雑談したり情報交換したりできる貴重な場となっていました。
コロナの問題が発生した後、4月に民法改正に関するセミナーを、6月にQ&Aページの解説を中心として緊急セミナーをそれぞれオンラインで行いました。オンラインでは、以前のように懇親会ができなくなり、又ちょっとした立ち話で情報交換ができなくなったのが残念ですが、逆に地方の方や、小さいお子さんがおられる方など、オンラインだから参加できたという声もいただきました。今後コロナの状況が落ち着いたら、またゆるやかなつながりの場を、今度はオンラインも併用して作っていくことを検討したいと思っています。
これからのソーシャルセクターについて
金山さんがソーシャルセクターに関わるようになられたのは、意外に最近だと伺いました。どんなきっかけがあったのでしょうか。また、これからのソーシャルセクターが期待されることやその変化について、金山さんが感じておられることがあれば教えていただきたいです。
きっかけは、N弁の創設メンバーでもある、弁護士の樽本先生です。弁護士会の委員会でご一緒させていただいた時に、N弁で合宿をしたという話を、樽本先生がすごく楽しそうに話されていて。それで興味がわいて、私も入れてくださいと言ったのが始まりです。それが2014年春くらいです。
その後、N弁の活動は続けていましたが、ソーシャルセクターの現場の方々と直接結びつくようになったのは、2018年と2019年に、育て上げネット( 認定NPO法人 育て上げネット)さんのチャリティランナーとして大阪マラソンを走ったことがきっかけかもしれません。マラソンを走るということで新しい出会いがあったり、その方々と朝ランするようになったり、そこで色々な話を聞かせていただいたりして。どんどんご縁がつながって今に至る、という感じです。
そんな感じで、私自身最近ソーシャルセクターに入ってきた立場なんですが、ソーシャルセクターの「外」にいる人からしたら、まだまだハードルが高い業界なんだろうなと思います。なんか楽しそうだけど、中がよく見えなくて、ドアを開けるのにすごい勇気がいる、みたいな。
ドア開けちゃったら、もし「違う」と思っても引き返せないんじゃないか、みたいな。気になるけど入れないスナックみたいですね。
そうそう。だから、最初に知り合いがいるって大事だと思います。私の場合の樽本先生みたいな。単純にその人がすごく楽しそうなだけでも、きっかけになるし、入る前に気になることも質問できる。ドアの向こうが知らない人ばかりだと怯みますけど、知り合いがいるとわかっていれば、ちょっと安心じゃないですか。
少し話がずれますけど、私の家の近所に、ただの広場みたいな、遊具とかがない公園があるんです。何もないけど、子どもたちが自由に走り回っていて、虫もいるので虫好きの子たちは大喜びしているような場所。そんな場所を今まで残してくれていたのは、今私が関わっているコミュニティ財団のメンバーが多く関与していた組織でした。その組織が、公園をこのままの形で残すと決定してくれていたんです。コミュニティ財団を新たに設立する前に現代表理事と話をしていて、それを知った時、自分が受けている恩恵を、強烈に体感しました。私がコミュニティ財団に関与することを決めた大きな理由の一つですし、そういった具体的な事例を知ることも、ソーシャルセクターに関わるきっかけになりますよね。
あとは、最初の一歩、最初の寄付を超えた人に、ちゃんと情報が届くと良いと思います。最初の一歩を超えた人は、次はもっと気軽に寄付できるはずなので、「ゼロ歩の人」100人に1団体から情報が行くんじゃなくて、「一歩の人」1人に10団体から情報が届くようになるとか。
「一歩の人」が満足度の高い寄付ができるように、ソーシャルセクター全体でサポートする感じ、おもしろいですね。確かに、寄付先を選択したことがある人は、別の団体の活動を知れば、自分が寄付したい団体かどうか、またちゃんと選べますね。
そうなんです。それから、今自分で話しながら、自分が経験した強烈な体感や、ソーシャルセクターに関わって楽しいことを、他の人に提供できていないことに気づいて反省しています。ソーシャルセクターに関わることで、仕事では出会えない幅広い方々と出会うことができるし、寄付するだけじゃなく、得意分野を提供することで役に立てたりもする。そういう楽しいことを、私もちゃんと伝えていかないと、と思いました。
今、力を入れていることについて
最後に、今力を入れていることや、読んでくださる方々に知っていただきたいことがあれば、伺いたいです。
コロナの前も今も変わらず、専門家には、本格的に困る前に相談してもらえたらと思います。具体的な相談の前に気軽に話せる場として、N弁の勉強会も活用いただけたら嬉しいです。
次回の勉強会は、11月下旬を予定してます。確定したらホームページ( https://npolawnet.com/)の「更新情報・お知らせ」に掲載しますので、是非ご確認ください。
金山さん、今日はとても勉強になりました。楽しかったです。ありがとうございました!
これからの寄付について考えるインタビュー企画(全6回)
▷ 第1回:宮本聡さんに聞くクラウドファンディング
▷ 第2回:下垣圭介さんに聞くオンライン寄付
▷ 第3回:宮下真美さんに聞くオンラインイベント
▷ 第4回:金山卓晴さんに聞くNPOと法律
▷ 第5回:吉田富士江さんに聞く大学の寄付
▷ 第6回:堀江良彰さんに聞くNGOの寄付