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防災の日:災害への備えと寄付で~欲しい未来について考えてみよう~

9月1日は「防災の日」である。ご存じない方のために注釈すると、1923年(大正12)に発生した関東大震災にちなんでいる。またこの時期には台風も多く日本列島に押し寄せるので「災害への備えを怠らないように」との戒めも込められている。特に近年の日本は、災害多発時代を迎えて、毎年のように「数十年に一度」の災害が発生している。今年も豪雨が多く、また梅雨明けが送れ、明けてからも猛暑日が連続するなどコロナ渦と重なっての耐乏を強いられることとなった。

3つの大きな震災と熊本地震の比較表を眺めていると、日本は体験価値の社会なので、苦労や苦心を乗り越えて、何度でも立ち上がり、創意工夫と改善更新が受け取ったものを次代へ活かしていることがよくわかる。

前回の本稿で「デジタル技術を使って社会変革を促す」ことを指しているデジタルトランスフォーメーション(DX)についてお伝えしたが、先を見通して想定の範囲を広げていくことは、仕事でも同様だ。「上手くいかないDX」とは、いかに進んだデジタル技術を取り入れていたとしても、システム担当者等が相手の立場に立てていないため、何が起こるかに思いが至らず、使う人が置き去りになっていたり、直感でわからないものになっている場合だ。

参考:Withコロナの寄付月間、あなたの周りで起こったことを話してみませんか 
https://fundrex.co.jp/lab/1859/

過去に受けた経験や体験を活かして来るべき事態に備えていく「防災」と、今ある不完全や課題を見つめて未来を創り出していくために託す「寄付」とは、実は親和性があると思っている。

「空振りを恐れず、想定外に対応しよう」タイムライン防災という考え方

昭和の時代には観測することのなかった震度7を平成の30年間だけで日本は6回経験した。そこで「災害は忘れた頃にやってくる」のではなく、必ずやってくるものとしてとらえて、災害を防ぐことは実際にはなかなかできないが、災害が発生した時にその被害を減らす「減災」ならば取り組みすることができる。そのひとつがタイムライン防災だ。

2012年10月29日、ハリケーン・サンディが米国東海岸に上陸、大規模な高潮被害により、ニューヨーク州及びニュージャージー州の被害額は合わせて8兆円規模にのぼり、米国災害史上2番目に大きな経済損失となった。世界の社会経済活動の中心であるニューヨーク大都市圏においては、ハリケーンから人命・資産を守るハード対策が充実していなかったために、沿岸部の家屋は損壊を受け、地下空間への浸水による交通麻痺等に伴い都市機能、金融などの経済中枢機能に甚大な影響を及ぼし、都市機能が高度に集積した先進国の大都市に壊滅的な被害をもたらした初めての大規模な災害となった。
しかしながら、ハリケーン・サンディは甚大な被害をもたらした一方で、米国のハリケーン対策プログラムに基づく対応で、被害を最小限に食い止めようとする工夫が見られた。これは時系列でプログラム化した防災行動計画(タイムライン)を予め定め、それに沿った行動によって防災担当者までが避難完了を目指したものだった。このタイムラインに従って、ニューヨーク地下鉄はハリケーン・サンディ上陸1日前に、乗客に事前通知予告したうえで地下鉄の運行を停止させた。浸水による被害は生じたものの、最短2日で一部区間の運行を再開させました。また、ニュージャージー州では上陸の36時間前に州知事から住民に対し避難を呼びかけました。ハリケーンは、発生してから被害が生じるまでの猶予時間があり、このような「先を見越した対応」が減災に有効であることを示した。

こうした教訓をもとにわが国でも取り組みが始まり、2018年にJR西日本が初めて台風21号が関西圏に上陸することを見越して、前日のうちに翌日午前11時までに列車を停めると発表し、大手百貨店なども軒並み休業を決め、企業や工場もそれに倣って、自宅待機などを呼びかけ、被害の拡大に効果をもたらせた。現在では関東でも同様の取り組みが何度も実施されている。
これらは、これまでの発災してからの混乱の中での運休対応ではなく、災害は起こるものとして前向きに取り組み、「空振りを恐れずに」安全な運行にならないならば混乱を回避するために計画運休を進めた結果であった。いわば「攻めの防災」というもので、あらかじめ想定されるリスクを評価して、そのリスクを時系列で整理して対応したものであった。

実際の災害時における避難についても、避難勧告から避難完了までのリードタイムが充分とれない状況では被害をゼロにすることができないことから、被害を最小化するための現実的で可能な対応を見つけ出し、また事業者が早期に操業再開できるための減災対策を支援していくことが求められる。すなわち、災害がピークになる前の何時頃には避難完了していなければならないから逆算して、そのための必要な時間に避難開始する、そのためにはどんな段階で避難指示しなければいけないかなど、いわば未来から発想して逆算的に取り組みを進めていっている。
これらはコロナ状況下の災害避難所運営でも活かされて、想定外を拡げて、感染拡大防止を進めながらクラスターにならない避難所とするため、ソーシャルディスタントを保って、仕切り付きの避難所や家族ごとの避難テントなど様々な工夫するなどの施策もとられている。また、避難所は「3密」であることから事前に疎開できる場所への転出なども推奨されていた。

防災の日を通じて、未来を考えよう

防災の日と同じく、過去に大規模災害が発生した期日は、改めて災害のことを意識される機会となる。防災の日(9/1)以外にも、阪神・淡路大震災をきっかけとして生まれた「防災とボランティアの日」(1/17)。他にも東日本大震災(3/11)や熊本地震(4/14前震4/16本震)なども記憶に新しい。過去の事例を他人ごとにせず、そこから教訓として学び、次に活かしていくことは大切な取り組みだ。

「防災と寄付は親和性がある」と前述したが、非常時に比べて平時の寄付は集まりにくい。そこで緊急時だけでなく、日常から防災・減災を「攻めの姿勢」で考えて、欲しい未来、実現したい未来に向けて、寄付を役立てていくことを提案したい。いわば、災害のあった日に災害準備をし始めるのではなく、準備ができて、安心な気持ちでそうした日を迎えるようにしたい。

また、これらは実際の備えを準備すると共に、心の準備を進めることにも役立つ。災害が発生したときに、避難勧告が出ているにも関わらず、避難しない人が多いという課題があり、これは「正常性バイアス」「多数派同調バイアス」と呼ばれている。
正常性バイアスとは、「自分だけは大丈夫だ」「悪いことは自分の周りには起こらないはずだ」「いままで大丈夫だったから今度も大丈夫だ」と言った根拠のない勝手な思い込み。また、多数派同調バイアスとは、「まだ周囲の誰も避難していないからまだまだ大丈夫」「他の人が動き始めてから、私も動き始めることにしよう」という考えで、いわばこの2つは「都合の良い思い込み・先入観」に過ぎない。その結果、被災地からの報道で、よく聞かれるのは「こんなはずではなかった」、「こんなことが起こるなんて思わなかった」。実際に目の前を土砂崩れが押し寄せたり、河川の堤防が決壊して濁流が押し寄せてきたりすれば、危機が差し迫れば明確に認知して「正常性バイアス」「多数派同調バイアス」も吹き飛んで判断できるが、そうなってからでは手遅れだ。自宅や職場周辺のハザードマップを確認して、危険な地域であるからどこまで逃げなければならないのかを考えたり、非常時の食料備蓄(ローリングストック)を回して実際の備えを想定しながら行うことは、非常時の「想定外」として認識する範囲を押し拡げ「正常性バイアス」と「多数派同調バイアス」を打ち破ることができるようになってくる。

同じく、災害時になかなか寄付できないこともあるので、平常時のうちから少しずつ寄付の備えを始めておき、何かの時にすぐに役立ててもらえるようにしておくことも大切な備えだ。
伺ったところによれば、ある信仰団体では、月に一回、防災のことを意識して質素な食事を心がけ、その費用を来るべき備えにしているそうだ。

災害への備えとして「安心を寄付する」

寄付白書によれば、日本では個人寄付が東日本大震災以降、増えている。

参考:寄付白書  http://jfra.jp/research

2010年までは、一年間で個人寄付される割合は3割程度であったが、東日本大震災の2011年には一気に国民の7割が寄付を行った。中には寄付の成功体験を持った人々がいて、その後も継続して寄付するために、2012年以降もずっと4割強と、寄付率が高止まりの傾向にある。このように日本では個人の寄付が増えているのだが、なかでも特徴として、災害が起こると寄付がたくさん集まるが、平時の備えに対しては集まりにくい。
だからこそ、攻めの防災として、事態が起こってから対処するのでなく、積極的に備えを進めて、未来の安心を手に入れるようにしたい。災害時に活躍する団体に平時からの備えとして、寄付しておくこともこの機会に考えることも大切な一つの方法だ。

防災を考えることは、命を守ることに繋がる。生きる術を整える→未来が続くことを考える→未来をよくするために一票を投じるようなものだからだ。
災害が発生しても、被害を少なくすることができるようにすることで、自分たち一人ひとりで未来は変えることができる。

「そなえよつねに」は、筆者も参加するボーイスカウトのモットーだが、日本にあることわざの「備えあれば憂いなし」という言葉とは少々ニュアンスが異なっていて、「積極的に備えていく」ことによって、例えばハイキングやキャンプなどの野外活動においても危険な箇所を回避して安全にプログラムが楽しめるように「攻めの安全」の意味合いが込められている。

タイムライン防災を各家庭の防災に活かす「マイ・タイムライン」がある。避難に備えた行動を一人ひとりがあらかじめ決めておくために、時系列で何をしていくかを考えていく取り組みだ。

参考:東京マイ・タイムライン
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/mytimeline/

同じように「欲しい未来に 寄付を贈ろう」という寄付月間のキャッチコピーにも、他任せにせず積極的に自分たちで未来を築くことに取り組んでいこうとする姿勢を感じる。寄付には、金銭の寄付だけでなく、物品の寄付や、ボランティアも時間の寄付もある。防災や減災、それはいわば「安心を寄付する」こと。
今年はコロナ渦の影響で防災訓練なども見合わす地域も多いと聞く。だからこそぜひ、この機会に防災用品の備えだけでなく、欲しい未来、実現したい未来に対しても、寄付を通じて具体的な備えを図っていだたければ幸いである。

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