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令和キャッシュレス元年を迎え、寄付の動きが加速化した要因は?!
衝撃的な首里城焼失のニュース。株式会社トラストバンク「ふるさとチョイス」が運営する、ふるさと納税によるクラウドファンディング(GCF)で11/1から始まった「沖縄のシンボル「首里城」再建支援プロジェクト」は目標金額1億円を3日間で到達するとともに、大きく上回って、5日間で3億円を突破し、まだまだその勢いは止まらない。
ふるさとチョイス「沖縄のシンボル「首里城」再建支援プロジェクト」
https://www.furusato-tax.jp/gcf/717
昨年の西日本豪雨、そして今年の台風15号や19号、その後の豪雨などに際して、いままでにないスビートで寄付が集まるようになった。平成の頃から大地震・災害が相次ぐ日本では、激しい事態に際して、公助・自助に加えて共助として助け合いの気持ち「見ていてとにかく何とかしなければと思った」から、今すぐできることのひとつとして寄付が凄まじい勢いで広がること、そしてそれがさらに加速度を増していることを実感している。
近年の災害に見る、寄付の進化
体験・経験を経て、知恵を重ね、時代は進化していくが、災害の寄付市場においても同様の進展が読み取れる。もともと災害での支援といえば「義援金」であった。これは法律で決められて、日赤や共同募金会が窓口となって受付をして(彼らは実は事務取扱をするだけで一円も手元に入らない)、その後、配分委員会で被害の大きさを見極め、被災にあった地域の人々に公平に配分をしていくので、実際に被災者の手元に届けられるには1-2年先となる。そこで今すぐできる支援が必要だと、災害地で具体的な支援に当たる活動団体を指定して寄付を送る「活動支援金」が広がった。これも東日本大震災(2011)の頃には一般の週刊誌などでも多数紹介されたので、一般の方々にもなじみ深くなった。
特に、東日本大震災は甚大な被害で500kmにも及ぶ広範囲であったので、ボランティアにはすぐに行けなかったことから、今できる支援は何だ、そうだ「寄付だ」ということになって、社会貢献の両輪である「寄付」と「ボランティア」が連動した機会でもあった。初めて震度7を記録した阪神・淡路大地震(1995)は都会から近いところでの発災であり、映像を見て「居ても立ってもいられなくなって」と、ボランティアに馳せ参じた人々がたった3カ月間で100万人にも及び「ボランティア元年」と呼ばれ、のちのNPO法成立にも繋がっていった。
比して、東日本大震災は、過去に例を見ない国民の7割にも及ぶ人々が寄付しているので「寄付元年」ということができる。それは上記のほかにもそれまで一年間に1回以上寄付する人々は3割台であったが、東日本大震災で寄付を経験して、いちど跳ね上がった寄付行動は、寄付としての成功体験を生み出し、東日本大震災以降も寄付をする人は4割台で推移している。つまり新たに1割もの人々が継続して寄付をし続けてくれるようになったのだ。
災害大国ニッポン、だからこそ国際水準の「公助」を
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/13879
義援金、活動支援金、そしてふるさと納税
熊本地震(2016)の頃から「義援金」「活動支援金」に加えて「ふるさと納税」も災害地支援に使えることが知れ渡ってきた。冒頭のふるさとチョイスなどもそうだが、それまでは立ち上がりの早いのは、コンビニ店頭の募金箱や、「Yahoo!ネット募金」などのインターネットでの募金だった。特に「Yahoo!ネット募金」は、自分の持っているTポイントを使って寄付することができるので、気軽に手軽に居ながらに支援が送ることができ、またSNSなどでその情報が拡散することから、瞬く間に数多くの人が協力して、しかもその成果が見えるかするために、支援が集まりやすかった。そこに「ふるさと納税での災害支援」が立ち上がってきた。
同じくネットサービスであるので、場合によって発災したその日から立ち上げることができ、現場の状況を伝え、そこに今、支援が必要であるということがダイレクトに伝わってくるのは「ネット募金」ならではの機能であった。違うのは「個々の金額」である。いままでのネット募金は、特に「Yahoo!ネット募金」ではTポイントを利用する人もあり、決済額として一人当たりは数百円であるに対して、ふるさと納税は一人当たりが数万円に及ぶので、参加する人数は少なくとも、金額が多く集まるのが特徴となった。相次ぐ災害の被災地の映像を繰り返してみているうちに、いままでは知らなかったその地名を指定して「支援できる」ことは、ふるさと納税という、自ら地域を選択できる寄付方法とまさにぴったりであった。
さらに災害での寄付は進化する。たしかにふるさと納税によって、被災地を指定して寄付することは有り難いが、実は受け取る自治体職員も同じように「被災民」である。お気持ちは嬉しいが困難な状況であるのだ。そこで、自治体は新しい局面に立ち上がる。「被災して大変な状況であり、その痛みがわかる」と代理自治体として名乗りを挙げ、ふるさと納税の「代理受付」を始めた。
「代理受付」とは、ふるさと納税の事務手続き一切をその自治体に代わって行って、自分のところでは経費は一切取らないで相手先の自治体が落ち着いたころを見計らって、100%送金するというしくみだ。最初に始めた茨城県境町は、以前に利根川水害などで被災した経験があり、被災自治体としてその痛みが分かち合うと、姉妹都市でもなく、これまで交流がある都市でもない、繋がりや関連も何もないのに受付をスタートして、それが多くの自治体に広がっていった。昨年の西日本豪雨でも被災地域に代わって「熊本地震に際してお世話になったから」と熊本県も代理自治体として事務代行するなど、自治体でも枠を超えた連携が進んでいっている。
デジタル寄付は当たり前の時代
いま、ふるさと納税全体でクレジット決済は約7割といわれており、間違いなく、ふるさと納税紹介サイトや自治体の直接サイトでの「ネット決済」が寄付額の拡大に寄与している。寄付したいと思った時に、24時間関係なく、居ながらにして、手元のスマホで寄付できてしまえる環境が、寄付のハードルを下げている。むしろこの時代においては、クレジット決済、特に自団体のサイトなどで寄付決済が完了しないと、寄付のスタートラインに立てないことをこのことは意味しているといえる。
例えば、ふるさと納税は始まって11年にもなるが、当初は81億(2008年)からスタートした。この頃には「納税」であるので、いわゆる「納付書」方式で、ふるさと納税したいと思ったら、以下のような手順であった。
納付書方式
ふるさと納税したい ⇒申し込み窓口あてに連絡とる、または、申込書で郵送申し込み ⇒自治体から「納付書」が送られてくる ⇒必要事項を手書きで記入する ⇒指定された金融機関へ持参して、納税 ⇒しばらくたってから、お礼が届く
ふるさと納税紹介サイト等
ふるさと納税したい ⇒目的の自治体を検索する ⇒必要事項を入力 ⇒ネット決済(クレジット決済)で納税 すぐにメールで完了通知
それが上記のようにシンプルに変化して、しかもリアルタイムで情報も更新され、どれぐらい集まっているかがわかるサイト(冒頭のふるさと納税によるクラウドファンディングのように)もあり、それらがSNSなどと連動しているので、プロジェクトに寄付した人がそれを応援しようと、情報をシェアしたりすることで、拡散していき、その結果、加速度的に災害への寄付が集まることに繋がっている。
災害だからこそ、なんとかしなければという心理が大きい
こうした災害支援で、ネット決済などの寄付のしやすさと共に「大変な災害だから何とかしなければ」という心持が最も大きな要因でもある。例えば、日本におけるファンドレイジングの事例として以前からよく紹介していた「熊本城の一口城主」。1万円で細川家ゆかりの名城・熊本城の一口城主になれるというわかりやすさとステータス感がヒットして、過去のべ15年間で18億円もの寄付が集まった。
2016年の熊本地震で受け付けは中止されたが、震災の半年後からスタートした「熊本城復興城主」では、過去に寄付した一口城主たちも何とかしなければと立ち上がり、申し込み初日だけで1930万円(1450件)11月1日から8日までに8660万円(6126件)にも及んだ。実はこのころはまだ熊本市内も復興途上で、受付は熊本城のふもとにある「桜馬場」という土産物施設1か所だけであったが、何とかしようとした市民が現金を握りしめて殺到して、納付書で寄付を納めたのであった。その後、熊本県内の金融機関窓口で対応していだたけるようになり、過去の一口城主ではのべ15年で18億円だったが、その半分以上の10億1764万円(6万3669件)がたった半年(2017年5月)で集まり、募集開始を1年1カ月20億円以上と、とうとう復興城主のほうが多く集まるようになった。
熊本城の復旧・復元を目指して「復興城主」求ム!!
https://kumamoto-guide.jp/kumamoto-castle/fukkou/
今回の首里城火災でもスピート記録がさらに更新されそうであるが、いままでは関係がないと思っていた人でさえも、これはなんとかしなければ、自分も立ち上がろうと自分事にして関わっていただいている。また過去の災害で支援した人も、以前と同じだ、いやそれ以上だと、だったらまた寄付しようと動き出している。それらが大きなうねりのような寄付の集中を生んでいるのだ。
キャッシュレス決済の時代を迎えて
2019年10月からの消費税値上げ(8%⇒10%)は今のところ、経済も寄付市場にも大きなダメージではないように見える。一部の家電やデパートなどの高価格帯にとっては値上げ前の駆け込み需要が起こったようだが、一般の市場はその影響を大きく受けているとはいえない。むしろ一石二鳥をねらい、キャッシュレス決済の導入を急いだことと、たった2%の軽減税率のメリットと税額変更のデメリットで個人向けの事業者のほうでの対応が大変だったというところばかりが目立っている。
しかしながら、現金からデジタルキャッシュへの移行は、例えばコンビニのレジ横にあった「募金箱」にお釣りを投げ込んでもらう機会を奪うことになり、少額の募金呼びかけの形を変化させていく可能性がある。ただ、いまはキャッレス決済への移行・浸透が進む時節であり、現時点では寄付に対応するキャッシュレス決済もまだまだ少ないので、これからの積み重ねが大切だといえる。といいながらも、例えば10年ほど前にはクレジット会社のほうでもカードでの寄付決済はできなかったし、生活者のほうも東日本大震災の頃まで寄付をクレジットカードでするなんてという抵抗感が強かったが、災害支援を経て変化を遂げてきた。
災害による寄付が、平時の一般寄付拡大に寄与したように、現在の加速度を増す災害支援も少なからず普通の寄付に影響を与える。その背景にあることをしっかりとみつめて、寄付しやすい環境を整えていくことが最も大切だといえる。