EN

IMPACT LAB

インパクトラボ

何も知らなかったので直接見に行ってみたらめちゃイケてました:韓国ソーシャルセクターツアーレポート

近くて遠い国と言われるお隣、韓国。政治やカルチャーの話はよく聞きますが、ソーシャルセクターの情報は、ほとんど入ってきません。

こんなに近くにいるのに、何も知らないなんてもったいない。知りたい。ちょっと直接見に行ってみよう。ということで、韓国(ソウル)ソーシャルセクターツアーに行ってきました。今回は、そのレポートをお届けします。

はじめに

今回のツアーを実施するにあたって、訪問先のご推薦、 アポイントメントの調整、ミーティング時間の確保、通訳など、日韓のたくさんの方々にご協力をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

여러분 감사합니다.

ソーシャルビジネス系の3つの団体

今回のツアーは、2泊3日。タイトなスケジュールの中、ソウル市内を車で縦横に走り回って7箇所に訪問させていただきました。まずは、ソーシャルビジネス系の3つの団体をご紹介します。

CREVISSE

http://global.crevisse.com/

“Entrepreneurs for Entrepreneurs” として、2004年頃から、社会的価値があると信じるテクノロジーに対して投資事業を行っている会社。韓国で社会的投資という概念が浸透してきたのは 2010年頃だと言われているので、まさに草分け的な存在です。

当初は友達の友達のような、つながりのあるアントレプレナーを応援する形で始まったそうですが、現在は、ビッグデータと人工知能を使って都市の土地開発をサポートする技術を提供しているSpacewalk( http://www.spacewalk.tech/ )や、植樹のスマホゲームを通じて環境問題の解決を目指すtree planet( https://treepla.net/ )をはじめ、約20社に投資をしています。

CREVISSEからも、10社以上のソーシャルベンチャーが独立しており、それら関連会社のスタッフは、飛行機の滑走路をイメージしてデザインされているCREVISSEのオフィスに一緒にデスクを並べています。ここから飛び立っていくように、という思いを込めているそうです。おしゃれ!

関連会社の業種は、デザイン会社、バックオフィス代行会社、建築会社など多様です。クライアントもNPOだけではなく、社会に良い影響を与えることをミッションにしている団体・企業であれば、サービスを提供しているという感じでした。

中でも気になったサービスをひとつ、ご紹介します。オンライン決済と支援者データベースが一体化したソリューション『DONUS』( https://donus.org/ )です。DONUSは、ソウル大学と連携して開発、2007年にローンチされました。今ではUNICEF、Worldvision、OXFAMなどはじめ、韓国内の多数のNPOやソーシャルビジネスが導入しています。

MYSC

https://mysc.imweb.me/

人材育成、事業デザイン、ブランディング、コレクティブインパクトに関するコンサルティングを公共機関・民間機関あわせて50の組織に提供するコンサルティング企業 MYSC(Merry Year Social Company) 。

クライアントである大企業、公共機関、国際機関、NPO等に対して、社会イノベーション関連コンサルティング、インキュベーター、インパクト投資を行っています。 アクセルレーターとして80以上のソーシャルベンチャーを支援し、ソーシャルイノベーションに関する出版物のコンテンツ設計も行います。

10大財閥を筆頭に、大企業の影響力が大きい韓国経済界。大企業の中にソーシャルアントレプレナーを育成することで、大企業とソーシャルビジネスをつなぐ試みは、とてもおもしろいと思いました。MYSCのスタッフはひとりひとりが社内起業家(Intrapreneur)として、社会起業家精神を求められるというのも、納得。

今回のツアーで、訪問させていただいたどの団体も印刷物やオフィスのデザイン性が高いのに驚きました。中でもMYSCの印刷物はとってもおしゃれ。MYSCの年次報告書(英語版)は、ホームページからダウンロードできますよ。

ROOT IMPACT

http://rootimpact.org/en/intro.php

ソーシャルベンチャー、NPO、NGO、中間支援組織やプロボノサービスのプロバイダーなど、あらゆるChangemakerが集まるCo-Workingスペース、HEYGROUND( https://heyground.com/ )。2015年にヒュンダイから約25億円の出資を受けて建設されたビルには、会議室、ライブラリー、イベントスペースなどもあり、現在80以上の企業に所属する約550名が働いています。

ここの運営を手掛けているのが、自分たちをChangemakers For Changemakersと呼ぶROOT IMPACT。HEYGROUNDの他にも、ChangemakerのためのシェアハウスD-Well、人材育成プログラムImpact Basecampの運営なども行っています。

ROOT IMPACTのディレクターShinさんは、社会課題の解決に取り組むChangemakerたちには(通常のベンチャーが必要とする)お金や法律などの専門的なサポートに加えて、コミュニティが必要だと話してくれました。

仕事、生活、学習の場を提供する中でChangemakerたちが相互につながりあい、コミュニティが構築され、エコシステムとなって社会に変化を生み出していく。日本にはまだ、ここまでの理想系をイメージした具体的なソリューションはないと思います。日本に応用するなら、って考えるとわくわくしますね。

HEYGROUNDが建つのは、かつて工場が集中していた聖水洞(ソンスドン)と呼ばれる地域。現在は、一種の「特区」のようになっているということで、先にご紹介したCREVISSE、若い起業家や芸術家を支援する文化複合施設Understand Avenue、ソーシャルベンチャーに投資してアクセラレートするSopoongなど、地域内に多数のソーシャルベンチャーが集まり、Social Venture Valleyと呼ばれています。

HEYGROUDの廊下の壁には、こんなかわいいチャートが。YES/NOで答えていくと、社会を変えるためにどのように関わるのが向いているかがわかるというもの。Changemakerになる方法は、起業以外にも色々あるという見せ方がいいですよね。オンラインでもできますよ( http://rootimpact.org/en/test.php ) 。

財団、NPO、行政

The Beautiful Foundation(美しい財団)

https://thebeautifulfoundation.org/

The Beautiful Foundationでは、最初にロゴについて説明をしていただきました。

財団のロゴは、種をイメージしたもの。チャレンジすれば失敗も必ずあるから、あえてグレーの種を入れているそうです。財団としての大切なスタンスを込めたロゴ、素敵ですよね。

米国のコミュニティファンデーションをモデルにして1999年に創設されたThe Beautiful Foundation。他の財団が敬遠するような政治的なイシューも積極的にとりあげつつ、「もっとも美しいお金の使い方」として寄付を推進してきました。

20年間、様々なキャンペーンを展開されていますが、中でも象徴的な2つのキャンペーンをご紹介します。

1% Sharing

どんな人でも寄付はできることを伝える1% Sharingキャンペーン。株式、お給料、お小遣い、才能、時間など、みんなの1%が集まるインパクトを見せることで、自分たちが社会を変えられるということを伝えたかったと言います。

写真のスライドでは、浮き輪や結婚指輪を数字の「1」に見立てたデザインをご紹介いただきました。鵜尾さんも共感して思わず立ち上がります。ここでも、デザインへのこだわりが見えました。

レゴ型募金箱

ファンドレイジングの殿堂にも登録されたキャンペーン。レゴ型の募金箱に寄付を集めて、さらにその募金箱で様々なモチーフを作るというもの。有名なキャンペーンなので知ってはいましたが、実物は募金箱ひとつひとつにメッセージが手書きされていて本当に素敵でした。

韓国ファンドレイジング協会

https://www.kafp.or.kr/

2004年に設立された韓国ファンドレイジング協会。ここでは、韓国の寄付文化の現状について教えていただきました。

韓国では、1998年11月に共同募金会が創設され、それまで政府が集めていた寄付を形だけでも民間で集めるように変わりました。続いて2000年に税控除の制度が整います。この時政府が積極的に広報したこともあり、個人寄付が増えたと言います。

また2005年からの2年間ほど、ワールド・ビジョンが韓国の公営放送局であるKBSでファンドレイジングの広告を放送。国内寄付市場で大きなシェアを持つ国際NGOが、競ってファンドレイジングを仕掛けたことが、現在の仕組みのベースを作る一助になったそうです。

現在は、個人寄付は横這い。いいことだから、一生懸命やっているから、寄付をくださいというアプローチには限界を感じており、これからは透明性とインパクトが重要になってくるとのことでした。日本とよく似ていると思いませんか。

「青年期」と表現された現在の韓国のソーシャルセクターが、成長痛を乗り越えるために必要なことを伺ったら、成功体験がない人にその体験を提供することとお答えいただきました。これも、日本と同じ。

スケジュールの都合で切り上げましたが、悩んでいること、考えていること、期待、希望、色々と似ているところが多くて、いつまででも話していたくなりました。

The Hope Institute(希望製作所)

http://eng.makehope.org/

The Hope Instituteは、現在のソウル市長パク・ウォンスン氏が、社会活動家(兼弁護士)だった時に設立したシンクタンクですが、Think Tankではなく、Think and Do Tankであると説明いただきました。

その説明の通り、調査・研究だけでなく、出版、アドボカシーに加えて、人材育成や地域の課題解決につながる様々な事業も手掛けています。中でも首長を育成する教育プログラムは特徴的で、現在250ある地方自治体のうち65の自治体首長がこの教育プログラムの登録者ということでした。

The Hope Instituteのオフィスでは、寄付者の写真や名前をたくさん目にします。市民に参加してもらって、寄付者に支えられて、活動できている団体なのだという誇りを感じました。寄付者ひとりひとりのストーリーがわかるような工夫がされていたり、普段から寄付者を大切にされている団体であることも伝わってきます。

The Hope Instituteの年次報告書も素敵です。韓国語なので書いてあることの詳細はわかりませんが、インフォグラフィックスや写真を使って、見やすいように丁寧にデザインされていることはわかります。

ソウル市 Social Enterprise Support Division

http://japanese.seoul.go.kr/

ソウル市は、インパクト投資ファンドを持つ韓国の中でも先駆的な自治体です。ファンドは市と民間で資金を出し合って作ったもの。担当者はこの事業のために募集して外部から入職された方々で、市の本気度が伺えます。

社会的価値と経済的価値のバランスをどう見極めるか、人件費などの直接支援からシステムを作るための間接支援にどうシフトしていくかなど、具体的な課題はたくさんあるとおっしゃっていましたが、それは、それだけ経験があるということ。

日本では、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)に関心を持つ首長が少し増えてきた程度で、インパクト投資ファンドを持つ自治体はまだありません。すでに成功と失敗を経験している自治体がこんなに近くにあることは、これからの日本の社会的投資において、とても参考になると感じました。

まとめ

ソウルのソーシャルセクターの歴史は、日本と同じか少し若いくらいですが、成長スピードがとても早いと感じました。これには、2013年のセオール号沈没事故と2018年の大統領弾劾が大きく影響していると伺いました。社会が大きな危機に直面した時にソーシャルセクターに注目が集まるのは日本も同じで、阪神淡路大震災や東日本大震災が、結果的にソーシャルセクターの成長に影響したことと似ています。

一方で、韓国政府とソウル市による積極的なサポート抜きには、短期間でここまで盛り上がることは難しかったように思います。(例えば特区の制定など)行政主導だからこそできることは確かにあって、アントレプレナーたちは、その恩恵をしっかりと活用しているという印象でした。

立ち返って日本や東京を見ると、どうでしょう。行政のリーダーシップに不満はありますが、同時に、市民やアントレプレナーの成熟度についても、考える必要があるように思います。

例えば、ソーシャルアントレプレナーをサポートするという都知事候補が出てきたら、東京都民は票を投じるでしょうか。私たちは、「既存システムの破壊」だけでなく「新しいシステムの構築」という手間と時間がかかる形で社会変革を試みるリーダーを、信じて一緒にチャレンジすることができるでしょうか。

そして、アントレプレナーたちは、新しく構築されていくシステムを、貪欲に使いこなしていけるでしょうか。そんなことを考えました。


ソウルでは、ランチやお酒の席の若者の会話の中にも、普通に政治の話が出てきました。市民の人たちがそれぞれに政治に関心を寄せて、それぞれに意見を持っています。年齢や性別を問わず「政治や社会の仕組みは変えることができる」という意識が共有されてるようでした。

個人的には、この「自分には社会を変える力がある」という意識が、ソウルのソーシャルセクターの勢いの根本を支えているのではないかと、感じています。自分自身に社会を変える力があると信じているから、自信とプライドを持って社会にインパクトを生み出す仕事に携わることができるのではないでしょうか。


今回初めて企画した韓国ソーシャルセクターツアーでしたが、迎えてくださった方々の空気感が、とても素敵だったのが印象的です。オープンで、ハッピーで、勢いのある感じ。ソーシャルセクターが、イケてる業界として認められているからこそだと思います。

同時に、韓国のソーシャルセクターも日本と同様に、まだ若く成長過程の業界であることも感じられました。どの団体も、小さな成功事例を大切にして、少しずつ前に進もうとしていました。

韓国のソーシャルセクターにはたくさん学ぶところがありますが、社会をより良くしていくために、成功も失敗も共有できる仲間を必要としているのは、私たちと同じです。今回のご縁を大切に、今後も継続して韓国のソーシャルセクターのみなさんと情報交換をしていきたいと思います。

※訪問先団体のウェブサイトについて:英語ページがあるものは英語ページURLを、ないものはTOPページURLを記載しています。韓国語→日本語の変換は、google翻訳でも結構ちゃんと読めますので、関心をもっていただけた方はお試しください。

関連記事

もっと見る