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博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-1

今年は、お正月の能登半島地震を契機に、寄付や助け合いの重要性が改めて注目されています。災害もさることながら国内外の様々な社会課題が存在する中で、持続的な学びとしてのファンドレイジングの重要性が、ますます浮き彫りになっています。

文化施設でのファンドレイジングのポテンシャル

ファンドレイジングの中でも、博物館や美術館など文化施設におけるファンドレイジングでは、価値創造型の活動として、その意義と戦略は社会課題解決型とは異なったアプローチが求められます(参考記事:文化/芸術分野におけるファンドレイジングの可能性 https://fundrex.co.jp/lab/2508/)。

ついつい災害支援や人道支援と比べて後送りになると思われがちですが、昨年の国立科学博物館のクラウドファンディングが大成功を収めた事例では、文化施設のファンドレイジングが持つポテンシャルを示していました。文化施設におけるファンドレイジングは、教育や文化普及といった使命を担う広報活動の一環にもなります。今回は、これらの活動の重要性と、海外の事例を通じた成功の手法を探ります。

博物館・美術館の役割とファンドレイジング

博物館や美術館の存在意義を考える際、その歴史的価値の保存、研究、そして公開が重要な役割として挙げられます。歴史的には、美術品や文化的な貴重品という物は18世紀までは限られた人々のみが所有し閲覧するものでした。博物館の歴史では、フランス革命中に公開された国立自然史博物館をはじめとする文化が、オープンに共有されていくプロセスが示されています。

アメリカでは博物館の教育性、公共性を強調して文化財を公開しているものが多く、スミソニアン博物館のように定額の入場料を定めないところもあります。またポール・アレンのような資産家が収集したコレクションを展示する「私設博物館」を運営することもあり、国立アメリカ・インディアン博物館のように私設から国立となる例もあります。限られた所有物からオープンな知財へと移行していると言えます。

日本では社寺の宝物殿が原型とされていますが、明治時代にパリ万博に参加した有識者により、博物館の設置が進められていきました。社寺は人が集まるコミュニティでもあり、教育の場でもありましたが、同様に現代の博物館でも、定期的なイベントやセミナーを開催して出会い集う場としている事例も多くあります。

博物館や美術館の役割としては、守るべき文化の重要さを示し、適切に保存し、多くの人が楽しめるように展示し、価値を未来に伝えていく必要があります。その保存方法も解説も専門知識が必要となり、学芸員の方がそれを担っています。これらに加えてファンドレイジングを行うことは大変なようではありますが、広く支援者を募ることは資金面の解決だけではなく、普及活動にもなり得るものです。

ルーブル美術館のクラウドファンディング事例

誰もが知っているルーブル美術館の例で見ると、2010年からクラウドファンディングを活用し、貴重な作品の購入や修復に成功しています。この活動は、文化的価値を多くの人と共にし且つ参加を促す効果を持っています。『Tous mecenes !(全員がパトロン)』キャンペーンは、美術作品の修復や新たな作品の獲得を目指して、広く一般からの支援を募り、文化遺産の保存と普及に寄与ました(※ [Tous mecenes – Le Louvreのウェブサイト](https://www.louvre.fr/))。

他の年では例えば、以下のようなプロジェクトが実施されました。

  • 2010年:「Tous mecenes!」キャンペーンが始まり、最初のプロジェクトである「Les Trois Graces」の購入に成功しました。
  • 2013年:「Winged Victory of Samothrace」の保存修復プロジェクトに対して、6,700人以上の寄付者からの支援を受けました。
  • 2016年:ジャック・サリーの「Cupid Testing One of His Arrows」の国家コレクションへの加入を可能にするため、4,300人以上の寄付者からの支援を得ました。
  • 2018年:フランソワ1世の時祷書の購入に、8,500人以上の寄付者から支援を受けました。
  • 2019年:「Arc de Triomphe du Carrousel」の大規模な保存プロジェクトに対して、4,500人以上の寄付者からの支援を受けました。
  • 2020年:「Apollo Kitharoidos」の国家コレクションへの加入を、6,600人以上の寄付者からの支援を受けて実現しました。

これらのプロジェクトにより、ルーブル美術館は、歴史的価値の高い作品の保存と公開を継続し、世界中からの寄付という参加を通じて、美術館としての使命を果たしています。

この取り組みは、文化施設がファンドレイジングを通じて多くの人を巻き込むプロジェクトを達成できることを示しています。重要な文化遺産を保護し次世代に伝えるために、博物館や美術館が直面する資金課題に対処しつつ、ファンにとっては参加の機会を提供し、文化施設との深いつながりを築くことができるものとなります。

カギは支援者との繋がり

ひるがえって昨年の国立科学博物館のクラウドファンディングでは、最終的には支援者数56,553人から915,445,500円が集まり、国内で過去最大の支援を集めたプロジェクトとなっています。このプロジェクトを通じて、多くの人々が博物館の価値とその活動を支持し、貴重な文化遺産の保存に貢献する意欲を示したと言えます。

文化施設の存続は、社会全体の文化遺産を守り、次世代に伝えていくために不可欠です。そのためのファンドレイジングは、多くの人の参加と支援を通じて、美術館や博物館と支援者との間に深いつながりを築くことでもあります。これからも、文化施設はその大切さと保護の必要性を伝え、多くの人々を巻き込んでいくための工夫を凝らしていく必要があります。

今回はクラウドファンディングを事例にお伝えしましたが、文化施設のファンドレイジング策はクラファンだけではありません。次回は違う側面から、文化施設のファンドレイジングについてお伝えしたいと思います。

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博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは

#1 博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-1
#2 博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-2

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