調査 / レポート
AFP icon 2023イベントレポート1:セッションから3つのキーワード
AFP (Association of Fundraising Professionals) icon (International Conference)は、1年に一度アメリカで開催される、ファンドレイジングに関する世界最大の国際カンファレンスです。今年の開催地は、ルイジアナ州ニューオリンズ。今日は、5年ぶりに参加したAFP iconの体験レポートをお届けします!
参考:AFP icon( https://afpicon.com/)
5年ぶり4回目のAFP icon
AFPの地域チャプターが、毎年持ち回りで主催するこのイベントに私が初めて参加したのは2014年(その時のレポートはこちら)。パンデミック前までは2年に1回のペースで参加させていただいていましたが、今年はリアルイベントとしては5年ぶり、4回目の参加となりました。
私のAFP icon参加履歴
- 2014年 @サンアントニオ(テキサス州)
- 2016年 @ボストン(マサチューセッツ州)
- 2018年 @ニューオリンズ(ルイジアナ州)
- 2021年 @オンライン
- 2023年 @ニューオリンズ(ルイジアナ州)
AFP iconはプレイベントを全て含めると5日間、本番は3日間の開催です。イベントレポートの第1弾は、本番の3日間だけで170以上用意されている、セッションについて。参加して感じたことを、3つのキーワードで整理してみました。
1. 多様性・公平性
5年前、2018年のicon初日、主催のAFP側から参加者に対して「あらゆる社会課題解決に向き合う私たちファンドレイザー自身が、社会課題にさらされていないか?」という問いが投げかけられました。それは、前年秋頃から世界に拡がっていた#Me tooムーブメントをうけた、ファンドレイザー自身がハラスメントの被害を受けたり、見過ごしたり、加害者になったり、してはいないかという問いでした。
同時にAFPは、あらゆる不公平・不平等・差別を許さないという声明の公開(IDEA: Inclusion, Diversity, Equity & Access)と、その最初の具体的な取り組みである Women’s Impact Initiativeの立ち上げを公表しています。
参考:AFP IDEA( https://afpidea.org/)
その後、オンラインで参加した2021年のiconでは明らかにアフリカ系の登壇者が増え、セッションでも人種や障がい、性的マイノリティを扱うものが増えていました。その傾向は、今回も引き継がれています。
例えば、今年はこんなセッションがありました:
- Being A Black Male In Fundraising-The Conversation Continues
- The Roots Run Deep: Disrupting Institutional Racism & Unethical Behavior As a Leader
- Belonging and Exclusion: Creating Space for Growing LGBTQ Donors
- Fostering a Culture of Gender Inclusion in Fundraising and Nonprofit Spaces
- Allyship and Accessibility in the Disability Sector – Mistakes Made, Lessons Learned and Best Practices
さらに今年は、配布資料を含めて、運営自体が大きく改善されていると感じました。これまでの配布資料は、抽象的な画像だけのページが半分以上というものも珍しくなく、セッションを聞いて初めて理解できるという感じでした。しかし今年は、簡潔な文章で説明が記載されている資料が多く、セッション中に言葉が十分聞き取れなくても、資料を見ればポイントは理解できるようになっていました。
また、オープニングやクロージングセッションでは、リアルタイムの字幕と手話通訳も新たに導入されていました。
これらは恐らく、主に聴覚に障がいを持つ人を意識して改善されたものと想像していますが、私のようなノンネイティブにとっても、大変助かる改善でした。
2. データ+具体的なソリューション
セッションには、ファンドレイザーの他に、コンサルティング、データベース、寄付者調査、マーケティングなど、ファンドレイジングのためのサービスやソリューションを提供している様々な企業(ソリューションプロバイダー)も登壇します。毎回驚くのは、ほとんど全てのセッションで、具体的なデータが提示されていること。AFPのような中間支援やネットワーク組織が行った調査結果、ソリューションプロバイダーたちが自社サービスの中で蓄積・分析したデータ、各団体が独自に行った調査結果など。出所は多様ですが、現状(ファクト)も目標(インパクト)も、データが示されることで参加者の意識というか、距離感が揃う感覚があります。
ファクト認識が変われば、最適な判断も違ってきます。だからこそセッションでは、前提となるデータを提示した上で、具体的な対応や考え方=ソリューションが示されます。そして質疑の時間には、自分の団体は状況が異なるという質問が飛びます。
この辺りは、日本のファンドレイジング大会(FRJ)と少し状況が異なりますね。各団体・ファンドレイザーの具体的な取り組みが紹介されることの多いFRJに比べて、AFP iconのセッションはより一般化された内容が多いように思います。一般化されたセッションというのは、どんな団体でもそのエッセンスを活かすことができるという意味では素晴らしいのですが、自団体の状況に合わせて解釈し直すのが難しい、というのも事実。そういう点においても、ファクト認識と目指すインパクトを具体的な数字で共有した上で、その対応や考え方を学ぶことが参加ニーズに合っているのだろうと感じます。
そして、データはセッションの距離感を揃え、支援者コミュニケーションの説得力を増す重要な要素ですが、ファンドレイジングの基本がストーリーテリングであることは今も変わりません。データの使い方も、「語る力」も、もっと勉強したいなと思いました。
3. 寄付者を知って、寄付者を主語に
2014年、初めて参加したAFP iconでは「ASK(お願い・依頼する)」という言葉を何度も聞きました。当時から寄付者とのコミュニケーションはファンドレイザーにとって大切な仕事でしたが、最も重要なのは「寄付をお願いする」ことでした。
振り返ると、Stewardshipという言葉が多用されるようになった2018年ごろから空気が徐々に変化してきたような気がしますが、今年のiconでは、ファンドレイザーは寄付者が寄付の決定をするために必要なサポートをする仕事、寄付者が準備できるのを待つ仕事というような表現を多く聞きました。
社会課題解決の主役は寄付者であり、どの課題に、どのように関わるかは寄付者が決定するべきであるという考え方は、コミュニケーションや報告についても同じです。寄付者を分析・セグメントして、最適なツールでコミュニケーションすること、「寄付者個人」を主語に課題解決を語ること、活動報告の主語は団体ではなく寄付者であることなど。寄付者を中心にしたファンドレイジングは、すぐにでも取り入れてみたいですね。
具体的には、こんな話がありました:
- 団体にとってやるべき事業、ということだけでは、寄付者にとって魅力的な事業、ということにはならない
- 団体にお金が必要な時が、寄付者が寄付をしたい時ではない
- そのお金でどんなインパクトを生み出したいのか、どんな方法で報告が欲しいのかは寄付者によって違う
- 寄付者の関心は、団体が実行・実現したことではなく、自分が実現したこととそのインパクトにある
- あの時のお金が今もインパクトを生み続けていると報告することが、寄付者を幸せにする
余談ですが
日本のファンドレイザーは、自団体のことを「自分たちの活動」という意識で話す人が多いですよね。それが当たり前のように思っていましたが、AFP iconで出会うファンドレイザーたちは、いい意味で所属団体との間に距離があるように感じます。自団体を代表してコミュニケーションしているというより、団体と寄付者の間に立って、情報やコミュニケーションを仲介しているイメージ、と言えば良いでしょうか。感覚的なことなので、図にしてみました。伝わるかな?
今回、久しぶりにAFP iconの規模や温度をリアルで体感させていただいて、アメリカと日本におけるファンドレイジング環境を見比べた時の違いとして、寄付文化のあり方や寄付市場のサイズ以外に、労働市場自体が徹底したジョブ型という点は大きいなと感じました。
プロフェッショナルとして、所属する組織を変えながらキャリアップしていくことが前提の環境では、得意な領域で専門性を高めていくことが重要になりますし、団体のミッションと同時に寄付者の満足度にもコミットするのは当然です。行き過ぎると、受益者が望まないインパクトが期待されるなどの弊害も出てくるかもしれませんが、エコシステムを豊かにするという意味では、日本でもそのような立ち位置のファンドレイザーが増えたら良いなと思いました。
日本では、2021年から日本ファンドレイジング協会がエコシステムプロジェクトを進めてくれています。すでに様々な立場のファンドレイザーが活躍し始めていますが、これからまだまだ新しいポジションが生まれてくるのが楽しみです。
と、いうところで、今回はここまで!振り返りながら書いていたら長くなってしまったので、レポートは3回に分けます。第2弾は企業ブースの様子、第3弾はニューオリンズの現地NPO視察ツアーの様子をお届けする予定です。(忘れないうちに、早めに書きます。)
お楽しみに!
現地からのライブ配信アーカイブのお知らせ
今回は、現地からライブ配信にも挑戦しました。初めての試みだったので冒頭あたふたしていますが、ライブ感としてお楽しみいただけたら嬉しいです。※いずれもFacebookライブのアーカイブが開きます