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インパクトラボ

共感の輪が広がる、周囲を巻き込む人の話し方~エレベータートークの実習から学ぶこと

令和となった時期に恐縮ながら、筆者が社会人として活動を始めた昭和の終わり頃から、異業種交流会への参加がそれまで主であった会社の代表クラスだけでなく、普通の社員でも参加するようになってきた(今から思えば隔世の感がある)。参加して熱い想いで時代を見つめながら、自分たちにない価値観を学び取り、事業の組み立てに役立てた。そんな中で、交流会仲間が次々と新規起業のタネをつかみ、いくつものアントレプレナーが出現した。また、今までにない新しい掛け合わせによって、新規部門が勃興するなどのダイナミズムを実感した。振り返ってみると、その時にキーになる人材は、必ず周囲を巻き込む話し方をしていた

プレゼンテーションとは何か?を一言にすれば「相手に対するプレゼント」と言える。「どんなプレゼントか?」といえば、「相手が本気になって」「正しい判断をできるように手助けする」ことと言える。では、何について判断してもらうかといえば、「足りない経営資源について支援したい」という判断だ。話を聞いて、その事業のその有用性がわかると、事業を何とかものにしたくなって、足りないところは聞いている自分が補ってでも実現しようと心動かされる。プレゼンテーションは、そんなきっかけとなる。

ファンドレックスが提供するサービスメニューには「戦略策定」や「調査分析」「実行支援」など、様々な局面での支援があるが、その提供の仕方として「研修・講演」がある。中でも筆者の人気メニューのひとつに「広報発信力強化プログラム」があるのだが、これは前述のプレゼン能力について「周囲を説得する話し方」を訓練して身に着けてもらう手法を取り入れている。

プレゼン能力を磨くための「エレベータートーク」

「エレベータートーク」の言葉の由来は、シリコンバレーの起業家が投資家と、あたかも偶然に乗り合わせたかのようにエレベーターへ乗り込み、そこで自分たちの事業について説明して、目的の階へ達した時には投資を引き出したことにある。短時間で自分たちのすべてを語ることはできないが、興味を持たせ、関係性を高める話し方で「エレベータートーク」や「エレベーターピッチ」と呼ばれている。本来は自分の事業についての一から原稿作成してもらうのだが、研修という限られた時間の中で一定の効果を出すために、以下のような例文に沿って、[ ]の空白部分を埋めるトーク原稿を考えてもらい、短い時間でいろいろな人と1分間でトークして、それを繰り返し、言葉を磨いていく体験をしてもらっている。

[エレベータートークの実習] ~初めてあった人に1分間で話せるように~

1)私たちの団体は[      ]を目的に活動しています
2)その実現のために[      ]といった事業を展開しています
3)私たちの事業の特徴は[      ]です。
4)あなたも、私たちの活動に参加して、共に[      ]な社会を実現してみませんか?

エレベータートークのコツは、相手の心に残るキーワードやエピソードを盛り込み、フックがかかるようにすることにある。1分間という限られた時間内で、取り組みをしている事業についてまんべんなく説明して紹介するのは難しい。少なくとも「もっとこの人の話を聞きたい」と相手が思うように仕向けること、つまり興味と期待感を持たせることと伝えている。

「言葉を磨く」という体験を

原稿を創り上げていく中で、自分では事業のことがよくわかっているので、当たり前のように自分たちが取り組んでいる内容についてはスラスラと書き出していけるのだが、実際に見ず知らずの相手と相対して、自分の取り組み事業について1分間エレベータトークしてみると、意外と相手に伝わらない、理解されないことが多いことが相手の反応や表情からわかるようになってくる(実際にワークショップ型の研修ではこうした効果を狙って、できる限り初めて会う人とペアを組ませるようにしている)。

そこで、どこがわからないのかを探って、どうしたらわかってもらえるようになるか。また頭ではわかっていても実際に口に出してみるとしゃべりにくいフレーズなどがあったりするのを、もっと言いやすい、けれども意味がちゃんと伝わる言葉に置き換えられないか、もっと短く伝えられないか、もっとわかりやすいフレーズはないか等の作業を繰り返してもらう。相手の反応から自分の言葉を直していくことが得意な人は、相手に対して「思いやり」のある人。専門用語を使わず、経験のない人にでもその良さや面白さ、特徴が伝わるように、原稿を改善し続けていく。これが「言葉を磨く」体験である。こうして自分の視点をしっかり持っているけれども、相手の視点に合わせて語ることができるようになってくる。上手くなってくると会話の中でも、的確な表現をその場のアレンジできるようにまでなる。

人は「説得」ではなく「納得」して動き出す

説明をパズルのように組み合わせ順序だてて説明していっても、相手は動かないことがある。説明するにも「数字を多用したり」「イメージを伝えたり」「キーワード(フレーズ)を入れる」などのテクニックを活用することはできるが、それだけでは相手は納得してくれないこともある。

ではどうすればよいか。それには「何を(What)やるかではなく、なぜ(Why)やるか」をしっかりと伝えることだ。なぜ、自分はそのアクションを始めようとしたのか、なぜその夢をあきらめきれないのか。その理由は何かを考えてみる。するとこれからやろうとすること(未来)を語るためには、それをしようとするきっかけになったこと、原点ともいえること(過去)があることに気づく。つまり、説得する語り方をする人の特徴は「未来を語るために、過去へ一度戻って語る」ことだ。そして、なぜそれをやるのかを言葉だけでなく、行動で愚直に示していることだ。そんな姿を目の当たりにすると、共感が沸き起こる。「共感する」とは、想定していた事態を上回る事態に遭遇した時に沸き起こる心の動きである「感動」から一歩進んで、相手と同じ気持ちになって動こうとする心の状態である。
それは説明に説得されているのではなく、納得した状態、さらにもう一歩といってもよい状態となっている。

エレベータートークの実習の最後は、「4)あなたも一緒に~」となっている。せっかく気持ちが動いている状態なので、相手にしてほしい具体的なアクションを伝えることが話し方の締めくくりとなる。ここに明日まで寄付してほしいとか、サイトをみて「いいね」してほしいとか、この話を周囲に伝えてほしいとか、具体的なアクションへの期待を伝えると、実際に相手が動き出す。
そして共感してくれているので、具体的なアクションだけでなく、共感した内容を次の人に伝えてくれるかもしれない。こうして一人がまた一人と伝えて、そうして共感の輪が広がっていく。

鉄則にあるように、練習していないと実際の場面ではとっさにはできない。私たちは日常の中で突然、短く団体のこと、自分のこと、取り組みのことを紹介する機会が巡ってくる。職場や町内や、仲間内の飲み会などの中で突然にその機会が訪れる。もしも、あなた自身が、そしてあなたの団体の理事もボランティアもみんなが、そうした場面に出くわしたときに同じようなことを発信できるようになっていたとしたらどうだろうか。さらにそれが的確で興味深いものだったとしたら、どんなことが起こるだろうか。それはどんどんと共感や支援が広がるイメージそのものではないだろうか?

そのための第一歩として、周囲に周囲に団体の持つ価値を発信するところから始めよう。他の人々に対して、社会的要因が存在していることを働きかけて共感を得る。そして、課題解決のためには、団体が解決策であると、納得してもらう。愚直にこれを繰返すこと。

共感はあなたが偶然出会った、たったひとりにやさしく語り掛けるところから広がり始める。

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