
経営/マネジメント
支援者のペルソナをしっかりと把握する、ヒアリング、その先のドナージャーニーも:ファンドレイジングの教科書 第5回
ファンドレイジングの教科書
▷ 1.まずはステークホルダーを分析、そこからステップアップ戦略を
▷ 2.そのつぎに、自団体の強みを認識するSWOT分析する
▷ 3.業界をみて他との区別できるか、ポジショニングを分析してみる
▷ 4.ステップアップ戦略をとるために、各階層にはどれぐらいの支援者が現在いるか
▷ 5.過去の寄付額はどれぐらいの金額かをドナーレンジチャートで
▷ 6.支援者のペルソナをしっかりと把握する、ヒアリング、その先のドナージャーニーも
▷ 7.支援者に応じた基本メッセージの発信する
▷ 8.ドナーレンジチャートから支援者が応援しやすい寄付メニューを構築する
▷ 9.広報ツールを棚卸して、支援者コミュニケーションの頻度も検討する
▷ 10.支援者拡大のためのツールを作成する
ファンドレイジングを初めて取り組みする団体に向けて「ファンドレイジングの教科書」を連載してきた。はじめにどんな方々が支援者となるか(第1回ステークフォルダー分析)、自団体の強みや競合環境を考える(第2回SWOT分析)、さらに競合環境を掘り下げてみる(第3回ポジショニング分析)、支援者はどの階層にどれぐらいいるか(第4回ドナーピラミッド分析)、寄付者へ成長(ステップアップ)のために現状の寄付額から目標額を出してみる(第5回ドナーレンジチャート分析)、と回を重ねてきた。
最初に認識していた支援者と自分たちの組織の強みが様々な分析を重ねることでそれぞれに「解像度が高まり」、実際には一人ひとりの支援者は顔が違うように別々の人格や生活を送るが、多くの方が抱く「し好」とか「傾向」がわかってくるようになってくると、よりコミュニケーションとして的確なアプローチが取れるようになってくる。最終的には一人ひとりへの個別対応となるが、それでも好ましい連絡や接点が持てるとより効果的になってくる。
いくつかの支援者層があるにしても、そもそもその層にいるひとを代表する個人的でありながら平均的なプロフィールを把握して、それぞれに適切なコミュニケーションをとることができればというのが、今回のテーマ「ペルソナ像」を見つめなおしてみるということになる。
ターゲットからペルソナへ
ペルソナとは、マーケティング用語において、商品やサービスを利用する典型的な顧客像(ユーザープロフィール)を具体的な人物として設定したもので、顧客へのアプローチや志向を活かした商品設計などを進めるにあたって顧客のニーズや行動を理解するために用いられる。
「ペルソナ」とは、ユングが提唱した心理学用語で「仮面(Persona)」を意味するラテン語から派生し、人間の「外的側面」「内側に潜む自分」のことと定義されていて、マーケティング用語としては「外的な人格」や「社会的な役割」を指す言葉として使われている。これまでは顧客や支援者像をターゲットとしてひとくくりにしてきたが、より具体的な人物プロフィールを想定してより適切なアプローチがとれるようになっていく。商品やサービスのユーザーモデルをいかに詳細設定するかの違いだと把握すればよい。
- ターゲット:市場全体を属性(年齢、性別、地域など)で区切ったグループ群を指す
- ペルソナ:ターゲットの中からさらに具体的な人物像を想定したもの
例えば代表的な支援者として「60代女性」だけで把握している場合には「ターゲット像」と呼ぶが、「64歳で仕事と子育ては一区切りついて、健康に気を付けているが、医療機関などが不安であったので最近、都心回帰をした都内在住の主婦」といった具体的な人物の横顔を設定することを「ペルソナ像」と呼ぶ。
ターゲットの中でさらに細分化した個のし好を把握して、それに応じた対応を図るようにしていくことで、例えば、相手に刺さるキーフレーズはどんなものか、どんな対応をするとさらに喜ばれるかを具体的に検討する際に役立てることができる。
ペルソナ分析の進め方
準備物
模造紙、付箋紙、マジックペン
ペルソナ設定に必要なものは、具体的な支援者の情報を収集することである。

図1:ペルソナ設定手順
1)情報の収集
手持ちの支援者情報(寄付額、期日、使い道の指定、面談記録・イベント参加などのコンタクト履歴)に加えて、アンケートやSNSの解析、サイト訪問者のアクセス解析などの手段で重要な情報が得られる。
情報の収集方法の例
- イベント出展、メール、SNSでのアンケート
- 支援者へのインタビュー
- アクセス解析(ホームページ、サービスサイト、ECサイト)
- 口コミサイトやSNSでのコメント
- 支援者データ
- カスタマーサポートへの問い合わせ内容
- 個人連携担当や法人連携担当者などの顧客接点を持つ社内担当者に対するヒアリング
ヒアリングの技術について
中でも最も効果を発揮するものは支援者へヒアリングすることだ。ペルソナを設定する上で、できる限り支援者へのインタビューなどを実施したい。過去に「ヒアリング」については、大切な技術として紹介しているので、ぜひ参考にしてもらいたい。
#05 ヒアリングの技術を磨く―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
#06 ヒアリングを通じて、前向きな機運を醸成する秘訣―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
2)収集情報の整理
- デモグラフィック:人口統計学的な属性情報。
例)年齢、性別、居住地域、所得、職業、ポジション、家族構成、学歴など。 - ジオグラフィック:地理学的な属性情報。
例)国、地域、居住地の特性、宗教、文化など - サイコグラフィック:し好、性格、主義主張といった心理学的な属性情報。
例)パーソナリティ、価値観、こだわり、興味、嗜好、趣味、ライフスタイル、信条、大切にしていることなど - ビヘイビアル : 過去の行動に関する属性情報。
例)利用頻度、利用目的、購買履歴、購入場所、閲覧ページ、情報収集方法、習慣パターン、など
3)ペルソナシートを作成
集まった情報をもとにしてペルソナシートを埋めていく。文章やストーリーで言語化することを通じて、メンバーの中での共通軸が生まれてくる。氏名も仮に「太郎・花子」と名付けるのではなく、そうした人物背景にふさわしい名前をつけてもらいたい。
ペルソナマーケティングとは、「たった一人に向けて作られた商品」が実は「多くの人に支持される商品になる」という考え方のもとに、その人に刺さるプロモーションはどう展開すればよいかを設定していく。

図2:ペルソナ像の例
ペルソナマーケティングのメリット
◆支援者の行動パターンや共感ポイントが明確に
一日の行動パターン、趣味嗜好、消費の傾向、大切にしている価値など支援者の詳細がわかると「このメッセージは○○さん(ペルソナ)的にはどうかな?」「○○さん(ペルソナ)は、この日程なら参加できるかな?」「○○さん(ペルソナ)が読みたくなるメールのタイトルは何だろう」等マーケティングやコミュニケーションをより具体的に設計することが可能に。ペルソナからわかることは「好みと関心」「課題とニーズ」「購買プロセス(接点での行動パターン)」によっていわゆるマーティンぐ力が向上する。
つまりペルソナに合わせたコンテンツ戦略を展開することで、ユーザーエクスペリエンスが向上し、ユーザーはより関心を持ち、応答するようになり、カスタマイズされたコンテンツは、コンバージョン率の向上にも寄与する。
◆理想の支援者像イメージを組織内で共有
複数人の間でイメージを摺り合わせるのは、非常に難しく、例えば20代の未婚女性、都内で働く40代男性のようなターゲット像では、各々が勝手にその人の生活スタイルや考え方を想像していると、知らないうちに認識のずれが生じてしまう。
ペルソナを明確化しておけば、全員の中にたった一人の共通したモデルがいる状態が保たれ、何か迷ったときにも共通の判断軸を持つことが可能に。
◆より精度の高い施策が可能に
ペルソナが具体的だと、ニーズはもちろん、例えば広告を示す場合においてもその内容などをどのように展開するのが効果的であるかが想像しやすくなる。試行を行う場合においても仮説があるために最初から精度の高い展開が可能となる。
ドナージャーニーマッピングによって接点面を強化する
ペルソナによって掘り下げた支援者像があることによって一貫したメッセージや価値を持つ寄付商品・サービスの提供につながり、施策・サービスの固定ファンの獲得にもつながっていく。さらにドナーとの関係性を深めていく「ドナージャーニー」を設計する場合は、その“旅”をする旅行者となる。いわばドナー側からみて第4回で作成した「ドナーピラミッド」をステップアップしていく、縦方向に動いていく旅の中でどんな居留地があり、どんなお土産を得て、どんな思い出を積み重ねていくかを計画していくことになる。
具体的には、潜在的な支援者が団体とのなんらかの接点を持つことから始まって、関係性を深めて支援者として成長していくことをストーリーを考えながら設定してみる。それぞれの成長のステージでどのような接点機会、ツール、提供する施策は何かを検討していく。

図3:ドナージャーニーの例
ペルソナの限界
かなり手間暇をかけてペルソナを作ったとしても、特定のターゲットオーディエンスを代表させたペルソナでは、常に変化する市場や支援者の行動パターンの出現に対処できず、特に過度な一般化に陥ると、個別の支援者の多様性がとらえきれない場合も出現する。時間とお金をかけて創り出したにもかかわらず効果が低下する場合には、定期的なペルソナの更新が必要であり、さらに負担増が重くのしかかってくる。
ペルソナは固定的な設定となるため、市場が変動し、多様化する支援者セグメントを無視してしまうことになり、リアルタイムでのデータ変化に対応させていくことが難しくさせていく。
参考
P-04 コミュニケーションの相手を知る:広報的ファンドレイジングを強くする12のポイント
P-06 ドナージャーニーマップを考える①:広報的ファンドレイジングを強くする12のポイント
P-07 ドナージャーニーマップを考える②:広報的ファンドレイジングを強くする12のポイント
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