ICT / テクノロジー
非営利組織がデータ(情報)を活用することで不安定な時代を乗り越える
昨今、東京では「東京アラート」が発動し、まだまだコロナウイルスの影響が続いています。こうしたコロナ禍において様々なファンドレイジング事例に私自身は触れていますが、なかでも、今までに蓄積した情報(データ)を活用する機会が、一層高まっていくのではないかとみています。
海外では、データ(情報)を元にしたファンドレイジングが急拡大しており、少し前ですが2016年に発行された書籍『Data Driven Nonprofits』は、データ・ドリブン(情報駆動)を活用した非営利組織の成長に焦点をあてた内容として、全米でベストセラーになったようです。
この本の中で「データ・ドリブン」を進めるプロセスが紹介されていました。実務上、私もデータ・ドリブンを実行する際にこのプロセスに近いことも多くあったので、今回は私の知っている例をあてはめながら、ポイントをお伝えしていこうと思います。
STEP0 データ(情報)を準備する
まず必要なデータを集め、整理して保管します。例えば、名刺データを集める場合は、名刺情報をリスト化し、同じ方がいれば名寄せし、また会社や部署が変わったら最新情報で更新します。
このときに、データの器として「支援者データベース」が必要になってきます。ExcelやACCESSやFileMaker、またSalesforceやkintone、コングラントなど数多くのデータベースが出てきています。
〈このSTEPのポイント〉
情報が使いやすいように管理(≒メンテナンス)することが大切になります。余談ですが、この部分を担っている担当者が組織内にいるかと思います。彼・彼女たちの仕事があって初めて次のSTEPに進めます。個人的には、感謝の念があっても足りないくらいです。
STEP1 「何が起きているか」現状を把握する
これまでの組織の状況(ファンドレイジングでは主に財務面)を把握します。例えば、昨年度と今年度の寄付金額や人数を月ごとに比較してみたり、マンスリーサポーターの退会率を算出して前年度と比較してみたりします。
こうして比較した中で、変化があった部分に着目します。寄付金額の前年度同月比で見たときに、例えば3月(さらにつっこんで第1-2週目)が、昨年の同じ月週よりも少ない場合は、そこに着目します。
〈このSTEPのポイント〉
『何か』と比較することです。『何か』は、一般的には、内部情報と外部情報に分かれます。前者は、現在と過去といった時間軸のデータでの比較が多くあります。後者の外部情報は、同行他社や業界平均などですが、日本の非営利分野ではあまり表に出てきません(海外の数値は出ており、私の肌感覚では日本の組織に当てはめてもそんなにズレはない印象です)。
STEP2 「なぜそれが起きたのか」原因を究明する
先のSTEP2で着目した部分について、原因を究明します。例えば3月(第1-2週目)が、昨年の同じ月週よりも少ない場合、なぜそうなったのかを探ります。この結果、コロナウイルスの影響で、路上での街頭キャンペーンでは人が立ち止まらなく、新規の寄付者が減っていることがわかりました。
〈このSTEPのポイント〉
変化について多角的に検討することです。手持ちのデータ(情報)に加えて、実施した施策や現場の声などを踏まえて考えます。定期的にスタッフでMTGを行うやり方もあります。
STEP3 「これから何が起こるのか」予想する
先のSTEP1,2を踏まえて、今後について予想します。例えば、3月の早いタイミングで変化を察知し、このまま新規獲得が難しい状況が続くのではないかと予想します。ほかにも例えば大規模なイベントを中核としたファンドレイジングキャンペーンを6月に予定していた場合は、その結果がどうなるかを予想します。
〈このSTEPのポイント〉
「カン」などの個人的な観測を出来る限り除いて予想することです。手段としてシミュレーションを行うことが多くあります。STEP1,2の数値を元に機械的に行うと、個人的な感覚を少なくすることに役立ちます。このとき、BI(Business intelligence)ツールなども安価に利用できるようになってきましが、簡易的にExcelなども利用できます。
STEP4 「私たちは何をすべきか」意思決定する
先のSTEP3の結果を踏まえて、今度の方針を決定します。例えば、新規獲得を一切行わない、既存支援者へのコミュニケーションを優先する、6月のキャンペーンを見直す、などの意思決定を行います。
〈このSTEPのポイント〉
事務局長などの経営陣が意思決定し、ファンドレイザーなどの現場が納得することです。特に「データ・ドリブン」の考え方が組織に浸透しているかが響いてきます。
次のSTEPは、書籍では触れていませんが、必要なため追加しています。
STEP5 「データ(情報)を組み合わせて」実行する
実行する際には、その成果を高めるために様々な情報を活用します。例えば、既存支援者へのコミュニケーションを行う際に、過去の情報などからリピート回数が多い人ほど高い確率で寄付することを見出して、リピート回数が多い支援者へ優先して声がけします。
〈このSTEPのポイント〉
データ(情報)を有機的に実行に組み合わせる仕掛けを考えることです。
このようにSTEP0-5までを意識することで、データ・ドリブンによるファンドレイジング、つまり「データ・ドリブン・ファンドレイジング」を実行することができます。ちなみに例であげた内容は、実際にあった事例(分かりやすく簡略化していますが)で、結果は前年同月比に比べて増加したようです。