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世界の未来と日本の未来を「見る」ための3つの要素
このソーシャルセクターに本気でかかわるようになって10年。いろいろな仕組みや仕掛けを生み出すプロセスにかかわる中で、「見えてきた」ものが3つある。
1つは、「新たな資本主義社会」の生み出す可能性だ。
ノーベル平和賞をとったモハメド・ユヌス氏のいうCapitalism 2.0も、インパクト投資の父ロナルドコーエン卿のいうImpact Economyも、その見ている未来は非常に似ている。それは、「すべての企業の活動が(社会的)インパクト志向化する」という社会である。消費者・株主・従業員が社会的志向を高めていくと、利益のみを志向した事業体が共感を得て成長することが困難になる時代がくる。その時代では、例えば上場企業は全て社会的なインパクトを調査公開することが求められる時代になる。そうなったときのソーシャルセクターの立ち位置や役割は大きく変化してくる。もはや、社会課題の解決もNPOや行政の専売特許ではなくなる。すべての経済社会システムを構成するプレイヤーの動き方を全体として調整して、最適解を導き出すことが必要となってくる。
「新たな資本主義社会」はむしろ「三方良し」の発想がもともとある日本の経済界でこそ成長の可能性があるかもしれない。しかし、ここで大事なことは、Impact Economyの本質は、「一人ひとりの個人(投資家、従業員、消費者、生活者)のパラダイムシフト」がすべての前提であるということだ。「ものの見方を進化させる」ことが、新時代への展開の本質である。
2つめは、「未来が見えているファシリテーター」の可能性だ。
そうした中で、「今の状況での多様なステークホルダーの調整」ではなく、「課題の本質をとらえ、未来からバックキャスティングして調整する力」がソーシャルセクターに求められてくる。未来の社会課題解決の全体構造を予見し、そこから逆算して、必要な仕組みやプレイヤーを揃え、触発し、育てて、エコシステムを構築してしまう、「能動的なファシリテーション」を担う人たちの存在である。
その「未来を見る力」を養うためには、できるだけ多くの、多様な現場や解決策に触れる必要がある。他の国のベストプラクティスへの謙虚な学びの姿勢も必要となる。しかし、それ以上に必要なことは、「この地球上にまだないエコシステム」を日本に創造する「覚悟」のある人の存在が必要である。日本社会にそのまま持ち込める「エコシステム」は地球上に存在していない。しかし、解はある。あとは解を見つけようと覚悟を持って歩み続ける人が必要なのである。SDGsは、バックキャスティング志向性があるという点で、非常に大きな追い風要因でもある。地域でも、分野でも、企業にも、行政にも、NPOにも、そうした役割を担おうとする「個」の潜在的な情熱にふれることがある。あたかも、戦後の焼け野原で、未来を構想した松下幸之助のように。
3つめは、「ソリューションプロバイダー」インダストリーの可能性だ。
今、日本でも、社会課題の解決主体であるNPOやソーシャルビジネスなどを専門に支援する企業が増加している。コンサルティング、調査研究、WEBマーケ、データベース、経営支援やファンドレイジングなどで、課題解決を進める主体を専門的知見を持って有償でサポートするプロフェショナルたちである。続々と誕生する日本の「ソリューションプロバイダー」たちは、現場でのイノベーションの創出を数多くサポートする中で、実践知を多様に吸収し、集積させることができる。その知見を進化させ、更に質の高いサポートにつなげいく。マッキンゼーの中興の祖であるマービンバウアーは、ビジネスの世界でのコンサルティングを米国経済界に定着させた功労者でもあるが、米国経済界が世界をリードする存在でありつづけることは、彼らソリューションプロバイダーが実践知を集積し、提供しつづけたことと不可分ではない。今、日本に育ちつつある「プロフェッショナル」として社会課題解決をサポートする人材層のクオリティは非常に高い。また、欧米にない特徴として、こうした急成長するソリューションプロバイダーが、相互に協力しあう雰囲気があるのも日本の持つ可能性ともいえる。この層が、本質的な変化を後押しする「知の構造化」を実施的に日本で担っていくことになる可能性がある。
この10年、365日ずっとソーシャルセクターの課題解決に携わり、世界の最先端で社会を変えようとする先駆者たちと交流する中で、今、強く感じるのは、この3つの可能性である。
日本の社会課題解決モデルを進化させることは、世界の社会課題解決モデルの進化につながる。オンリーワンの価値を世界に提供する可能性があるステージに今の日本のソーシャルセクターはある。