
経営/マネジメント
ステップアップ戦略をとるために、各階層にはどれぐらいの支援者が現在いるか:ファンドレイジングの教科書 第4回
ファンドレイジングの教科書
▷ 1.まずはステークホルダーを分析、そこからステップアップ戦略を
▷ 2.そのつぎに、自団体の強みを認識するSWOT分析する
▷ 3.業界をみて他との区別できるか、ポジショニングを分析してみる
▷ 4.ステップアップ戦略をとるために、各階層にはどれぐらいの支援者が現在いるか
▷ 5.過去の寄付額はどれぐらいの金額かをドナーレンジチャートで
▷ 6.支援者のペルソナをしっかりと把握する、ヒアリング、その先のドナージャーニーも
▷ 7.支援者に応じた基本メッセージの発信する
▷ 8.ドナーレンジチャートから支援者が応援しやすい寄付メニューを構築する
▷ 9.広報ツールを棚卸して、支援者コミュニケーションの頻度も検討する
▷ 10.支援者拡大のためのツールを作成する
団体として誕生してから様々な活動を展開していく中で、接点をもった数多くの人びとがたくさんおられたことでしょう。その中には、活動の最初から応援してくれている人、その後に出会って支えてくださっている人、そのお友達の方でまだ応援はしてもらっていないけれどイベントには参加して応援してくださる人、イベントの講演会に聴講していただける人、などなど繋がりや支援の仕方はいろんな方法で参加されておられる。
しかしながら、あなたの団体を応援している現在の支援者というのは、いったいどれぐらいいるだろうか。今回のテーマは、まさにそのことから始まっていき、得られたデータから施策をしたらどんな変化をしてもらいたいかを検討していきたい。
なぜデータをとることが大切なのか
支援者の属性についての「個人情報」については、その方とのやりとりを重ねるための住所録データとしての使い方から、イベントに参加していただいたり、応援購入してもらったなどのコンタクト情報や行動記録を時系列で把握していくと、その人がどれほどあなたの団体を支持して「愛して」くれているかがよくわかるようになってくる。前半にでてきた、支援者の氏名、メールアドレス、性別、出身地などその方が有する固定するための情報・性質・特徴などのことを「属性データ」と呼び、後半の団体と接点を持ったきっかけ や参加履歴、電話やメールのやりとり、購入履歴、など時間の経過と共にどのようなプロセスを経て応援していただいているかがわかる行動の記録などを「行動データ」と呼ぶ。
「属性データ」とあわせて「行動データ」も収集することによって、支援者はいつ、どんな行動をとったのかを把握した上で、仮説として「同じような行動パターンの顧客」はどこにいるのか、施策を行うとどんな反応をするか、などの試行を行って、得られた事実に基づいてさらに改善することが可能になってくる。
ステップアップ戦略とは
どんなに熱烈な支援者であっても自然に生まれてきたわけではなく、何らかの接点を持って、応援しようという思いが成長してきた結果、現在の支援状況になっているはずだ。
細かく見ていくと、一般的な消費行動は、マーケティングの古典的な認知手法である「AIDMA(アイドマ)の法則」AIDMA(注意:Attention→関心:Interest→要求:Desire→記憶:Memory→行動:Action)の法則に沿って起こると言われるが、寄付行動においては、「AIDTA (アイデタ)の法則」AIDTA (注意:Attention→関心:Interest→要求:Desire→信用:Trust→行動:Action)に沿って高まっていく。

図1「AIDTAの法則」
こうして支援者となっても、そのポジションにずっと留まっているわけではなく、感謝を伝え、適切な使い道についての報告を伝えていくと、さらにステークホルダーとしての関与度を横から眺めた「ドナーピラミッド」をすそ野の下から中腹、やがて上位へと昇っていく(ステップアップ)を果たしていく

図2「ドナーピラミッド」
データをしっかりとみてみると、このドナーピラミッドのどこに具体的に「何人」いるかを書き込むことができ、支援者の現状、また潜在層がどれぐらい見込めるかという推計もできるようになってくる。まずはこの「現状を正しく把握する」ことが必要だ。これだけで、どの階層に具体的に少ないかが把握できるようになってくる。支援者データというものが立体的に把握できるようになったのではないだろうか。
次にそれぞれの位置に存在している支援者に「どんな働きかけ」をしたら、上位の支援者になって、さらに応援してもらえるかを戦略的思考で取り組んでいくのが「ステップアップ戦略」である。支援者層の拡大というと、これまでの潜在的な層から新規支援者となることにばかり目が行きがちであるが(すそ野の拡大)、広がったすそ野を維持すること(既存支援者の離脱を防止する)、さらに支援度合いを高める(ステップアップを図る)といった3軸でとらえていくことができる。そしてその考え方に基づいて支援者データを正しくとらえ、それぞれに応じた施策を行っていくことができるようになり、またその結果も層ごとの支援者数の変化としてとらえなおすことができる。
図1「AIDTAの法則」の図にあるように「気持ちが支援しよう」と高まっていくにしたがって働きかける方法が違うように、図2「ドナーピラミッド」にあるように潜在層の方へ働きかけて「メルマガ読者」になってもらう(名前とメールアドレスを獲得)、メルマガで「こんどイベントがあるので来ませんか」と呼びかけて「イベント参加者」になってもらう(団体とのリアルな活動履歴)、直接お話しをしていく中で興味が深まり「ボランティアもできますよ」とお誘いして「ボランティア」になってもらう(団体での貢献度の高い活動履歴)、といったステップアップがおこなわれていくのだが、その際に各層にいる支援者に対しての「働きかけ方」は階層によって違うのだと気づく。このステップアップさせることこそ「ファンドレイジング」の実際として中心をなすものであり、対象に応じて効果的な働きかけ方(ツール、方法、フレーズ等の言葉の使い方)をとることが理解できるようになってくる。
ちなみに、ドナーピラミッドは団体側から支援者を階層で眺めたものだが、支援者個人に注目して、成長のストーリーを検討するのが「ドナージャーニー」であり、いわばこのドナーピラミッドを下から上で登っていくことを目指している。

図3「ドナージャーニー」
支援者データのとり方
目的に応じたデータを集めるのが大切だが、最初はいろんなデータがあってもどうすればよいのかわからなくなってしまう。目的が明確になっていないと、データをもとにした判断や決着ができない、正しいデータ分析ができない、という課題もある。 そこで「自分たちはまずデータ活用によって何をしたいのか」と目的をしっかりと定めて、「そのためにどのようなデータが必要なのか」を考えて、目的に合ったデータを収集するという流れになってくる。
実は、そこまでがしっかり決められると、使えるデータは団体の周囲にたくさん存在している事にも気づく。使おうとしっかり目的ができているから、これが使える、こんなのが欲しいとしっかりと求められるようになると言い方できるかもしれない。過去に呼びかけた寄付集めで比較的にうまくいったイベントで応じてくれた人々のデータ。その時にはどんなチラシをつかって呼び込んだか 、他のイベントに比べてどんな変化や工夫があったか。そのチラシはどんなところに配布してどこからの反応が良かったか、それともチラシ以外の方法でやってきているのが多いのか、会場へはどこから来てくれている人が多いのか、年代や職業など個人属性として、どのあたりの方が集まっているのか、その中で寄付の支援者になってくれたのはどれぐらいか、他のイベントなどと比べて寄付額はどんな分布になっているか、などデータを活用してわかるようになってくる。
クラウドファンディングを行った時に、集まったデータは、少なくとも平均額を出してくださった大切な支援者のリスト。これは適切にコミュニケーションをかさねていくための基礎データにもなると共に、次の機会にはさらに「好きになってもらう」ための見込み層になってくる。
名刺交換した人のリスト。これもどこで名刺交換したのかをあわせて記録できると時系列で接点の傾向がわかるようになってくる。
イベントの際、ボランティアにきてくれている人のリスト。どの接点がボランティアになってくれたのか、どこれぐらいの期間、支援してくれていて。のべ時間で言うと誰が一番長く応援してくれているのか、寄付者のデータと重ねてみていくと、よくボランティアをしていて、たくさん寄付してくれているのはいったい誰なのか、
こうしたものを組み合わせていくと支援者のデータの精度が高まってくる。
支援者データの限界
データが示してくれていることは、その通りであるというよりは、おおよそその傾向が高いととらえるしかない。ある団体が支援者の導入経路がイベントよりも広告施策による流入が多かったので、そこに資金を投下して新規支援者を数多く獲得していったが、その経路で入ってきた支援者は離脱する割合が多いため、結果的には継続的な支援者となっていないということがあった。流入のところだけに注目すると施策は正しいが、支援者は時系列で変化する存在であるため、ステップアップしていないと離脱の傾向が高まることがここから把握できる。
参考 ■ファンドレイジングの新たな潮流「データ・ファンドレイジング」とは
参考 #23 ソーシャルセクターの支援者発見と組織状態の確認―ファンドレイジング・コンサルタントへの道
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