経営/マネジメント
ファンドレイジング”神話”~本当に効果があることは何か
普段仕事をしているなかで、当たり前と思っている事柄が、実は効果が期待できなかったり、限定されてしまっていたりすることがあります。こうした事柄を、”神話”と呼んだりすることがあります。今回はファンドレイジングにおける ”神話” について、見ていこうと思います。
神話1.できるだけ多くの人に伝え、多くの人から寄付をいただく
ファンドレイジングにおいて、できるだけ幅広いチャネルを設け、不特定多数の人に寄付のお願いをする。例えば、無作為にダイレクトメールを送付する、名刺交換した人をすべてメーリングリストに登録する、など。誰かがどこかで、私たち組織の活動を見たり聞いたりすることを期待して、多くのメッセージを拡散するアプローチがあります。
こうした方法は、もちろんある目的・条件下では取り得る選択肢になります。例えば、様々な種類の告知を行い、その中から効果が高い種類の告知方法を見つけ、そこに集中する、など。
一方で、支援者が共感するポイントを徹底的に深堀した上で、戦略的に寄付のお願いをする方法もあります。人が寄付するときは、「心 → 頭 → 金」という順番になることが多いと言われています。最初に見聞きした活動に”心”が共感し、”頭”自分のできることを考え、寄付という”お金”を支払う行為を選ぶ、というものです。
そしてもう一つ大切なことは、”心”を変えることは難しい、ということです。例えば、素晴らしい国際協力活動をしていても、海外の出来事に関心がない人に「悲惨な○○国のために寄付をお願いします」と言っても共感しにくく、ましてわずかな接点で関心を芽生えさすことは困難に思えます。
現実:共感する人を探し、彼らに伝えて、寄付をいただく
先の国際協力活動の例では、○○国に関心がある人達にフォーカスして訴求できると、共感してもらえる可能性は上がるかもしれません。また「子ども」という別の関心軸を提示することで、新たな共感が拡がるかもしれません。
このように、関心がある人を探したり、また別の関心軸を示すことで、彼らに共感してもらえることがあります。まずは”心”の繋がりを意識してみてはいかがでしょうか。
神話2.成功事例をできるだけ多く共有する
「上手くいったことを共有したい」。そう思う人は多いでしょう。その一方で、上手くいかなかったこと、いわゆる失敗は、個人で反省することはあるにせよ、組織(または業界)内で共有することに抵抗感を感じることも多いと思います。
こと、NPOなどの寄付金を扱うファンドレイジング活動においては、その活動の原資(の一部)は寄付金であることもあって、最適に活用しないといけない、というプレッシャー(または「べき」論)も重なり、上手くいかなかったケースを検討する機会は限らがちです。
現実:成功とともに、失敗もできるだけ多く共有する
そうしたなか、以前に、重要情報が入ったUSBメモリーを紛失したあるスタッフが、同じことを業界としても繰り返さないように、その経緯と対応を他の組織の人に共有されていました。失敗に真摯に向き合い、それを業界の発展につなげようとする姿勢に、話を聞いた多くの人が感銘を受けていました。(そのときまとめられた対策ポイントは、セキュリティー専門家の意見にも基づいており、実務的にも大変参考になるものでした)
また、昨年度の日本ファンドレイジング協会主催の『FRJ2019』では、「失敗の本質」というセッションがあり、多くの人が参加していました。
成功事例を参考にすることも大切ですが、失敗事例もまた、極めて共有する価値のある資産ではないでしょうか。
神話3.洗練されたブランドイメージを保つ
パンフレットやニュースレター、webサイトはファンドレイジングにおいて今では欠かせないツールとなっています。
これらツールですが、近年はプロボノの協力も得やすく、クオリティの極めて高いものが多く見られます。一方で、支援者から見たときに、一部のパンフレットやwebサイトでは、実際のスタッフや活動とで印象の違いが大きく、戸惑うことも少なからずあるようです。
現実:本物で正直であること
ブランドイメージを大切にすることは必要ではありますが、それが等身大の延長であったり、少し背伸びしたぐらいが、ちょうど良いのかもしれません。
いかがでしたでしょうか。 こうした”神話”は、きっともっとたくさんあるでしょう。ちょっと立ち止まって、今の仕事が”神話”に基づいていないか考えてみるのもよいかもしれません。