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ファンドレイジングの新たな潮流「データ・ファンドレイジング」とは

1.ファンドレイジングの新たな潮流

近年、ファンドレイジングに関する知識・技能の発展は目覚ましいものがあります。ファンドレイジングの効果を高めるために、その戦略を策定することは、多くの組織またはファンドレイザーにとって広く浸透してきました。また、クラウドファンディングやふるさと納税、webマーケティングなどのファンドレイジングの手法も大きく拡がり、それらを支える支援者データベースや寄付決済システムなどITツールの導入ケースも増え、ファンドレイジング施策の幅と質が拡大し、組織が得られる効果が高まっています。

こうしたなか、組織またはファンドレイザーとして、さらに効果を高めるために、最近では定量情報としてのデータを活用する流れが日本でも起こり始めています。特に米国ではその流れは近年、大きく加速しています。

2.米国でのデータを活用したファンドレイジング事例

米国の非営利セクターで有名なニュースサイト「The Chronicle of Philanthropy」が、データ活用でのファンドレイジング事例を公開しています。

事例1

World Visionでは、支援者情報を分析して、ダイレクトメール(DM)の送付対象者をこれまでの50%に絞り込みながらも、そのDMから得られた支援額がこれまでの90%という結果を得ました。つまり、データを活用することで、見込みの高い支援者を絞り込め、費用対効果が向上するとともに、これまで費やしていた残りの50%の費用をより効果的な施策へ配分することができるようになりました。(※1)

事例2

ボストン大学では、大口寄付キャンペーンを始める際にデータ分析を活用したことで、(対象者の選定などの)準備に費やしていた工数が削減でき、スピーディーにキャンペーンを始めることができました。また、データ分析の結果をもとに(事業や施策の「集中と選択」の決定ができ)、組織としてのスタッフの最適な配置を決めることで、組織が生み出す成果の向上も実現してきました。(※1)

3.データを活用したファンドレイジングの有用性

米国の様々な事例や、これまでの私の経験から、ファンドレイジングにおける戦略策定及び各種施策を実行する際に、データを利用することでの有用性を下記にまとめました。

①組織としてのより最適な戦略を立てることができる

データを効果的に活用することで、組織またはファンドレイザーが取り得る施策のなかから、より効果的な施策を予測し、そこにリソース(ヒト・モノ・カネ)を配分する決定ができます。特に、リソースが限られている組織においては、最も効果的かつ必須なポイントになります。

例えば、ファンドレイジング施策において、支援者情報を様々なセグメントに分けて、その特徴を把握し、その上で高い効果が見込まれるターゲットを絞り込みます。セグメントは例えば支援者を、新規と既存、大口と小口、の4つに分けます(セグメント分けは他にもたくさんあります)。それぞれの特徴を、定性情報に加えて、データでも詳しく見ていくと、どの層にアプローチしたら見込み効果が高いのかが見えてきます。予測をたてられると、より適切なリソース配分ができ、少ないリソースで最大限の成果を得られるようになります。

②寄付者との関係をより効果的に向上するができる

ファンドレイジングにおいては、見込み支援者から単発寄付者、マンスリー、大口、遺贈寄付者へと、ステップアップしてもらうことを戦略的に考えることがよくあります。いわゆる、ドナーピラミッドやステークホルダーピラミッドを用いた、ステップアップ戦略です。

このとき、データを活用することで、各層の人数や構成などをマクロ的に把握し戦略を検討できますが、それ以上に効果を期待できるのが、ステップアップの理由を確かめられる点です。例えば、単発寄付者からマンスリーへのステップアップを行った人の傾向を探り、仮説をたてた上で、個別の支援者へヒアリングをして妥当性を高めます(または、個別にヒアリングして得た仮説を、データで裏付けします)。その結果、もしステップアップ率が低い場合は、ステップアップの施策が適切でないのか、またはそもそも対象者へのマンスリーの案内が適切でないのか、などを検討することができます。

③何がうまくいって、何がうまくいかないかを理解する

ファンドレイジングなどの施策を実行中または実行後に、その効果を検証し、施策の有用性を測ることができます。一般的に、データ活用と聞いて連想され易く、しばしばKPI(重要業績評価指標)を用いられることが特徴です。

実施する上では、モニタリングコストも高いため途中で断念する、ないしは形骸化しやすく、継続的に実施するには、ITツールを効果的に活用できるかがポイントになります。

また、検証においては、詳細かつ正確にやろうすれば、コスト(特に時間)が肥大化しやすいデメリットがあります。例えば、施策の結果として得られる寄付金を100万円から110万円へ上げるための検証に、1週間のめり込んでしまう、ということがあります(この検証が楽しく、のめり込みやすいのが悩ましいのですが)。この時の作業者は、いわゆる近視眼的または虫の目の状態になりがりです。しかし、その時間を別のことに費やしていたら、もっと高い寄付金を得られたかもしれません。そうならないために、上記の1や2といった大局的または鳥の目を持って判断できるようにしておくことです。

他にも、「これまで把握できなかった見込み支援者層の発掘」、「Peer-to-Peer(支援者が支援者を獲得する仕組)の加速」など、多くの戦略・施策に活用することができます。

4.データ活用で気を付けること

データ活用とは手法であり、その手法を誤って使うことで、成果が得られないこともあります。そうならないために、気を付けることを以下にまとめました。

①定性情報を軽視しない

データだけに頼った思考及び判断は避けましょう。特に、「支援する」という行為には”気持ち”という側面が強くあります。データにはその気持ちが表れにくく、また見落としがちにもなります。そのため、支援者へのヒアリングや、スタッフのモチベーションなど、定性面を踏まえることを必須としましょう。一方で、定性情報に傾斜すると、少数の傾向があたかも全体の傾向として戦略・施策に反映されてしまう、という危険性もあります。定性と定量は車輪の両輪であり、一方だけを基にした判断は、効果が低いまたは誤った結果となる危険性がありますので、注意しましょう。

②データリテラシーを高める

データのとり方で大きく、判断が変わることがあります。

World Visionが、米国でチャイルドスポンサーのテレビCMを流していたときこのことです。当初は、日中の午後に流していたのですが、試しにCM単価の安い深夜にも流してみると、反応率が日中に比べて高く、費用対効果が良好という結果がでました。しかし、ドナー継続という観点では、深夜の解約率が高いことがその後に分かりました。そのため、長期的な要素を踏まえたトータルでの寄付額を比べると、CM単価が高く費用対効果も低い日中の方を継続する、という決定に至りました(※1)。

このように、使い方次第でデータは、その判断を左右し、成果を損なう危険性をはらんでることに注意しましょう。

③データを意思決定者にしない

最終的に物事を判断するのは、人間です。そして、その結果を引き受けるのも、人間です。近年は「データの世紀」とも呼ばれ、データ量が爆発的に増え、それを活用できる機会と得られる効果が高まっています。そして、この流れは今後さらに加速していきます。データによって、人生が変わる人もたくさん出てくるかもしれません。そうしたなかでは、データに翻弄されず、正しく扱うスキルが必要となってきます。しかし、スキル以上に大切なことは、決定者は自分である、という覚悟だと思います。データ及びその分析結果に流されて、それだけを理由に意思決定をせず、また、その意思決定の責任をデータのせいにせず、自分が意思決定し、その結果責任も自分が負う、ということが大切です。

5.「データ・ファンドレイジング」の可能性

私は、こうした定量情報としてのデータを(定性情報に加えて)最適に活用してファンドレイジングを行うことで、その効果を極大化できる方法を「データ・ファンドレイジング」と呼んでいます(米国では「Data Driven Fundraising」と呼ばれたりしています)。

日本でも、ファンドレイジングの手法が広く認知され始めてきた昨今、データを活用することで、多くの組織にとってさらなる飛躍の可能性に繋がると考えています。それは、大きな組織だけではなく、ヒト・モノ・カネがより少ない組織においては、例えば、優れた経営・ファンドレイジング感覚を持った人材や有用なITツールやサービスを使いこなすスキルを持った人材が乏しく、また伝統的かつ物資のバックアップのある資金調達プログラムが乏しい組織においても、データ取得の行為は等しくとれることもあり、多くの組織がデータを有効に使うことで得られる社会的な効果は高いと信じています。

※1 Fundraisers Reap Millions by Using Data ‘Gold Mine’(The Chronicle of Philanthropy, May 8, 2014)
http://www.cce-rochester.org/Fundraisers_Reap_Millions_by_Using_Data_Gold_Mine.pdf

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