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博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-2:ファンドレイジング戦略の成功事例と展望

博物館や美術館が大切な文化遺産を守り、その価値を広く知ってもらう活動を継続するために、予算確保は重要な業務の一つです。主の財源である来場者を増やすために、多くの文化施設は様々な工夫をされていると思います。

施設を持つ強み

例えば、施設という場を持つことは強みではありますが、最近は新規来場者を増やす一環で、オンラインツアーの展開など来場にこだわらない楽しみ方を提供する文化施設も増えています。これは、長年培った施設の魅力を、オンライン空間に拡張することで、「少し関心があるけど遠くて行けない」という声に応えたものです。施設の持つ価値を活かした新しい事業拡大の方法と言えます。

今回は、文化施設の持つ魅力・価値を広く届けることとファンドレイジングの策が一体になって成功しているアメリカの事例を紹介します。

補助金に頼らない『メトロポリタン歌劇場』の戦略

メトロポリタン歌劇場(MET)は、米国ニューヨーク市のリンカーンセンターに位置する歌劇場で、座席数は約 3800席(立ち見を含めると約 4000 席)の収容人員能力を持っています。毎年 10 月から翌年 5 月までのオペラ・シーズンに週 7 回、年間 25 演目のオペラを合計で 200 回以上を上演し、延べ 80 万人の観客を動員する世界最大規模の歌劇場です。

この劇場は、公的補助金が全体予算のわずか1%にとどまりながら、事業収入と寄付金によって運営を賄っています。

ファンドレイジングの秘訣は、寄付者との強固な関係構築

まずMETの新規層開拓策は、無料のパブリックビューイングを開催し、学生向けや当日格安席などで新規の観劇の敷居を低くすることから始まります。観劇に対する興味関心がある人に、気軽な形で参加してもらえる導線です。ラジオ中継は1931年から、ライブビューイングは2006年から行っており、広範囲への新規層への働きかけを昔から行っています。

ここでのファンドレイジングの仕掛けは、チケット購入時に寄付を促し座席優遇を行っている点です。この時点ですでに寄付率は6割になります。そこからのダイレクトマーケティングなどでシーズン中の情報提供などを行い、会員継続率は85%を維持しています。その後も、高額寄付者には額によって「ManagingDirector」やBordメンバーの地位を贈るなど、今度は運営に参加する道が設けられています。

観客をまずファンにし、次に寄付者へとステップアップし、METの活動と一体化した継続的な支援を促しています。

地域社会との関わりと社会的価値の向上

またメトロポリタン歌劇場には、広く訴えかけるだけではなく地域社会との関わりの活動もあります。例えば「コミュニティ・ボイス・クワイア」という取組では、主に地域に住む55歳以上の市民で、なおかつこれまでに社会的隔絶の経験を持った方を含めて対象としており、審査はありません。参加者は、10週間のプログラムを通じて、METと音楽を軸とした参加者同士での関係性を強め、最終的には公演を行います(OperaWire 参考 https://operawire.com/metropolitan-opera-guild-to-bring-back-community-voices-choir/)​。これは、音楽を通じた新しいコミュニティ活動の提供であり、音楽が持つ力を届ける活動になっています。

このような本質的な文化活動が、メトロポリタン歌劇場がもたらす社会的価値を上げていると言えます。

METの戦略を一言でまとめると、「マーケティング×ファンドレイジング×歌劇制作」が一体となって、長期的に魅力を培いブランド力を向上、ファン層を拡大させ、寄付による財源を安定させているのです。

参考文献:佐藤敦子(2013).「メトロポリタン歌劇場の革新的アートマネジメント」『早稲田大学商学研究科紀要(76)』,pp151-173,(https://core.ac.uk/download/pdf/144444041.pdf
※図は、参考文献を元にファンドレックス社作成

自施設の強みや魅力を考えることから

以上は歌劇場の事例ではありますが、博物館や美術館にとっても、あらゆる場所からの来場促進策や、チケット購入時のコミュニケーション、継続寄付の仕組みなど参考になることが多いと思います。但し、ただ策を真似する以上に、METの1833年に始まる歴史の中で培われたオペラ公演の魅力や、ブランド力に対する信頼・社会的価値が土台になっていることも、押さえる必要があります。METの場合は、「芸術文化に対する多くの人の興味・関心・理解を深める」、「ニューヨークの文化・観光都市イメージに寄与し経済効果を生み出している」、「音楽教育を通して音楽文化の醸成・人材育成に貢献している」などの社会的価値が、共感を生み出し寄付につながっているのです。

同様の社会的価値が、どの文化施設にも必ず存在しているはずです。自施設の強みや魅力をしっかりと考え、それを活かしたマーケティングやファンドレイジングの策を講じることで、社会に向けて、更なる文化の価値が広がっていくことを、私たちは応援しています。

(執筆協力 ファンドレックス相澤順也)


博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは

#1 博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-1
#2 博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-2
#3 博物館・美術館にとってのファンドレイジングとは-3

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