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AFP icon 2023イベントレポート3:NPO視察ツアーから3つのキーワード

今年のAFP icon開催地となったニューオリンズは、米国南部のルイジアナ州にあります。メキシコ湾に面し、ミシシッピ川河口に位置する湾港都市で、豊かな海産物とフランス文化の影響が溶け合う、美味しいお料理とJazzが有名な街です。

2005年8月、超大型ハリケーン「カトリーナ」の襲来によって大きな被害を受けた地域のひとつでもあり、この時のニュースでニューオリンズという街の名前を覚えている方も多いかもしれません。

歴史的には、1876年から1964年にかけて人種差別的な内容を含む「ジム・クロウ法 (別名:黒人差別法)」に類似する法律が制定されていた過去があり、60年代の公⺠運動以降も人種差別が根強く残った地域のひとつと言われています。そのような背景もあって、カトリーナ以前は高い貧困率と犯罪率が問題になっていましたが、カトリーナによる壊滅的な被害からの復興の過程でコミュニティの再構築が進み、前回私が訪れた2018年頃には、ソーシャルベンチャーが集まる「起業の街」として注目を集めるようになっていました。

AFP iconが終了した翌日、毎回、日本ファンドレイジング協会が現地NPOの視察ツアーを組んでくださっています。iconのセッションもマーケットプレイスも面白いけど、実は、個人的に一番楽しみなのはこの視察ツアー。イベントレポートの最終回は、視察ツアーの学びを共有したいと思います。

今回視察を受け入れてくださった4団体

1. 関係性の力

Volunteers of Americaでは、Reach For The Stars Breakfastという、大変貴重な場に同席させていただきました。チャリティガラの朝食版という感じのこの会は、1年に1回、地元の有力者やインフルエンサーに集まってもらい、活動報告とファンドレイジングを行う場です。

300人程入る会場は、ガラバーティほどの正装ではないですが、仕事に行く前のパリッとした服装のゲストで埋まります。10人がけのテーブルにはテーブルキャプテンが配置されており、彼らが担当テーブルのゲストを集めるという仕組み。会の終盤では、テーブルキャプテンからゲストに寄付申込書が手渡され、ゲストはその場で寄付額や寄付方法を記入します。

同じテーブルを囲むゲストは、皆同じテーブルキャプテンに招待されているため、すでに関係性があるかこれからできていく人たちです。また、記入済の申込書は、各テーブルでキャプテンが集めます。そうなると、隣に座るゲスト同士との関係性、キャプテンと各ゲストとの関係性の中で、何となく「格好がつく金額」に落ち着いていくということになります。

こう書くと「断りきれずに寄付させられる」という印象を持つ方もおられるかもしれませんが、招待されているのは、毎年どこかの団体に一定額の寄付をするつもりの方々です。そうであれば、いかに納得して気持ちよく自団体を選んでもらうかが重要になります。しっかりインパクトを出している団体に寄付ができ、さらに良好な人間関係にもつながることを理解してもらえれば、ゲストにとっても有益な場となるという訳です。

ディナーのパーティーと違い、飲食にかかるコストを大きく削減できること、時間も短縮できること、忙しい人たちも朝なら時間が取れる場合が多いことから、1時間限定朝食パーティーになったと教えていただきました。

試行錯誤の結果たどり着いた今の形を、惜しげもなく見せてくださったVOAの皆さんには感謝しかありません。早速真似したい工夫が山盛りの視察でした。

<Reach For The Stars Breakfastの会場 朝8時>

2. 連携の力

7人に1人が食べることに困っているというルイジアナ州。ここで活動するSecond Harvest Food Bankは、巨大な冷凍室、冷蔵室、倉庫、キッチンに加えて、18台の大型トラックを所有する大きな団体です。大手食品メーカーの様な設備と6万人以上のボランティアを抱え、ハリケーンの多いこの地域で、災害時も災害後も活動を続けられるリソースを備えるこの団体は、もはや「あった方が良い」存在ではなく、「地域になくてはならない」存在です。

年間$1,000万以上かかる運営費は寄付でまかない、並行して2018~2022年には設備リニューアルのためのキャピタルキャンペーンにも成功しています。

全米をカバーするFeeding Americaや、地域のボランティア団体などと多様な連携関係を構築し、地域のインフラとして機能してきたからこそ、寄付者からの支持を集めているのだと感じました。

お話を伺っていて、以前、サンアントニオでFood Bankを視察させていただいた時のことを思い出しました(その時のレポートはこちら)。サンアントニオでもFood Bankは地域のインフラとして機能しており、食を軸に、刑余者の職業訓練や工場排水の再利用など、取り組みの幅を広げていました。その時対応してくださったファンドレイザーに、「本当は貧困を解決したいが、貧困は複雑すぎてすぐに解決するのは難しい。一方で飢餓は深刻だけど、食べ物が行き渡れば解決する。まずはシンプルな課題から取り組もうと思った。」という旨の話を伺いました。

食べ物を集めて配るというシンプルな活動を中心にしながらも、その都度見えてくる様々な課題やイノベーションの可能性を無視せず、持続可能な形で実現するために「連携」してきた結果、視野もできることも広がっているんだと、連携の力を改めて感じました。

<Food Bankのキッチン>

3. ストーリーの力

家庭環境に課題のある若者や犯罪歴のある若者に対して、職業訓練と自立をサポートしているCafe Reconcileは、5年前にも視察を受け入れてくださった団体です。裁判所や教会と連携して対象となる若者と接点をつくり、ID、銀行口座、メールアドレスなど現代社会で生活するために最低限必要なツールや情報へのアクセスから支援を提供しています。

ここに来る若者に問題があるのでない、問題は社会にあるのだというメッセージを一貫して発信している点は5年前から変わりませんが、カフェ店内の様子が大きく変わっていました。

壁に、ひとりひとりの写真が、各自のポジティブなメッセージと一緒に掲示されています。写真はプロのカメラマンが撮影したもので、みんな本当に素敵な表情で写っているのが印象的でした。カフェに食事にくるお客様や寄付者を意識して掲示しているかと思い質問したところ、この写真を見た人が何か感じてくれればそれもいいけれど、一番は職業訓練を頑張っている若者たち自身のために掲示しているのだと教えていただきました。

ここでの訓練は人によっては難しいこともあって一筋縄ではいかない。落ち込んだり、もとの生活に戻りそうになった時に、一番自信に溢れている自分を見て、自分はやれるんだと思い出して欲しい。
そして彼らには憧れられるモデルが必要だから、卒業していった先輩たちの写真も飾っている。のだと。

<壁に飾られたひとりひとりの写真とメッセージ>

ファンドレイザーは、寄付者の満足度を上げたり、インパクトを数値化したり、色々なことを求められますが、やっぱり現場で日々起きていることをちゃんと知っていて、それをストーリーとして話せることこそが、活動を寄付者とつなぐ一番大切な力だと体感しました。

ちなみにこのカフェでは、支払いのチップの欄が寄付。思わず寄付したくなりますよね。

<2018年に訪問した際のレシート>

「寄付者を知る」の実践

3つのキーワードに収められず、、、おまけでもう一つ。このイベントレポートの1・2で、「寄付者を知る」というキーワードをご紹介してきました。National WWⅡ Museumで、その実践を見させていただいたので、共有します。

Nationalとついていますが、政府からの資金は入っておらず、寄付・事業費(入館料・物販)・助成金で運営しているこの施設。その名の通り第二次世界大戦に関する博物館で、映像、物品、データを組み合わせて、軍や戦地の様子だけでなく、アメリカ国内の市民の生活や世論の動きなども含め戦争の全容が紹介されています。

寄付者のほとんどが70代以上。やはり対面コミュニケーションが最も信頼される世代であるため、大口寄付者の担当ファンドレイザーは、全米を飛び回って一人一人に会いに行っていると話してくれました。そして、徹底しているなと思ったのは、寄付を案内するパンフレット一式。QRコードがひとつも入っていません。手書きして、手渡しか郵送していただくことを大前提にツールが設計されていました。

私は、想定する寄付者が高齢である場合、デジタルが得意ではないだろうなとは思いつつ、やはり便利だからとオンラインへの誘導を入れたくなってしまうのですが、寄付者が一番気持ちよく寄付を申し込める方法を考えた時、オンラインへの誘導があるツールとそうでないものを明確に分けることも考えたいと思いました。

まとめにかえて

AFP icon 2023では、ファンドレイザーは「インパクトプロフェッショナル」であるという表現も使われていました。良い表現だと思ったのですが、非営利組織の生み出すインパクトに限定された文脈なのが気になりました。

日本では、インパクトスタートアップの活躍も目立ってきていますし、大手企業の中でも本気で社会的事業に取り組むところができてきています。日本のファンドレイザーは、例えば10年後、寄付だけ集めていればいいのだろうか。とか、そんなことも考えました。ファンドレイザーのみんなと、こういう話もしていきたいなと思っています。

そして今回、日本からは10人がAFP iconに参加しました。一緒に参加したみんなと、セッションの学びや疑問点を確認しあったり、視察の感想を共有したりできたことで、私の体験が何倍にも深いものになりました。

本当に楽しい時間になりました。また集まりましょう!ありがとうございました!


AFP icon 2023イベントレポート

#1 セッションから3つのキーワード
#2 企業ブースから3つのキーワード
#3 NPO視察ツアーから3つのキーワード

さてAFP icon、来年は4月7-9日@トロントでの開催です。今回のレポートを読んで関心を持ってくださった方、是非ご予定ください!

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