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AI時代の到来だからこそ、共感資本主義が台頭していく
人工知能AIがマーケティングに活用され、顧客の過去の行動や状況を分析に利用されて久しい。SNSのつぶやき分析や口コミデータによる予測、言語解析機能から感情の分類なども始まっている。
またそれ以外の分野でも、既に新聞社の記事の一部はAIで書かれ、アルゴリズムを駆使して実績を積み上げる優良ファンドマネージャーはAI。将棋や囲碁などディープラーニングの結果、何百通りもの組み合わせを考え、局面思考ではすでに上回る成果も出している。AIは新しいことを考えられないと言われるが、実は「創造」とは過去の経験を引き出して新しい組み合わせを生み出している側面もあるため、AI文学作品の中にはいい線まで来ていたり、応募コンクールの一次選考などを通っているものでさえあるという。
人工知能AIが人類の知能を超える「シンギュラリティ」は、2045年頃に到来すると言われている。AIは人類に豊かな未来をもたらしてくれる、という楽観的な見方の一方、シンギュラリティには懸念の声も多い。世界的な理論物理学者、故スティーヴン・ホーキング博士は、AIは人類に悲劇をもたらす可能性があると警告し、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも批判的な見解を出している。著書『ポスト・ヒューマン誕生』で2045年のシンギュラリティ到来を予言した米国の未来学者レイ・カーツワイルは、こうした脅威論を一蹴するが、安全運用のためのガイドライン作成の必要性は否定しない。
AIではビックデータを解析して、予測に活用しているので、入力時のデータがいわゆる「忖度データ」等いい加減だと当然に正しい結果が得られない。また人のもつ気まぐれには対応しない等も挙げられている。
経済ジャーナリスト磯山友幸氏による、月刊Wedge連載「地域再生のキーワード」のなかに登場する方々が登壇する「未来を創る財団」(國松孝次会長)主催「地域おこし人サミット」が昨年開催され、筆者はコーディネーターとしていくつかのセッションを担当したが、なかでも「共感資本主義の持つチカラ」として、日本ファンドレイジング協会代表理事の鵜尾雅隆さんと北海道に戦後初めて新たな酒蔵を建てた上川大雪酒造の塚原敏夫さんを中心に議論した。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14914
このなかで、鵜尾氏が、『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)の著者リンダ・グラットン教授が、AI時代になっても、人間が絶対に負けない力が3つあるとして「想像力」「問題解決力」そして「共感力」であることを紹介している。
周囲から働きかけを受けた人が様々な価値判断を乗り越えて「同じ気持ちになって」働きかけに応じたり、「止むにやまれない気持ちになって」また周囲に紹介したりと行動に移す元になっているのが「共感」しているという状態だ。21世紀を迎える頃から始まった「インターネット通販」では、多様な品ぞろえと「行動ターゲティング広告」によるレコメンドで「便利で配達までしてくれる」買い物が進み、実店舗での購買には、思いがけない「新しいモノとの出会い」や、より「楽しさ」がないと流れてこなくなってきている。
セッションでは「共感資本主義」と銘打ったが、本当に共感でないと生き残らないのではないかと思っている。
共感による行動の最たるものは「社会貢献活動」だ。その両輪は「ボランティア」と「寄付」だが、NPOなどではとりわけ「寄付は共感のバロメーター」として、寄付額が伸びていっていること自体、共感が広がっていると実感している。それはおカネには色はついていないが、寄付者からの「こういうことを実現してほしい」とか「頑張ってください」という想いがこもっているので、寄付を受け取ると温かい気持ちになるし、がんばって成し遂げなければという気持ちになるからだ。そしてこれは、企業や行政サービスにおいても「共感」を生むことで、購入に対して感謝が生まれ、周囲に勧めるなど同様のことが発生する。
ある経済学者の分類によれば、経済には貨幣価値(値段・値ごろ感)や付加価値感などが尺度と購買が進む「貨幣経済」に対して、気持ちが動いて財布の紐を緩めてしまう「情緒経済」があり、そのバランスの上で購買が成り立っているという。共感による寄付という支援(応援)は、まさに「情緒経済」の面が色濃く出たものと言える。
持続可能な開発目標(SDGs)は2015年国連サミットにおいて全会一致で採択された2030年までの国際目標。貧困をなくす、働き甲斐のある人間らしい仕事、安全な水とトイレ、気候変動対策など17分野にわたっている。途上国・先進国が共通するゴールとして、政府、自治体、市民活動団体だけでなく、企業が取り組む経営指標としても注目されてきている。いわば同じ物差しで共通のゴールを目指していこうとするものだ。企業にとってはこれまでの企業の社会的責任(CSR)や、本業を通じた社会貢献(CSV)からさらに進んで、事業活動そのものが社会的課題の解決と一体化しているかどうかといった経営戦略(SDGs経営)にまで踏み込んでいく。ここでは、これまでの顧客接点面での強化(CS)や商品サービスの高品質化だけでなく、フェアなサプライチェーンなど企業としての理念や姿勢といったものに「共感」して購買するなど、もっと本質的なところが問われている。
人の脳は全体重の2%の重さに過ぎないが、実はエネルギーの20%以上を消費する高サイクル超高性能エンジン。ものすごく高性能なので、2時間ぐらいでエンジンが焼き切れてしまう。だから人の話を一生懸命聞くときは、脳はフル回転のため、人間の集中力は2時間程度しか続かない。一方、情報過多社会に流通する情報量はどんどん増加する一方で、処理量はそんなに伸びない。その差が少なかった時には「情報リテラシー」として自分なりの情報源を駆使して「情報を読み解く能力」が大切なように言われていたが、とてもじゃないが認知できないぐらいの多くの情報が流れてくると、読み解くよりも、自分の信頼する人とか、知っている人が「いいね」していたり、発信したりしている情報を「信頼して」読むとか、新しいフィルターで絞りこんで情報を受け取る傾向が顕著になってきている。つまり「いいね」は共感の入り口となっている。
AI時代の到来は決して悲観ではなく、AIやオート化にまかせられるところはまかせて人口減少社会の処方箋として、共感を軸とした組み立てなおしを考えていきたい。それはどんなにテクノロジーが進んでいっても機械と機械が購入するのではなく、人が買っているからだ。共感資本主義がますますこれから広がっていくように思えてならない。