
経営/マネジメント
ドナーレンジチャートから支援者が応援しやすい寄付メニューを構築する:ファンドレイジングの教科書 第8回
ファンドレイジングの教科書
▷ 1.まずはステークホルダーを分析、そこからステップアップ戦略を
▷ 2.そのつぎに、自団体の強みを認識するSWOT分析する
▷ 3.業界をみて他との区別できるか、ポジショニングを分析してみる
▷ 4.ステップアップ戦略をとるために、各階層にはどれぐらいの支援者が現在いるか
▷ 5.過去の寄付額はどれぐらいの金額かをドナーレンジチャートで
▷ 6.支援者のペルソナをしっかりと把握する、ヒアリング、その先のドナージャーニーも
▷ 7.支援者に応じた基本メッセージの発信する
▷ 8.ドナーレンジチャートから支援者が応援しやすい寄付メニューを構築する
▷ 9.広報ツールを棚卸して、支援者コミュニケーションの頻度も検討する
▷ 10.支援者拡大のためのツールを作成する
本シリーズ「ファンドレイジングの教科書」は、ファンドレイジングの戦略的な活用を初めて取組していこうとする団体・組織向けに、これまで当社へご相談いただいた内容をもとに、実践的なノウハウを紹介して、自分たちだけでもここまでできると「小さな成功体験」を持ってもらうために、構成している。
最初からすべてうまくいくとは限らないが、それでもここに詰まっていることをひとつでもふたつでも実行して、例えうまくいかなかっても、うまくいった時と同じく経験の1ページは増えるので、それを次に活かしていくこと。その積み重ねで振り返ってみると成長を感じることができるようになる。
さて、今回を含め、あと3回であなたの団体・組織のファンドレイジング戦略は、格段に飛躍する。ひとつでもふたつでも実践を積み重ねっていってもらいたい。
ドナーレンジチャートを活用して目標を立てる
本シリーズに第5回で「ドナーレンジチャート」を取り上げた。これは、寄付額のいくらからいくらまでといったゾーンごとに、寄付額と人数、そこから求める人数比、金額構成比を算出した表のことで、どのあたりのゾーンに寄付者は多いのか、「パレードの法則」のように「2割の支援者が全体の寄付額の8割を占めている」といった傾向が全体像として把握できるようになる。またそれらをもとにして、目標額を積み上げでたてることができることについても紹介した。
過去の寄付額はどれぐらいの金額かをドナーレンジチャートで:ファンドレイジングの教科書 第5回
実際の戦略では、単に寄付金額を見つめるだけでなく、具体的に一人一人の寄付者の顔を思い浮かべて、それこそ、第6回でつくった支援者の「ペルソナ像」をもういちど見つめなおして、この人に団体・組織のことをもっと好きになってもらうにはどうしたらよいか、もっとステップアップしてもらうにはどうしたらよいかを考えることになる。
支援者のペルソナをしっかりと把握する、ヒアリング、その先のドナージャーニーも:ファンドレイジングの教科書 第6回
支援者の状況や市場環境を踏まえたうえで、どうしたら、なりたい状態(ビジョン)が実現できるのか、これらを筋道を立てて考えて実行することを「ファンドレイジング戦略」と呼ぶ。逆に言えば、戦略を検討する際に、目標額に達するための実行可能な「仮説」をいくつも積み上げて、成功を呼び寄せていく。戦略には、目的、目標、作戦、手順、必要資材などがまとめられると思うが、(戦略=キャンペーンとは、軍事用語からスタートしている)その中で目標額を達成するための構成を考えるのが最も中心をなす。
ドナーレンジチャートで目標をたてる際に、以下のような説明がある。
「レンジごとの価格帯はすこし金額アップを図って記載している。これは前回に寄付いただいた方に対して、同額を寄付してもらうだけでなく、さらに増額してもらおうということであるから、それなりのアプローチが必要となる。」
これを実現するために、どのような手立てを立てるかを解説していきたい。
単価アップを図る
例えば、クラウドファンディングのプロジェクトを実施した人であれば、支援金額ごとにリターン品を用意して「支援メニュー」として並べて見せたことがあるだろう。本来であれば、寄付金額を決めるのは自由裁量でいくらでもよいかと思うが、それでは選べないので、支援しようとする人が選択しやすいように「異なる価格帯」のレンジメニューを用意するようになってきた。この方式は、通常の「一回だけの寄付」などでも同様の仕組みが導入されて行っている。
ドナーレンジチャートを見つめなおして、どの価格帯ゾーンに多く集まっているかに注目してみる。

図1:過去のレンジチャートから目標額
前回のレンジチャートを再掲してみると、5,000円未満が300人(人数構成比51.8%)になっている。これに着目して、この5,000円の人々にまずは「単価アップ」で6,000円を支援してもらえるようにしていきたい。ただそのままでは、単に「値上げしたな」と言われてしまいそうなので、価格帯として「2000円」の下のレンジは設けておく。
実は5,000円の人に6,000円にしてもらうのは、50,000円の寄付をしてしてもらっている人に60,000円へしてもらうよりも難しいのだが、その心理を打ち破るような手立てを考えるようにする。「売上=単価×件数」という黄金律は変わらないので、単価をその価格ならばそれ以上の価値があると感じさせる「お得感」をもたせるというのがまず第一だ。
- あきらかに価格以上と感じるリターン品を用意する
- この価格帯に魅力的なリターンなどの寄付メニューを数多く用意して同価格の中でも選べるようにする
- いままでこの価格帯で用意していたリターン品をさらに魅力アップさせる
レンジの切り上げを行う
先ほど「実は5,000円の人に6,000円にしてもらうのは、50,000円の寄付をしてしてもらっている人に60,000円へしてもらうよりも難しい 」と記載したが、これは実感値としても、多くの組織の人がうなずくのでないかと思う。おそらく、5,000円の寄付の人と50,000円の寄付の人は可処分所得が異なるとか、経済的な基盤が異なっており、同じような2割増しなのだが、はるかに50,000円の人のほうが許容範囲が広いので、受け入れてもらえる。
もうひとつは、5,000円の人はドナーレンジチャートでわかったように、人数構成比が大きいので、ひとりひとりに働きかけて単価アップを図るのは労力的にも大変だが、50,000円の人はもともとの数も少ないので、丁寧に関係性を維持していくことで、アプローチの結果を得やすいということになる。「パレードの法則」のごとく、少ない構成員が全体の総額に大きな影響を与えることから、こちらのほうも容易であり、効果も高い。
ポイントとしては前回の寄付を預かりしてから適切な活動報告など感謝を込めた「あなたと一緒に実現できたこと」を伝えることによって、組織・団体と支援者の間で関係性が深耕化していることで、一定の信頼関係、寄付したことに対する成功体験があることである。
そうであれば、それまで設定されていた50,000円のレンジをなくしてしまって、60,000円のレンジにしても、かなりの割合でご協力に応えていただたけるようになる。ただし、これは何度も使えない手であり、また60,000円ならばよいか、80,000円だと高く飛躍しすぎているなど、細かく心理を読み解くことが必要である。
- 前回と同様の見せ方をあえてとる
- ダウンレンジにならないように、下限の価格帯をよく考えておく
- 個別のお願いをしっかりとしておく
ストレッチゴールとコンフォートゾーンのゴール
目標には、希望的な要素をもったストレッチゴール(達成できる目標よりもすこし高めの目標額)とコンフォートゾーンのゴール(達成が安全可能な範囲)がある。Want目標とMust目標、日本語では「努力目標」と「必達目標(必須目標)」といわれているものと同様だ。これについては、以下に記載しているのであわせて参考にしてもらいたい。
寄付目標額を立てるには?:ソーシャルセクターのお悩み相談BOX 第13話
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