
経営/マネジメント
過去の寄付額はどれぐらいの金額かをドナーレンジチャートで:ファンドレイジングの教科書 第5回
ファンドレイジングの教科書
▷ 1.まずはステークホルダーを分析、そこからステップアップ戦略を
▷ 2.そのつぎに、自団体の強みを認識するSWOT分析する
▷ 3.業界をみて他との区別できるか、ポジショニングを分析してみる
▷ 4.ステップアップ戦略をとるために、各階層にはどれぐらいの支援者が現在いるか
▷ 5.過去の寄付額はどれぐらいの金額かをドナーレンジチャートで
▷ 6.支援者のペルソナをしっかりと把握する、ヒアリング、その先のドナージャーニーも
▷ 7.支援者に応じた基本メッセージの発信する
▷ 8.ドナーレンジチャートから支援者が応援しやすい寄付メニューを構築する
▷ 9.広報ツールを棚卸して、支援者コミュニケーションの頻度も検討する
▷ 10.支援者拡大のためのツールを作成する
本稿も折り返し点であり、いよいよ具体的な目標値をたてていくところへ差し掛かってきた。過ぎ去った時間である「過去は変えることはできない」が、過去から学び「未来に向けて備える」ことはできる。組織の成長を生み出していくいくために、前回に引き続いて、過去データを見つめることから始めていきたい。
参考 ◆ステップアップ戦略をとるために、各階層にはどれぐらいの支援者が現在いるか:ファンドレイジングの教科書 第4回
まず、過去のキャンペーンによる寄付額をみてみよう。ポイントはひとりひとりの寄付者はどれぐらいの寄付額で寄付しているのかを「全体像でつかむ」ことである。ひとりひとりの寄付額を眺めていくだけでは、その把握ができないので、寄付額をいくらからいくらまでというようなゾーンでみて、各ゾーンにはどれぐらいの人数がいるのかを見つめてみよう。
このゾーンごとに寄付額と人数、そこから求める人数比、金額構成比を算出した表を「ドナーレンジチャート」と呼ぶ。
「ドナーレンジチャート」からわかること
実際のドナーレンジチャートを作成したものを使って解説しよう。

図1: ドナーレンジチャート
こちらは、ある団体が年末募金キャンペーンで実際に集めた寄付額をドナーレンジチャートで整理したものである。総額630万円(580人からの支援)であるので、平均の寄付額は一人当たり10,862円ほどになる。寄付額を眺めていくときに、総額だけでなく、常に平均額を出して眺めるくせをつけておくといろいろと気づくことが多くなる。
このキャンペーンで圧倒的に多い寄付額は「5000円未満」で、300名と全体の半数以上(51.8%)を占めている。このゾーンの平均額は1,333円で、多くの人々に支えられている団体だなぁと関心をするのだが、しかしながら、5000円未満の寄付額合計は40万円で全体の寄付額からみれば構成比はたったの6.3%となっている。つまり約半数の方々からのご寄付は、全体の寄付額のわずかでしかない現状が把握できるだろうか。
逆に寄付額の上位をみてみると、20万円以上の寄付者は5名で、人数比は0.8%ながら、金額合計150万円は、総額630万円の23.8%を構成していて、大変存在感を示している。続いての5万円以上20万円未満は人数構成比4.3%の25人ながら、金額構成比では31.7%の200万円を占め、1万円以上5万円未満のレンジでは人数構成比17.2%の100人で金額構成比23.8%の150万円とこちらも存在感が大きいことが分かる。
これらを合わせて、1万円以上の寄付者は人数合計では130名と総数580名の22.3%にすぎないが、寄付額では500万円と総額630万円の実に79.4%を占めている。ここからはまたマーケティングでよく活用される「パレードの法則=80:20の法則」→「全体の数値の8割は、全体を構成する2割の要素が生み出している」が見出すことができる。
※パレートの法則は、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した法則で、 成果の8割が全体の2割からであることを示す考え方として、売り上げの8割は、2割の優良顧客によって生み出されているなど、上位2割の要素が大きな成果につながるケースで用いられる。
ドナーレンジチャートをつかって次の目標を立てていく
依頼するための最適な機会は、1か年後ということで、年末募金キャンペーンの一年後の年末キャンペーンの目標額をたてていこう。先ほどのドナーレンジチャートをつかって目標額をたてたのが、下の表になる。

図2:ドナーレンジチャートと目標額
ドナーレンジチャートで価格帯ごとのレンジが把握できたので、次はその目標額もレンジごとに検討していく。レンジごとの価格帯はすこし金額アップを図って記載している。これは前回に寄付いただいた方に対して、同額を寄付してもらうだけでなく、さらに増額してもらおうということであるから、それなりのアプローチが必要となる。具体的には価格帯が高いところをお願いしていく先には、ひとりひとり訪問してアプローチするとか、その方にだけ提供する体験型のお礼の機会を設けるとかなどが考えられる。レンジごとの人数を見つめなおして、ある価格帯が弱いことがわかればそのゾーンの満足度を高めるためにはどうしたらよいか、どうしたら興味を引きづけることができるかを考えてみる。
また目標人数に達するためには、すこし多い目の候補者数を確保してアプローチしていくことになる。こうした候補者数に対して目標人数へ達するようにできるようになるには繰り返してこうした取り組みを進めていくと効果が高まっていく。
この結果、目標人数708名、総目標額950万円のキャンペーンの目標数が決まっていくが、なんといってもこれまでの努力が積み重なっているので、何とかしたいと気持ちが団体側にも支援者側にもあるので、募金キャンペーンが拡がって、団体側から寄付者に対して打診するだけでなく、寄付者が次の寄付者を連れてきてくれる「ファンドレイザー」となると、キャンペーンは広がりをもって発展していく。
寄付の働きかけをしていく本当の意味
寄付の働きかけによって、目標とする寄付額が達成することももちろん大切なのであるが、それよりも働きかけをすること自体に意義があると思っている。例えばクラウドファンディングの平均的なコンバージョン率(サイトのページを訪れて実際に寄付にまで至った率)は、たった3%にすぎない。
それほど寄付してもらえるということは大変なことなのだが、だからこそこの3%の人々が尊い、有難いというとともに、サイトに訪れたけれどもという残り97%も大切だと思っている。それは97%の方々は少なくともサイトに掲載されているプロジェクトのページを読んで、それでも、たまたま、寄付しなかったにすぎない。少なくともページは読んで、そこに存在している社会課題について認識し、共感して、寄付という行為までには及ばなかったけれども、課題と解決策については知ってもらえたということが大切なのだ。
多くの人に知ってもらい、多くの人々の認識が変わること。それこそがまさに「社会に変化が生み出された」ことになり、働きかけていくことの本当の意味である。お金が欲しいことは間違いないが、それだけでなく、課題に対しての共感者を求めていくこと。これがあるから働きかけをまた重ねていくのだ。
参考 ◆寄付目標額を立てるには?:ソーシャルセクターのお悩み相談BOX 第13話
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