コミュニケーション
実践編)クラウドファンディングに取り組もう!!プロジェクト・ストーリーの書き方
コロナの影響によって、クラウドファンディングでは、これまであまり多くなかった「1億円越え」のプロジェクトが多数出現している。
背景としては、第一に自然災害が発生するとその地域に住むすべての人々が当事者になるが、今回は日本中、世界中のすべてが当事者となって「ステイホーム」を実践せざるを得ない中で、オンライン状況下での様々な取り組みが進展した。何かと不安にかられ、耐乏した新しい生活様式を過ごしながら希望の方向を模索していくうちに、社会に役立つため自宅に居ながら何かしたい。しかし巣ごもりでは出かけていってボランティアすることはできない。だったらいまできる社会貢献は寄付だと、多くがそちらへ流れていった。
第二に自然災害の場合には日赤や共同募金会などを窓口として「義援金」口座が設けられるのが、今回は一地域に留まらず全国・全世界的であったことから、特定の口座は設けられなかった。そのため、寄付したいと思った時に自ら探して、とりわけ各種のクラウドファンディング・サイトを見に行ってプロジェクトを選んだ方が多かった。著名人なども同様にコロナの影響を受けながら自ら寄付すると共に、プロジェクトを立ち上げて周囲へ寄付を呼び掛けて、共感を得て多くの支援が集まった。
第三には、国民一律に定額給付金が支給され、その一部を寄付した人が一定層居たことも影響している。定額給付金をちゃんと受け取り、寄付へ廻そうという動きやそうした連携寄付のサイトができたことなども大きい。「自分はまだましだから、困っている人へずぐに役立ててほしい」と、給付金支給のニュースか流れた途端に実際の支給はまだされていないのも関わらず、10万円を握りしめて窓口に持ってこられた方がいたという話を日本中いくつもの団体から伺った。またこれまでは寄付する先として社会的課題の解決を図るNPOや財団法人などの非営利組織であったが、今回はそれだけに留まらず、例えば売り上げの減少した飲食店や小劇場とか、鹿島アントラーズや浦和レッズといったプロチームなど多様な事業者に向けて寄付が集まった。こうした寄付の多様性の拡大が拍車をかけたと推察している。
だからこそ今、クラウドファンディングを始めよう
こうして寄付を行って、寄付の成功体験を持った人は、一定期間のインターバルの後、また寄付しよう、寄付したいという気持ちが必ず沸き起こってくる。
寄付集めをしている団体からよく伺うことの一つは、寄付していただいた方から「寄付をさせてくれてありがとう」「こんな機会をいただいてありがとう」と言われることだ。団体からしたら「資金調達できてありがたいのはこちらのほうなのに、逆にありがとうといわれるなんて」という気持ちになるのだが、寄付者のほうからは「役立つことができて本当に良かった」と感謝されるというのだ。
内閣府の社会意識に対する世論調査から「社会に役立ちたいと考えている人が多い」ことなどをあわせて考えていくと、利己に走りがちな世の中で、利他によって善いことを行った、役立つことができた、必要とされている機会に応えることができたことに、この上ない満足感を味わっていることが伺い知れる。「満足感」=「寄付の成功体験」を得た人は、必ずまた寄付へと向かう。そうした機会に備えて、ぜひ今、あなたへクラウドファンディングを始めることをお勧めしたい。社会的な課題解決のために、周囲に働きかけて、共感を軸として賛同を集め、それが資金化していく中で、こうした「ありがとう」をいっぱい集めていこう。
※内閣府・令和元年度「社会意識に対する世論調査」(4)社会への貢献意識
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-shakai/2-1.html
クラウドファンディングは、実現したいと考えたアイデアを一般の人々に呼びかけて資金を調達するしくみで、ソーシャルネットワーク(SNS)とインターネットの力を利用して、人々へ呼びかけ、必要な資金を調達し、世の中の困難を克服し、目標を達成するのを支援する手段を提供している。
プロジェクトの実行者は経験や繋がりがなくても始められ、資金調達だけでなく、商品やサービスの開始前からPR活動を開始してファンづくりもでき、実際に市場ニーズがあるかを調べることができる。また目標額が達成した時にだけ(クラウドファンディングの多くが採用しているAll or Nothing方式の場合)、プラットフォームの手数料が発生したり、支援者へのリターン(ギフト)が発生するので、最初は少ない元手でリスクをとらずにスタートすることができる。
支援者のほうもクラウドファンディングを使うことで居ながらにして、できる範囲でプロジェクトに参画できる。知り合いを助けたり、双方向のコミュニケーションをとることで、同好の方とのコミュニティ全体を助けたりするだけでなく、魅力的なリターンを得たり、社会との繋がりを実感し、自分が応援しているプロジェクトだからと、SNSを通じて他の人におススメしたりシェアしたり働きかけたりと、あらゆることができる。
これまでのネット通販などが「いま、世の中にあるものを居ながらにして手に入れることができる」に対して、クラウドファンディングでは「まだこの世にはないけれども、みんなが欲しいなと思ったものを創り出す」という違いがある。
筆者はコロナ渦でのプロジェクトも複数手掛けたことを始め、これまで70を超えるクラウドファンディングのサポート経験をもち、今でも進行中の案件がいくつかある。そうした経験を踏まえて、クラウドファンディングのベストプラクティスを紐解くと「説得力のある話(ストーリー)で共感を集める」「新しい情報発信をシェアしてもらう」「感謝を伝える」の3点に尽きる。この中でも今回は「説得力ある話で共感を集める」に焦点を絞って紹介したい。
説得力あるストーリーとは
成功したクラウドファンディングのプロジェクトは、しばしば、困難に打ちのめされても何度でも立ち上がってくる勇気あるストーリーを真剣に語り掛けることから始まっている。こうした場合には、SNSなどでストーリーの一部を目にして関心を持ちプロジェクトページへと誘導されてきた訪問者が、現状の困っている事態や要望に対して、まだ実現していないがあたかもそこに広がっているがごとく実現した後の世界を語り掛け、そのストーリーに説得された方が、納得して寄付を行っている。そして寄付した後には、こんな素晴らしいプロジェクトに出会ったことを周囲に伝えたくなってしまう。
このように説得力のあるストーリーは、受動的な訪問者でさえも能動的な支援者や共有者に変えてしまう。
従って、プロジェクトの紹介文を書き上げた時にチェックすべきことは
「あなたの話は人々を寄付に駆り立てることができるか?」
「解決すべき課題がよくわかり、より説得力があるか?」
という点だ。
プロジェクトを物語るストーリーがより魅力的で、より効果的に伝えることができれば、読んだ人は次々と応援したくなってしまい、自分で寄付するだけでなく、周囲の人に「一緒に応援しよう」と声をかけてくれたりする。誰に頼まれたわけではないが、自分でもそうしたい、このプロジェクトが実現してほしいと心から願うようになってしまうからだ。
ストーリーを書き出すのヒント
プロジェクトの内容を5W1Hで整理する
いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのようにして、そのプロジェクトを実行するのかを整理していく。その際に、大切な事は「何ができるかではなく、何が変わるか」なので、とりわけ次のWWHで絞り込むとはっきりとしてくる。
「What(何をやってるのか)」
「Why(なぜ私はこれをやってるのか)」
「How(どうやってやるのか)」
そして、心からそれを伝えること。あなたの支持者に対して正直で率直に語ること。
なぜ自分たちの事業がとびぬけているかを書き出す
ゴール設定を明確にして、非常に重要である理由を身近な人々へ伝えるようにする。また必要とする調達金額はいくらで、それはどのように役立ち、何に使われるのかを明確に説明する。その中で強調ポイントが整理されていることが大切で、専門用語を使わずに、ストーリーを語り、達成したからの次のアクションも用意しておく。
自分があきらめきれない理由をしっかりと伝える
自分は何者か(なぜ自分が取り組むのかの理由)、このプロジェクトをやろうときっかけになったこと(その時点に遡って、そこから現在までどんな準備をしてきたかを)、どういう事業なのか(ビジネスとして成立する理由)、テストした結果はどうだったか(人から求められている理由)、あなたに話をしている理由(情報拡散、投資を受けたいなど協力を得たい内容)
写真や動画を活用することはとても重要だ
どのクラウドファンディングでもプロジェクトページだけでなく、クラウドファンディングのトップページなどで、トップ画像とプロジェクトタイトルをサムネイル(縮小見本)として表示される。プロジェクトページでは一枚の大きな写真であるためわかっても、サムネイルの小さい画像では、まず伝えたいことがわかるかどうかを入念に確認することが大切だ。プロジェクトのタイトルも、限られた字数制限で表現をしなければならない。本文のストーリーが書き出せたら、今度はトップ画像とプロジェクトタイトルを吟味しよう。
支援者は画像を通じて、プロジェクトがどんなことに役立つのか、メンバーとつながっていると感じることができる。またプロジェクト主催者自らが自分の言葉で語る動画(ビデオ)は、とても発信力をもち、どのような課題があるのか、どんな解決策によってどんなことが良くなるのか、どんな世界を目指すのかを訴えかけてくる。プロジェクトが実現したあとの姿もイメージさせることも可能だ。同じ内容をプロジェクトページにテキストとして書かれているよりも、1分間のビデオで描き出されたもののほうが心象に残り、インパクトも大きくなる。
プロジェクトページにタイトルを付ける
実はプロジェクトを紹介するページは、構成さえ間違わなければ、どんなに長くても魅力付けをすることで、最後まで読んでもらえるし、説明や表現に創意工夫を加えることができる。それに比べて、プロジェクトページそのものを総称するページタイトルは実に難しい。本や映画のタイトルと同様に、それだけで他の人々を引き込んだり、呼び込んだり、拡散したりすることになる。それはシェアされた時に、見知らぬ人々がソーシャルメディアで最初に目にするものであり、あなたのプロジェクトページの入り口となる見出しだ。
ストーリーを書きあげた後に、プロジェクトページのタイトルを充分に吟味しよう。
ストーリーそのものを短く要約したり、現在の状況となりたい未来の姿を一文で表現するなどができればよい。日本には俳句短歌など限られた字数の中に世界観を盛り込む表現をずっとしてきた文化がある。季語、隠語、四字熟語や短縮形、匂わせ、記号など現在でも工夫した文章や単語を圧縮したり、意味を込めるやり方があるので、それらをうまく組み合わせて活用したい。
優れたストーリーになっているかを確認する
クラウドファンディングのページには、このプロジェクトを行う意義(コーズ)と支援者(ニーズ)にあわせた表現をとるようにする。誰へ訴求するか(ターゲット像)、どんな訴求ポイントがあるのか、心に残るようなキーワードを埋め込み、発音しやすくシェアしやすいキャッチコピーになっているか、支援者視点で共感できるストーリーか、リターンは支援者視点で実利感あるものになっているかを確認する。
具体的な原稿構成としては、以下のようなものが考えられる。
原稿構成(大枠)
- 今の危機感(現状)+動画メッセージ
- 今必要な解決策とそれを実行する覚悟と支援のお願い
- クラウドファンディングの資金で実現できること
- 誰が実行するのか(=信頼できる組織である活動実績)
- 困っている人の声 (現場からの声)
- 応援団の紹介 (社会的に信頼性のある人からのメッセージ)
- その他必要項目
- 領収書について(寄付金控除)
- ご注意事項
- 寄付以外で協力できる方法
これらを網羅したプロジェクトページができたら、次の3つの質問を自問してみよう。
- これらのストーリーは、理解と共感を生み出すことができるか?
- 強く印象付けたい具体的な側面は何か?
- 自分のストーリーにはどんな感情を伝えたいか?
さらにストーリーを研ぎ澄ます
数分をかけて、自分でなぜそのプロジェクトを進めるのかを感じとれるか確認しよう。
- 支援の必要性を説明するために、最も正確で心のこもった言葉は何だろうか?
- それは他の言葉で言い換えたほうがよく伝わらないか?
- 言いやすい、わかりやすい言葉にできないものか?
- ストーリーの構成は明確に意思が伝わってくるか?
- 前後を入れ替えたほうが、より印象強くなるのではないか?
- あなたのことを知らない支援者の観点から、あなたの話を読んでどうか?
フィードバックを得て、改善していく
プロジェクトページ、特にストーリーを自分自身で声に出して読んで、また信頼できる他の人に協力してもらってどのように聞こえるかを確認する。
次のようなフィードバックの質問を友達に尋ねてみる。
- 友達へ語りかけるように聞こえるだろうか?
- ぎこちなく感じたり、情報が足りない箇所はあるか?
- どの部分で読者は寄付するのは気を付けようとするだろうか?
- この話をシェアしたいというような個人的な興味や刺激はあるだろうか?
可能な限り良くなるように何度もプロジェクトを読み返そう。
さらによくするために
- 伝えたい人をイメージして具体的に響くための検討を行う
- 周囲の知人友人に率直な思い「なぜこれを実現したいか」を本気で語ってみる
- 波及効果の高い影響力をもつ人を積極的に巻き込んでいく
このようにして、いよいよ事前広報を始めて、いよいよクラウドファンディングのスタートを切ることになる。もちろん、プロジェクトページはそれだけで終わりではなく、文章も書き加えたり、新着の情報を記事として出したり、写真や動画を追加することを続けていかねばならない。
しかし、そうした積み重ねをする際には、あなたのプロジェクトを実際に応援してくれている支援者が集まり始めているので、彼らにもっともっと味方になってもらい、応援して良かったと感じてもらえるように、最善を尽くしていくこと。SNSでの反応を確かめながら、相手の顔を思い浮かべるように、何度も発信するテキストを吟味していく。この繰り返しで、きっとあなたのストーリーはさらに磨きがかけられて、説得力を増すようになってくるだろう。周囲の方々もぜひ応援したいと思い、支援して良かった「ありがとう」もいっぱい集まってくる。
本稿を読んだあなたに、きっとこうした近未来がやってくると信じている。