経営/マネジメント
モチベーションの4つの指向-Public Service Motivation(PSM)の4指標から考える
前回の記事では、PSM理論ではモチベーションとして4つの指標を上げているとお伝えしました。
<4つの指標>
- 政策形成への関心
- 公益への関与
- 思いやり
- 自己犠牲
記事をお読みいただいた方から、「自己犠牲」がモチベーションであることがピンとこない、というご感想をいただきました。
確かに、自己犠牲を推奨していくと、やりがい搾取と言われかねません。
Perryの「self-sacrifice(自己犠牲)」
「自己犠牲」は、PSMを提唱したPerryの原文では、「self-sacrifice」です。訳すとそのまま自己犠牲なのですが、言葉の意味合いとしてはアメリカ発の考え方なので、キリスト教の影響もありそうです。
この「self-sacrifice」、PSMの測定24項目では、例えばこのような内容になります。
- 私がしていることの多くは、自分よりも大きな目的のためです
- 社会に変化をもたらすことは、個人的な業績よりも私にとってより重要です
- 人々は、社会から得るよりも社会に還元すべきと思います
「自分よりも大きな目的」「得るより還元する」という意味合いで使い、測定しています。そもそも「個人」の考え方が日本とは異なっており、自分自身を犠牲にして他者貢献することを評価している概念ではありません。
モチベーション測定指標の発展
Perryは、上記4つの指標を更に24項目に細分化し、測定することで、公的サービスに従事する人はこの4つの傾向が強いという研究を行いました。
しかしその後、様々な研究によって項目の削除や入れ替えが行われ、測定項目として進化し続けています。韓国や中国、アイルランドなどでも検証研究が行われており、その際に言語の共通理解が統一できていないことは、すでに指摘されています。アイルランドのInstitute of Public Administrationの文献の中では、新たな視点として、「民主的なガバナンス」や「平等」「永続性」「説明責任」などが、他の学者により追加されていることなども記載されています。
〈参考〉
- Public Service Motivation – Institute of Public Administration
- 「Public Service Motivation and Civic Engagement」Fabian Homberg, Joyce Costello著(2019,Palgrave Pivot)
モチベーションの4つの指向
私自身は、この4つの指標を拡大して、以下のように区分けできるのではないかと考えています。
- マイナスの制度を良くする方向の関心 <課題解決志向>
- プラスの制度をもっと良くする関心 <価値創造志向>
- 自己の中のプラスの想い <喜び、楽しみへの共感>
- 自己の中のマイナスの想い <悲しみ、怒りへの共感>
外 | 内 | |
プラス | 価値創造志向 | 喜び・楽しみへの強い共感 |
マイナス | 課題解決志向 | 悲しみ・怒りへの強い共感 |
Perryの4つの指標を、このように拡大出来るのではないかと考えています。
- ①政策形成への関心 —政治制度を改革したいという、課題解決志向
- ②公益への関与 —公益サービスなどへ貢献する、価値創造志向
- ③思いやりと④自己犠牲:感情的尺度
- 喜び・楽しみへの共感
- 悲しみ・怒りへの共感
厳密に4つの指標を4軸で合致させるのは、特に③思いやりと④自己犠牲についてはとても難しいのですが、傾向としてはこの4軸で分かれると考えています。
まず外と内として、外側への関心が強いか、自分の内面から湧き上がる想いを大切にしているのか。行動に繋がりやすいのは、外側への関心①②ですが、それを生み出しているのはもしかしたら③や④など自分の感情かもしれません。またどれか一つが強いわけではなく、組み合わせもあると考えます。この4軸で自分の傾向を自覚しておくと、行動して困難に遭った時に、その出来事がどの象限を脅かしているのかを考えることができ、自分の原点に立ち返ることがしやすいと思います。そして、新たなチャレンジに繋がりやすいのではないでしょうか。
このような個人の中のモチベーションを自覚すること、組織としてそれを理解し支援することが、今後のソーシャル業界にとっても重要であり、組織の中で何らかの仕組みになることにチャレンジしていきたいと考えています。