コミュニケーション
寄付者のこと、どう呼んでいますか?
寄付メニューの正解
ファンドレイジングを考える時に、寄付メニューについてご質問いただくことがよくあります。単価はいくらが適切か、継続寄付は月次と年次どちらが良いか、選択肢はどのくらいあれば良いか。
たしかに、気になりますよね。どの組織にも当てはまる「絶対的な正解」があればよいのですが、私の知る限りでは、残念ながらありません。
ファンドレックスでは、これまでの寄付の傾向や、寄付者の方へのインタビュー、ファンドレイジングの目的(通常の寄付か、周年事業等のイベントか等)等を総合的に分析して、可能であれば段階的にテストもして、今のその組織にとっての最適なメニューを設計していくことが多いです。
寄付者を「ただの寄付者」にしない
どの組織にとっても「正解」になるような寄付メニューはありませんが、多くの組織で検討が可能で、寄付者との関係性をガラッと変えることができるポイントは、あります。
そのひとつが、寄付メニューのネーミング。
あなたの組織では、寄付者をどう呼んでいますか?
支援者、協力者、サポーター、スポンサー…?
寄付者の呼び方を考えるということは、組織にとって、寄付者がどんな存在かを考えることにつながります。寄付者を「ただの寄付者」にしないために。理解して応援してくれるファンや、一緒に未来を作っていく仲間になってもらうために、どんなネーミングが考えられるでしょうか。
5つのネーミング事例
ここからは、国内外の、寄付メニューのネーミングを工夫されている事例を5つ、ご紹介します。
① Cafe Reconcile
https://www.cafereconcile.org/
米国New Orleansで、貧困や暴力等、困難な状況にある若者の自立支援を行っているCafe Reconcile。社会から断絶された若者たちに対して、社会保障番号の取得やメールアドレスの設定といった基本的ことからサポートを行い、団体が経営するカフェで職業訓練の場を提供しています。
カフェは、地域住民や寄付者が訪れ、接客を受けながら彼/彼女たちの成長や変化を感じることができる場にもなっています。そのカフェの壁には、MAJOR BENEFACTORS(大の恩人)という銘板が掲示されており、寄付額によって寄付者を次のように呼んでいます。寄付者にどんな役割を期待しているのか、とてもよくわかるネーミングだと思いませんか?
Reconciler(和解・平和をもたらす人)
Changer of Lives(人生を変える人)
Builder of Hope (希望をつくる人)
左が銘板の写真。右は、カフェの伝票の写真です。通常チップの金額を書き込むところが、寄付金額を書き込めるようになっています。
② Morgan’s Wonderlad
https://www.morganswonderland.com/
車椅子のままでも楽しめるアトラクションがあるなど、障がいの有無に関わりなく、誰もが楽しめる世界初のテーマパークとしてつくられたMorgan’s Wonderland。2010年にオープンし、2012年からはTOYOTAがスポンサーになっています。
Morgan’s Wonderlandでは、この寄付がどんな意味を持つか、金額別に説明することで、寄付者が起こすアクションの価値を伝える工夫をしています。
Impact the community(コミュニティに変化を起こす)
Initiate acceptance(受け入れることをはじめる)
Invest in inclusion(インクルージョンに投資する)
③ ビッグイシュー基金
- ホームレスの人たちを中心に困窮者の生活自立応援
- ホームレス問題解決のネットワークづくりと政策提案
- ボランティア活動と市民参加
の3つの事業を柱に、各種のプログラムを通じて、貧困問題の解決と、「誰にでも居場所と出番のある包摂社会」の形成を目指しているビッグイシュー基金。
雑誌BIG ISSUEの販売をはじめとする就労支援や、路上生活から抜け出すための情報支援、定期的な健康診断、クラブ活動やボランティア活動の支援など、多角的なサポートを提供しています。
人が出会って伴走していくイメージでしょうか。ビッグイシュー基金の都度寄付では、金額によって次のような寄付メニューが用意されています。
市民信頼社会寄付 100,000円
社会包括マラソン寄付 50,000円
実践応援ラン寄付 20,000円
つながりウォーク寄付 10,000円
出会い寄付 5,000円
にっこり応援会員とひとり立ち応援会員という2つの会員制度も、かわいいネーミングですよね。
④ マドレボニータ
「母となった女性が、産後の養生とリハビリに取り組み本来持っている力を発揮できる日本社会」を目指して産後ケアプログラムの提供や情報発信を行っているマドレボニータ。
マドレボニータは、毎月継続して寄付してくれる支援者のことを「マドレ応援団」と呼んでいます。
月額500円~10,000円で7つのプランを用意し、さらに3,000円以上のプランは色分けもしています。シンプルですが、わかりやすいですよね。
マドレ応援団 ブロンズ
マドレ応援団 シルバー
マドレ応援団 ゴールド
⑤ 熊本城
https://kumamoto-guide.jp/kumamoto-castle/
最後は、1998年から「一口城主」というネーミングでファンドレイジングをおこない、18億円もの資金が集まったことで有名な熊本城。
2016年4月に発生した熊本地震では、熊本城も大きな被害を受け、一口城主制度も一時受付を停止する事態になりました。その後、制度再開を求める声が多数寄せられたこともあり、同年11月から「復興城主」制度として受付を再開。20億円近い寄付(平成30年12月31日時点)が集まっています。
参考:復興城主の募集ページ
呼び方を変えると、関係性が変わる
ファンドレイジングは、お金を集めるだけではなく、仲間を集めることでもあると、よく言われます。そして前述の通り、寄付者を「どう呼ぶか」は、「どんな存在として認識するか」につながります。
あなたの組織にとって、寄付者はどんな存在ですか?
その認識に合った形で、コミュニケーションできていますか?
寄付メニューは、そう頻繁に変えるものではありませんが、寄付者との最適な関係性はどんなものか、どんな名前ならそのイメージに近づくか、組織の中で考えてみるだけでもおもしろいですよ。そして、もし良いアイデアがまとまったら、ぜひ実際のメニューに取り入れることも検討してみてくださいね。