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インパクトラボ

支援者に応じた基本メッセージの発信する:ファンドレイジングの教科書 第7回

ファンドレイジングの教科書

▷ 1.まずはステークホルダーを分析、そこからステップアップ戦略を
▷ 2.そのつぎに、自団体の強みを認識するSWOT分析する
▷ 3.業界をみて他との区別できるか、ポジショニングを分析してみる
▷ 4.ステップアップ戦略をとるために、各階層にはどれぐらいの支援者が現在いるか
▷ 5.過去の寄付額はどれぐらいの金額かをドナーレンジチャートで
▷ 6.支援者のペルソナをしっかりと把握する、ヒアリング、その先のドナージャーニーも
▷ 7.支援者に応じた基本メッセージの発信する
▷ 8.ドナーレンジチャートから支援者が応援しやすい寄付メニューを構築する
▷ 9.広報ツールを棚卸して、支援者コミュニケーションの頻度も検討する
▷ 10.支援者拡大のためのツールを作成する


これまで、本稿をお読みいただいて感謝申し上げます。このシリーズでは集中連載「ファンドレイジングの教科書」として、たくさんの進め方がある中で、これだけを王道として取り組みしてほしいと基本へ立ち返って原理原則的な進め方を解説している。どの団体にとっても共通軸としてしっかりと身に付けることを繰り返して伝えている。どんな取り組みをするにしても、素養というか、基本は大切である。

映画「国宝」が素晴らしい興行成績で、実写映画の一位までも目指せるところまで来ているそうだが、歌舞伎の世界でも日常の中で基本を身に付けるために素養そのものを磨きをかけていっている。ここでは基本のことを「型」と呼ぶ。亡くなられた歌舞伎役者の中村勘三郎は、型、基本を身に付けることが大切だとよくおっしゃていて、型ができなければ「型なしになる」。それをしっかりと身に付けるからこそ「型破り」となると言われていた。歌舞伎の世界の中で伝統的なアプローチだけでなく、革新的な取り組みを実践された方だけにしっくりと心に届いてくる。

さて、前回までの教科書によって、組織の周囲にはどんな関係者が存在していて、その中で支援を受ける相手はどのようなプロフィールをもっていて、組織とはどんな接点を持つのか、或いはどんな「し好」なのかを記載されている取り組みによって明確になってきたかと思う。相手を具体的に認識できているからこそ、対応が可能となる。つまり相手の顔が分かるからこそ、相手の心にしっかりと届く、琴線に触れた表現などが可能になってくる。

メッセージの構成は、短くわかりやすく、実現したい姿を訴える

相手に届けていく基本メッセージを検討するために、自分たちは何に取り組んでいるのかをさらに深く掘り下げて考えておく。それはミッション(使命)から出てくる根源的な命題。取り組みのベーシックな部分だが、大事にしたいのはどんなことを実現したいのか、どんな社会を創り出したいのかということになる。それがビジョンと呼ばれる、近未来に実現したい状態である。これらをまとめておく(ミッションステートメント)。

ここからスタートして相手に伝えていく基本メッセージは、短く、実現したい姿を訴えかけていくことになる。

図1「ミッションから基本メッセージ」

初期のクラウドファンディングのヒット事例に「からっぽの図書館を本でいっぱいにしようプロジェクト」というのがある。このタイトルが実に秀逸で、今の困った状態「からっぽの図書館」と、なりたい(実現したい)状態「本でいっぱいにしよう」を短く一文で紹介している。シンプルな言葉の羅列を何度も繰り返して味わってもらいたい。

陸前高田市の空っぽの図書室を本でいっぱいにしようプロジェクト(https://readyfor.jp/projects/an_empty_library

相手に応じて、基本メッセージから言葉をつむぐ

ミッションステートメントをベースの考え方として、より相手に響く表現へと変化させていく事例についてこれからみていこう。相手が特定されているからこそ、相手へ刺さる言葉を活用したい。このアレンジを団体の中で取り組み、ベストなチョイスを進めたい。

【基本例】 芸術文化を地域で振興したい団体

[基本のミッションステートメント]

芸術を通じて、心を耕す
私たちは、文化芸術の力を信じ、地域社会に根ざした創造と対話を促進します。多様な表現が響き合う場を育て、未来への希望と人と人との絆を育みます。

【展開例】① 地域の若い人に向けて

地域での活動している拠点に立ち寄ってくれるのは圧倒的に地域に在籍している大学生や若い世代の社会人が多いことがわかった。寄付額はあまり多くないかもしれないが、彼らに振り向いてもらいたい。

[訴求ポイント]

  • 感情に訴えるビジュアルイメージ(心を耕す=種をまく、芽が出る)
  • 参加を呼び掛ける語り口(「一緒に」「あなたの力で」「力を合わすのは今」など)
  • 共感を呼ぶ言葉(自分ごと化できる)
  • 未来への投資感(自分の支援が何かを育てる)

まず視覚的なイメージを活用して、感情を司る部分から入ってもらい、基本メッセージを認識してもらう。その中で参加を呼び掛けて「仲間感」が醸成されていくようにしていく。次に、他でもない、自分に関連することなのだと自分事としてとらえられるようにして、最後に自分がどんな風に役立つかを認知できるようにしていく。そこに地域貢献、対話、創造など感性に寄り添う表現を検討していく。

[対象へのメッセージの例]

①「あなたの一歩から、誰かの表現が芽吹く」
芸術は、心にそっと種をまきます。
それは、時に沈黙をほどき、やさしく耕す力になる。
私たちは、地域に根ざした創造の場を育てながら、
世代や背景を越えて、人と人のあいだに光を灯したい。
あなたの寄付が、新しい表現の芽を育て、
希望の花となって、未来へと手渡されていきます。
さあ、一緒に、心を耕す旅へ。

②「“この街が好き”が、風のように広がっていく」
ふと耳に残る音、目に焼きつく風景、心に響くことば。
それを表す人がいて、それを受け取る人がいる。
そんな“好き”が、街のあちこちで響き合うように——
私たちは、文化の種をまき、育てています。
あなたの寄付が、街の記憶を未来へつなぐ力になります。
もっともっと、“好き”が重なる街へ。

③「文化を育てることは、未来への贈りもの」
音楽も、絵も、言葉も——誰かの表現が、誰かの心を揺らす。
その瞬間を、私たちはこの街の中で育てています。
あなたの支援は、まだ見ぬ表現者たちの背中をそっと押し、
観客の心に、静かな感動を届けてくれる。
小さな寄付が、大きな物語のはじまりになる。
今、あなたの想いを、未来へ手渡してみませんか。

具体的に役立てるポイントをいれて、寄り添う

今度は、対象が高齢者の場合にはどうだろうか?

年配者に向け呼びかける際は、人生経験に寄り添いながら、地域や人とのつながり、次世代への継承といった価値観に響く言葉を大切にしたい。また、寄付が「何に使われ、どう役立つのか」を明確に伝えることで、安心感と納得感を生み出していく。もし、実際の活動事例や写真などがある場合、それを添えることでさらに説得力が増すことになる。

【展開例】② 地域の高齢者に向けて

「自分の歩んできた時間や想いが、次の世代につながる」と感じられるように構成を検討する。さらに寄付の使い道を具体的に示すことで、信頼と共感を深めてもらえるようにする。

[訴求ポイント]

  • これまでの積み重ね・記憶イメージ(それを若い世代が受け継ぐ=芽が育つ)
  • 世代を超えたつながり(「出会い」「響きあう」「文化の根が深く長く育つ」など)
  • 使い道の明確化(小さな支援が大きな希望に)
  • みんなで未来へ向けた投資感(一人一人の思いが集まって、未来へ)

[対象へのメッセージの例]

①「心を耕す、その一歩が未来を育てます」
芸術は、心に静かに語りかけ、人生の節々に寄り添ってくれるもの。
私たちは、地域に根ざした創造の場を育てながら、若い世代が自分の思いを表現できる機会を広げています。いただいたご寄付は、子どもたちのワークショップ開催や、地域の文化イベントの運営、表現者の活動支援に活用されます。
あなたの一歩が、誰かの心に希望の花を咲かせる。
ご一緒に、心を耕す旅へ出かけませんか。

②「“この街が好き”という気持ちを、次の世代へ」
何気ない風景、懐かしい音、心に残る言葉——
それらは、誰かが表現し、誰かが受け取ることで、街の記憶として息づいていきます。私たちは、そんな“好き”が響き合う場をつくり、若い世代が地域の魅力を再発見できるよう支援しています。
ご寄付は、地元の文化を伝える映像制作、地域の語り部との交流イベント、若者による表現活動の支援に使われます。
あなたの想いが、街の未来をあたたかく照らします。

③「文化を育てることは、人生の贈りもの」
音楽、絵、言葉——誰かの表現が、誰かの心を動かす。
その瞬間を、私たちは地域の中で丁寧に育てています。
ご支援は、若い表現者の発表の場づくり、地域の文化施設の整備、世代を超えた交流の場づくりに活かされます。
小さな寄付が、大きな感動につながる。
今、あなたの人生の一部を、未来への贈りものとして届けてみませんか。

メッセージの構造化を活用する

「メッセージの3階層化」とは、「メッセージ(一番伝えたい核)」「キーメッセージ(鍵となる情報)」「サブメッセージ(補足的な情報)」の3段階に分ける概念が有名で、これらは「ピラミッド構造」とも呼ばれる。すなわち、

  • メインメッセージ:メッセージ全体の最も重要な部分。最も伝えたい核となる内容。
  • キーメッセージ:メインメッセージを支える鍵となる情報で論理的なつながりを持たせる。
  • サブメッセージ:キーメッセージを補足する具体的な情報や根拠。3階層で整理することで、伝えたい内容を簡潔にまとめる。

などの構造化を意識して、構成していく。これを進めるためには、トップダウン(最も伝えたいことを補完するキーやサブを集めるなど、上位階層から順に構成を下げて考えていく)とボトムアップ(ばらばらのテーマからグループ化してグループごとのテーマを考え、取り上げたい最も主張したいことをメッセージに絞り込む)のやり方がある。

図2トップとボトムアップ

別のアプローチとしては、本質的な価値を伝えていく際に、メッセージの中に主とするターゲットを階層化して想定することである。

  • 第1階層のメッセージは実利感を打ち出すだけでなく、「支援をするとこういうことが起こる」など、支援者自身に寄付を通じて起こる、解りやすい変化を提示する。
  • 第2階層では、第1階層のメッセージでは振り向いてもらえない層にまで切り込むため、ビジョン達成に向けた活動によって、関心層全体にプラスアルファの価値が生まれるといったメッセージを伝える。
  • 第3階層のメッセージは、社会全体や社会システム、価値観そのものなど、広く誰しもに通用して、関係しているレベルへのメッセージを盛り込んでおく。

こうしたテンションの違うメッセージを盛り込むことによって、人によって志向するところが異なるため、どこかで共感ポイントを見出していくと考え方である。

図3:三階層化

対話型AIのチカラも活用して

こうした対象となる相手の志向などを学習させた上で、それらが気に入る文章として言葉を紡ぎだしていくのは、チャットGTPやCopilt、Geminiなどが得意とするところなので、いろいろと対話を重ね合わせながら、進めていくとよい。

丸投げではなく、推敲することによってあなたの違和感が最適化を生み出すもとになっていく。

本稿で取り上げたい「ご質問」「ご相談」がございましたら、ぜひお聞かせください。

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